病気は数あれど、2人に1人はがんになると言われている現在、がんを原因として要介護状態になる方も少なくありません。
がんは俗に年齢が若いほど進行が早いとも言われており、特に末期ともなれば痛みとの戦いだけでなく、全身状態の低下により自力で動くことも困難になってきます。
そんなときに頼りになるのが介護保険制度です。体力の低下や痛みなどによって自力ではできなくなってしまったことの介護を受けることができます。
介護保険制度は、一見高齢者でないと利用できないと誤解されがちです。
実は特定疾病として定められている病気により要介護状態となった場合、40歳以上であれば介護保険を利用できる可能性があるのです。
そこで今回は、末期がんになってしまったときの介護保険の使い方について、詳しく解説していきます。
介護保険の特定疾病とは一体なに?
介護保険制度とは、主に65歳以上の方(第1号被保険者)が介護が必要になったときに、その原因を問わず必要な介護サービスを低額で利用できる制度です。
実は、それ以外でも若くして要介護状態となってしまった方に対する救済策があります。
40歳以上で特定疾病を原因として要介護状態となってしまった場合に限り、65歳以上の方と同様の介護サービスを利用できる仕組みがあるのです。
この場合「第2号被保険者」と呼ばれます。
まずはその仕組みのキーワードである特定疾病について、概要を説明していきますね。
特定疾病にはどんな病気があるの?
特定疾病には、以下の16種類があります。
[16種類の特定疾病]
1.がん(がん末期)
2.関節リウマチ
3.筋萎縮性側索硬化症
4.後縦靭帯骨化症
5.骨折を伴う骨粗鬆症
6.初老期における認知症
7.進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
8.脊髄小脳変性症
9.脊柱管狭窄症
10.早老症
11.多系統萎縮症
12.糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
13.脳血管疾患
14.閉塞性動脈硬化症
15.慢性閉塞性肺疾患
16.両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
特定疾病によって介護保険を利用できる条件は?
特定疾病によって介護保険を利用できる条件は、
①40歳以上65歳未満の方(65歳になった時点で自動的に第1号被保険者に切り替わります)
②健保組合、全国健康保険協会、市町村国保等の各種公的医療保険に加入し保険料を支払っている方(介護保険料は40歳になった月から医療保険料と一緒に徴収されています)
③上記1-1に示した特定疾病により要介護状態になっていると医師が認めた場合
これら3つの条件を全て満たしている場合になります。
末期がん肺疾患とはどんな病気か
では、今回のテーマである末期がんについて考えていきましょう。
特に肺がんの場合は肺の機能が障害されてしまうため、大きな行動制限となり日常生活に影響を及ぼします。
そのため、生活全般において介護が必要となる場合が多いです。
症状について
肺がんは、初期では特に朗かな自覚症状はありませんが、進行すると呼吸困難や咳・痰、胸の痛みなどがでるようになります。
また、末期になると転移を起こし、その臓器や骨でそれぞれ重篤な症状が現れます。
さらには他のがんと同様に体重減少や倦怠感、痛みなどにより日常生活動作全般に支障が出ます。
治療について
他のがんにも言えることですが、末期になると外科的手術によって病巣を切除するのは困難になります。
また抗がん剤などによる科学的治療についても副作用によって体力を奪ってしまうリスクもあり、積極的な治療が行われないことも少なくありません。
そのかわりに、肺の障害による呼吸苦や他臓器への転移による機能不全や激しい痛みによって生じる苦痛を和らげるための対処療法により緩和的治療が行われることとなります。
予後やケアについて
他の臓器に転移するような末期の状態になると、5年生存率は5%に満たないと言われています。
そのため、末期に入った患者については残された時間を少しでも自分らしく有意義に過ごすことができるよう、QOL(クオリティオブライフ 生活の質の意)の維持向上を目的とした緩和ケアが中心となります。
一般的な病院ではなく、ホスピスや自宅でのケアが中心となっていきます。
そこで介護保険も有意義に活用されることとなるのです。
特定疾病となる末期がんの診断基準
どの状態のがんを末期がんと診断し、介護保険法上の特定疾病と規定するかについては、「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る」と規定されています。
この診断が、下記で説明する「主治医意見書」の中で証明されていることが介護保険を利用するための条件となります。
介護保険サービスの利用までの流れ
それでは、実際に末期がんと診断された際に介護保険を利用開始するまでの流れについて説明します。
地域包括支援センターに相談
まずは、地域包括支援センターに相談します。
ここで、要介護認定の申請代行を行っています。
もし、患者さん本人やそのご家族の知人等で信頼できるケアマネジャーさんがいれば、その事業所に相談し申請代行を依頼してもOKです。
要介護認定を受ける
申請代行が済むと、主治医意見書作成の依頼と認定調査というものが必要になります。
主治医意見書については、窓口である市町村の介護保険担当課から申請者の主治医に連絡がいくことになります。
改めて受診の必要があったり主治医意見書作成料を求められる場合があるので確認が必要です。
また、申請からしばらくすると市町村役場の担当者から認定調査のアポイントについて連絡が来ます。
調査員の方が自宅(入院中の場合は入院先)に訪問し大体1~2時間程度かけて調査を行います。
これを受けなければ要介護認定を受けることができませんので注意が必要です。
