この記事では介護保険を使用することができる特定疾病について解説しています。
40歳を超えると自動的に加入することになる介護保険ですが、「介護保険を利用したサービスを受ける」というと介護が必要となった65歳以上の高齢者の方を想像する方が多いのではないでしょうか。
しかし、なんらかの事情で65歳以下の方でも介護が必要になることもあるでしょう。
実は、介護保険では40歳~64歳までの方でも特定疾病であると認められた場合に限られますが、介護保険のサービスを利用することが可能になっているのです。
ここではその特定疾病について解説していきますので、興味のある方は是非ご覧ください。
特定疾病には介護保険が適用できる
介護保険制度とは、介護が必要になった高齢者とその家族を社会全体で支えていこうという仕組みで、平成12年4月にスタートしました。
40歳になると自動的に加入することになり、毎月介護保険料を納めることになります。
65歳以上の第一号被保険者の方は、要介護認定を受けることによって介護保険のサービスを利用することが可能になりますが、40歳~64歳の第二号被保険者の方は「特定疾病」と認められた場合にのみ介護保険のサービスを利用することが可能になります。
介護保険が適用される特定疾病とは
先程の項目で40歳~64歳の第二号被保険者の方は「特定疾病」の場合にのみ介護保険のサービスを利用することができると申しあげましたが、特定疾病とはいったいどのような疾病なのでしょうか?
厚生労働省のホームページでは、
心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病であって次のいずれの要件をも満たすものについて総合的に勘案し、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因し要介護状態の原因である心身の障害を生じさせると認められる疾病である。
1)65歳以上の高齢者に多く発生しているが、40歳以上65歳未満の年齢層においても発生が認められる等、罹患率や有病率(類似の指標を含む。)等について加齢との関係が認められる疾病であって、その医学的概念を明確に定義できるもの。
2)3~6ヶ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高いと考えられる疾病。
引用元: 厚生労働省 特定疾病の選定基準の考え方
と定義されており、その特定疾病にあたる疾病は以下の16種類となります。
- がん(がん末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靭帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
16の特定疾病の診断基準
先程の項目で特定疾病とはどのような疾病のことを指すのか紹介しました。
介護保険制度において40歳~64歳までの第二号被保険者の方は、この特定疾病と認められないと介護保険のサービスを利用することはできません。
特定疾病に該当するか否かは介護認定審査会が主治医意見書をもとに行うのですが、ここでは主治医意見書を記載するにあたっての特定疾病に該当するかについての診断基準について解説していきます。
1.がん(がん末期)
がんは、医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったもののみが対象とされ、「組織診断か細胞診によって悪性新生物であると証明されたもの」または「組織診断か細胞診によって悪性新生物であると証明されていない場合は、臨床的に腫瘍性病変があり、かつ、一定の時間を空けて同一検査を受けて進行性の性質を示すもの」という2通りの判断基準のいずれかに該当している場合に特定疾病と認められます。脳腫瘍の場合には基本的に特定疾病とは認められません。
2.関節リウマチ
関節リウマチは、自他覚症状5項目と臨床検査2項目の合計7項目の内、少なくても4項目に当てはまるものをいいます。どこに炎症があるか、症状が続いている期間などによって認定されるかが決まります。最終的には自他覚症状・臨床検査・鑑別診断によって判定されます。
3.筋萎縮性側索硬化症
筋力の低下や筋萎縮などを引き起こす病気で、ALSとも呼ばれています。成人発症である・進行性である・神経所見・検査所見において一定の条件を満たすということが筋萎縮性側索硬化症の診断基準となります。
4.後縦靭帯骨化症
後縦靭帯が骨化して神経が圧迫されることによって神経障害が起こる病気です。脊椎X線像所見に加えて「四肢や躯幹のしびれ・痛み・知覚障害・運動障害、膀胱直腸障害、脊椎可動域制限、四肢の腱反射亢進・病的反射」といった自覚症状や所見が認められた場合に後縦靭帯骨化症と診断されます。
5.骨折を伴う骨粗鬆症
加齢などによって骨密度が低下するという病気です。低骨量になる骨粗鬆症以外の疾患や続発性コツッ訴訟証ではなく、骨評価の結果が一定の条件を満たしているということが診断基準となります。
6.初老期における認知症
