仮に病気や怪我によって体が不自由になってしまったとき、どんな不安が生じるでしょうか?
例えば脳梗塞の後遺症で、左半身が動かなくなったことを想像してみてください。
屋外は車椅子がないと移動できない、何かに掴まらないと歩けなくなった、かがむことができないから既存の和式トイレじゃ使えない…。
今回は、介護保険で出来る住宅改修の中でも、便器の取替えの場合に発生する付帯工事について解説して行きます。
住宅改修について
健康な時は全く問題がなかった玄関の段差、掴まるところが何もない廊下、昔ながらの和式トイレが自宅で生活するうえでの障壁となってしまいます。
住み慣れた自宅での生活を諦め、施設に入るしかないのでしょうか?
できることなら自分の力でなんとか暮らしていきたいのに介護を受けるしかないのでしょうか?
決してそんなことはありません。
介護保険を利用して受けられるもののなかに、住宅改修というサービスがあります。
これを有効に活用することで、例え体に障害が残ったとしても、自分の持てる力を活用して自宅での生活を継続できる可能性が広がるのです。
住宅改修ってどんな制度?
住宅改修とは、要介護認定(要支援1以上)を受けている方が利用でき、現在住んでいる家をバリアフリー化もしくは要介護者の動きを補助するように改造する工事を行った際に補助金を得られるサービスのことをいいます。
工事にかかった額のうち20万円を上限として最大18万円までの金額が補填されます。ただし、この金額は介護保険証に記載されている自己負担額の割合によって変動します。
対象となる工事は全部で6種類に分けられています。
なお、住宅改修を利用できるのは1度だけですが、要介護度が3段階以上悪化した場合、やむを得ず引っ越した場合は再度利用することができます。
どうすれば使えるの?
まずは、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)さんに相談しましょう。
すると、ケアマネさんが自宅を訪れます。
その後、要介護者本人の状態や自宅の様子を確認し、ケアマネさんと住宅改修の内容や方法についてまとめた計画書を作成します。
ができたら今度は住所がある役場に住宅改修を利用するための申請書類を作成・提出します。
この段階で業者の選定や見積もりが必要なりますが、書類はケアマネさんか契約する業者が代理で作ってくれることが多いです。
これらの手続きが完了すると、役場から許可が下り、着工となります。
完成後に料金を支払い、役場に完了報告をすると補助金が振り込まれるという流れになります。
利用する上での注意事項は?
住宅改修は頼りになるサービスですが、利用する上でトラブルになりがちな点として以下の2つがあります。
○すでに工事を終えている場合は対象にならない
通常のリフォームでもバリアフリー化することは可能ですが、住宅改修は介護保険のサービスです。
「手すりつけたいから補助金欲しいです」と事前の申請が大前提なので注意が必要です。「手すり付けたから補助金ちょうだい」は通じません。
○償還払いである
償還払いとは、まずは代金全額を支払い、後日補助分が本人に返ってくることをいいます。
介護保険サービスとしての住宅改修は償還払いが基本です。
いくら補助が出るとはいえ、まとまった金額を前もって用意しておかなければならないという点は注意が必要です。
住宅改修の種類について
では、具体的にどのような工事が対象となるのかみていきましょう。
手すりの取り付け
廊下、トイレ、浴室、玄関、玄関から道路までの通路等に転倒予防や歩行、移乗するための手すりを付けることです。
手すりの形状や高さをよく要介護者の状態に合わせることがポイントになります。
段差の解消
玄関から屋内までの段差にスロープを付けたり、浴槽が深くて出入りできないことを解消するためのかさ上げ工事、居室・廊下・トイレ・浴室など本人の日常的な行動範囲にある段差や傾斜をなくすための工事です。
日本家屋は部屋ごとに敷居があり、小さな段差が多いです。足が不自由な方にとっては、数cmの段差でもつまずきの原因となります。
なお、車椅子用の電動リフトやホームエレベーターといった“動力”を用いた段差解消手段は対象外となっています。
床または通路面の材料の変更
居室や浴室など屋内の床や玄関から道路までの通路を滑りにくい素材のものに変更したり、車椅子での移動を想定して畳から操作しやすいフローリングに変更したりする工事です。
日常的に四つん這いやお尻を床につけた状態で腕の力を使って移動しているような方の場合は、逆に滑りがよい素材のものに変更する場合も想定されます。
引き戸等への扉の取替え
車椅子での生活になると、奥または手前に動かして開くタイプのドアでは出入りが困難となります。
そのため、ドアそのものを取り払う工事が検討されます。
また、開き戸を横に引いて開ける引き戸や折り戸、アコーディオンカーテン等に変更することができます。
さらには、握力が弱くなった場合にドアノブの形を変更したり、引く力が弱くても動かしやすい滑りのいい戸車に変更するなどの工事も対象です。
2-3と同様、動力を必要とする工事は対象外になるので、例えば自動ドアを設置した場合の動力部分は対象外です。
洋式便器等への便器の取替え
基本的には、和式便器を洋式便器に取り換えたり、移乗がしやすい向きに便器の向きを変更するといった工事になります。
洋式便器に変更する際に、ウォシュレットや暖房便座機能がついていても対象になりますが、元々洋式便器だった場合は対象外になります。
2-3で例にあげたような、病気によって四つん這いなどの方法で移動している方の場合は洋式便器での排泄が困難な場合もあり、そうなると逆に洋式便器から和式便器に変更するケースもあります。
その他住宅改修に付帯して必要になる工事
上記5種類の工事を行うために必要な下地補強、浴室やトイレ内の段差解消や便器の変更によって生じる給排水管の変更改修や床材の変更や改修などが対象となります。
この項目は、判断しずらい側面もあるため専門家に相談し詳しく確認する必要があります。
便器の取替えをする場合の付帯工事とは?
では、特に便器の取替えをする場合の付帯工事を例にして詳しく解説したいと思います。
仮に和式便器から洋式便器に変更した場合、給排水管の長さや接続を変更することになりますので、それに伴う工事が必要になります。
ただし、汲み取り式から水洗化するための工事は対象外になるため、この部分は全額自己負担になってしまう点は注意が必要です。
変更する洋式便器にウォシュレットや暖房便座機能がついている場合は、それを使用するための電気工事も対象となる場合があります。
ただしこれは市町村によって対象とならない場合があるようです。
あとは、便器を取り換える際に伴って必要になる床材の変更が対象となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。住宅改修を必要とする要介護者さんの状況は、千差万別です。
同じ左半身麻痺の後遺症がある方でも、今までの生活習慣や同居する家族の状況によっても適切な工事の内容は変わってきます。
そのため、この住宅改修については市町村により判断に幅を持たせているケースもあり、また介護保険による補助金だけではカバーできないところを補うため、独自の補助制度を設置しているところも少なくありません。
体に障害を負ってしまったとしても、自宅で生活する方法が必ずあります。
決してあきらめず、専門家に相談してみることが重要ですね。