ケアマネージャーとケアプランの相談
要介護度は要支援1・2、要介護1~5の7段階です。
要介護認定が決まると、担当してもらうケアマネジャーさんの事業所と利用契約を結ぶことになります。
担当のケアマネジャーさんが決まった時点でケアプランを相談・作成することになります。
そのケアプランによって、どのようなサービスを利用するか決まり、そのサービスをどこの事業所に依頼するか検討し、利用契約を結ぶことで介護サービス利用開始という流れになっています。
利用できる介護保険サービス
利用できる介護保険サービスは、大きく分けて「居宅サービス」「施設サービス」「地域密着型サービス」の3つに分けられます。
ここでは、介護保険サービスの中でも末期がんにより第2号被保険者となった場合に特に有効なサービスについて紹介していきます。
居宅サービスとは
現在の自宅で受けられるサービスになります。
また、一部の有料老人ホームやアパートにお住まいの方もこちらのサービスを利用できます。
様々なサービスがあり、居宅サービスの中でも「訪問サービス」「通所サービス」「短期入所サービス」「その他サービス」に分かれています。
〇訪問サービス
訪問介護や訪問看護、訪問入浴などのサービスがあり、自宅で身体介護や医療的処置、主治医との連携などを受けることができるサービスです。
末期がんになると外出が難しくなったり、住み慣れた自宅で余生を過ごしたいと考える方が多いと言われています。
また疼痛管理や心身状態の確認等で訪問看護も大活躍します。自宅での介護を行う上で力強い味方になるでしょう。
〇通所サービス
通所介護や通所リハビリがありますが、外出する体力があるうちは通所介護を利用し、食事や入浴の介護を受ける場合が多いです。
介護しているご家族にとっても、休息や家事などをする時間を作ることもできますね。
〇短期入所サービス
特別養護老人ホームに併設されているショートステイを利用する場合が多いです。
本人だけでなく、普段介護している家族にとっても休息の時間となりますね。
ただ、施設によっては末期がんの場合病状が不安定だったり看取り期に入った状態の方は受け入れてもらえない場合もありますので確認が必要です。
〇その他サービス
福祉用具をレンタル・購入したり、住宅をバリアフリー化したりするための補助金を受けられるサービスがあります。
電動ベッドや車いすなどのレンタル、ポータブルトイレや自宅で入浴する際に必要な用具の購入など自宅での療養生活を行う上で非常に有効です。
また居宅療養管理指導により医師・看護師・薬剤師などから健康管理に関する指導を受けられるサービスがあります。
施設サービスとは
その名の通り、施設に入所し身体介護や看護のサービスを受けるサービスとなります。
基本的には死亡するまで入居し続ける場合が多いですが、一部入居期間が定められている施設もあります。
特別養護老人ホームや、介護老人保健施設・介護付き有料老人ホームなどがありますが、入居申し込みをしてから実際に入居できるまでは入居待ちが長期間になっている現状があり、また入居相談の時点で継続的な医療依存度が高い場合は入居対象外と判断される場合があるので、現実的ではないでしょう。
地域密着型サービスとは
身近な住み慣れた地域で生活し続けられるように、事業所のある市町村に住んでいる方のみを対象にしたサービスです。
訪問・通所型、認知症対応型、施設・特定施設型に分けられます。
〇訪問・通所型
一つの施設で訪問・通所・泊まりの複合的サービスを提供する小規模多機能型居宅介護や、夜間定期的に自宅を訪問し介護する夜間対応型訪問介護、終日を通じ定期的に訪問し介護と看護を一体的に提供する定期巡回・随時対応型訪問介護看護といったサービスがあります。
看取り期に入っている場合は小規模多機能型居宅介護の場合受け入れてもらえない場合があります。
それにかわって夜間対応型訪問介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護は自宅に定時もしくは緊急時に随時訪問してくれるなどのサービスがあるので非常に心強いでしょう。
〇認知症対応型
認知症の診断を受けている方専門のサービスです。
俗にグループホームと呼ばれる9人1ユニットの小規模な施設や、認知症専門で馴染みやすい環境が整備された認知症対応型通所介護などがあります。
末期がんで介護が必要な場合であっても、認知症の診断がなければ利用対象外となります。
〇施設・特定施設型
利用定員29人以下に限定された小規模の特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームがこれにあたります。
通常の特別養護老人ホーム等と同様で、入居申し込みしてから実際の入居まで時間がかかる場合があります。
また医療的依存度が高い場合は入居対象外と判断される場合がありますが、特に末期がんは医療依存度が高いと言えますので、なかなか現実味はないでしょう。
気になる介護保険の負担割合は?
介護保険の負担割合は、基本は利用料の1割負担となります。
ただし、年金収入等が年額280万以上(夫婦世帯の場合は346万以上)の方は2割負担、さらに340万以上(夫婦世帯の場合は463万以上)の方は3割負担になります。
この負担割合は介護サービス本体についての割合で、例えば食費や部屋代などサービスによって介護保険適用外の料金がかかりますので契約時には忘れず説明を受けて確認しておく必要があります。
まとめ
このように、一見高齢者しかサービスを受けられないと思いがちな介護保険制度ですが、特手疾病により介護状態になった場合は40歳以上からサービスを受けることができます。
その中でもがんについては特に若くして発症することが少なくありませんので、がん患者にとっても介護保険サービスは非常に心強いものとなります。
65歳に満たないからといって介護のために仕事を辞めたり、制限する必要はありません。
いざという時のために覚えておくと、心強いですよ。