脳の細胞が死滅したり働かなくなったりすることによって生活に支障をきたす状態のことで、記憶障害や失語・失行・失認・実行機能障害といった認知障害による多彩な認知欠損が発言していると認められるかが特定疾病の診断基準となります。
7.進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
筋肉が震えたり、こわばったり、反射障害が起こったりする病気で、まとめてパーキンソン病関連疾患といいます。進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病のそれぞれに発症した年齢や症候などの診断基準が設けられています。
8.脊髄小脳変性症
小脳という運動を司っている部位が異変をきたす病気で、最終的には寝たきり状態になります。運動失調を主要症候としている、経過が緩徐進行性、病型によっては遺伝性を示す、小脳や脳幹の萎縮が認められるかなどが診断基準となります。
9.脊柱管狭窄症
脊椎の中にある空間が狭くなることによって、中を通っている神経が圧迫されて様座万症状が現れる病気です。頸椎部・胸椎部・腰椎部のいずれか1以上の部において脊柱管の狭小化が見られるといったことなどが診断基準となります。
10.早老症
染色体の先天的な異常によって実際の年齢よりも早く老化が進んでしまう病気です。ウェルナー症候群・プロジェリア症候群・コケイン症候群に該当するか否かが主な診断基準になります。
11.多系統萎縮症
小脳・大脳・自律神経などに障害が起こる神経性の病気です。出ている症状によってシャイ・ドレーガー症候群(自律神経症状が強い)、オリーブ橋小脳萎縮症(小脳症状が強い)、線条体黒質変性症(パーキンソン症状が強い)に分類され、診断基準も変わってきます。
12.糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
糖尿病だけでは特定疾病とは認められませんが、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症の3種の合併症については複雑な認定基準があり、それらを満たした場合のみ特定疾病と認められます。
13.脳血管疾患
脳血管疾患とは脳の血管に異常が起こった場合に発生する疾患の総称です。アテクローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞・心原性脳塞栓症・その他の分類不能な脳梗塞・脳出血・くも膜下出血・その他の頭塞内出血が脳血管疾患となります。
14.閉塞性動脈硬化症
血管の動脈が硬くなることによって血管が詰まったりする病気です。症状によってⅠ~Ⅳ度に分けられており、Ⅱ度の間欠性跛行、Ⅲ度の安静時痛、Ⅳ度の潰瘍・壊死のいずれかであるかが診断基準となります。
15.慢性閉塞性肺疾患
肺気腫・慢性気管支炎・気管支ぜんそく・びまん性汎気管支炎が慢性閉塞性肺疾患に該当し、特定疾病と認められます。
16.両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
膝関節と股関節ごとにX線検査・歩行機能・痛みの度合いなどの様々な診断基準が設けられており、それらに該当する場合に特定疾病と認められます。
特定疾病で介護保険を利用するためには
要介護認定を受ける
40歳~64歳の第二号被保険者の方が介護保険のサービスを利用するためにはどの程度の介護が必要なのかという度合いを認定する要介護認定を受ける必要があります。
この要介護認定は誰でも受けることができるものではなく、先程の項目で解説してきた16種類の特定疾病であり、なおかつその要介護状態が6ヶ月以上にわたって続くであろうと予想される場合に要介護認定を受けることができるとされています。
ケアマネージャーに相談する
第二号被保険者の方が要介護認定の申請を行う場合は、第一号被保険者の方が要介護認定の申請を行う時と同様に要介護認定申請書に必要事項を記載する必要があります。
通常、申請書には住所・氏名・電話番号などの個人情報などの他に、主治医意見書の記載をお願いする医師の住所・氏名などを記載します。
ただ、第二号被保険者の方はこの他に、加入している医療保険の名称や特定疾病名などの記載も必要になってきます。
また、お住まいの地域によっては健康保険証のコピーなどが必要になってくる場合があるため、必ず担当のケアマネージャーに相談するようにしてください。
まとめ
ここまで介護保険を使用することができる特定疾病について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
解説してきたように第二号被保険者の方は特定疾病と認められなければ介護保険のサービスを利用することができません。
特定疾病にはそれぞれ細かな診断基準が設けられており、少し混乱してしまう方もいるかもしれませんが、いつこれらの疾病よって介護状態に陥ってしまうかはわかりませんので、この機会に特定疾病に関する知識を深めていただければと思います。