この記事では介護保険における特定疾病とは何なのか、また、多系統萎縮症は介護保険を利用することができるのかということについて解説しています。
介護保険には様々な介護保険サービスがあり、要介護認定を受けることによってそれらのサービスを利用することが可能になっています。
ただ、基本的に介護保険制度において介護保険サービスを利用することができるのは65歳以上の第一号被保険者の方となっています。
ただ、40歳~64歳までの第二号被保険者の方は絶対に介護保険サービスを利用することができないのかというとそうではなく、介護が必要になった原因が介護保険における特定疾病であると認められた場合にのみ介護保険サービスを利用することができるようになっています。
ここで気になってくるのが、この特定疾病とは一体どのような病気のことを指しているのかということです。
ここでは介護保険における特定疾病とは何なのか、また、多系統萎縮症は介護保険を利用することができるのかということについて解説していきますので、第二号被保険者の方や多系統萎縮症の方などは是非ご覧ください。
介護保険の特定疾病とは一体なに?
日本では40歳になると自動的に介護保険に加入することになっており、半ば強制的に介護保険の被保険者となります。
この被保険者ですが年齢によって2つに分けられており、65歳以上の方は第一号被保険者に、40歳~64歳までの方は第二号被保険者に該当することとなります。
ただ、介護保険サービスを利用するための条件が異なっており、第一号被保険者の方は介護が必要になった原因がどのようなものであっても介護保険サービスを利用することが可能になっていますが、第二号被保険者の方は介護が必要になった原因が特定疾病であると認められなければ介護保険サービスを利用することができないことになっています。
つまり、特定疾病以外の病気や交通事故などで介護が必要になったとしても、第二号被保険者の方は介護保険サービスを利用することができないということです。
ここで気になってくるのが、この特定疾病とは一体どのような病気なのかということですが、厚生労働省の特定疾病の選定基準の考え方によると、
心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病であって次のいずれの要件をも満たすものについて総合的に勘案し、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因し要介護状態の原因である心身の障害を生じさせると認められる疾病である。
1) 65歳以上の高齢者に多く発生しているが、40歳以上65歳未満の年齢層においても発生が認められる等、罹患率や有病率(類似の指標を含む。)等について加齢との関係が認められる疾病であって、その医学的概念を明確に定義できるもの。
2) 3~6ヶ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高いと考えられる疾病。
と定義されており、以下に記載する病気がその特定疾病に該当することになります。
[16種の特定疾病]
- がん(がん末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靭帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
多系統萎縮症とはどんな病気か
多系統萎縮症とは、脳の様々な部位が障害を受けることによって発症する病気で、αシヌクレインと呼ばれる異常構造物が小脳、脳幹、脊髄等に蓄積することによって発症するといわれています。
症状としては大脳、小脳、脳幹、脊髄の障害に応じた症状が現れますが、最も多いのが小脳の障害に起因する歩行障害です。
また、これ以外にも、ろれつが回りにくくなる、手の震えやパーキンソニズムというような症状が現れることもあります。
この多系統萎縮症ですが、残念なことに現時点では病気を根本的に治療するための方法は確立されておらず、症状に合わせた支持療法を組み合わせて行うことになります。
また、多系統萎縮症では薬物による治療よりもリハビリによる治療の効果が期待されており、最終的に寝たきり状態になることを防ぐことができるといわれています。
多系統萎縮症は介護保険で訪問看護の利用ができない
解説してきたように40歳~64歳までの第二号被保険者は介護が必要になった原因が特定疾病である場合にのみ介護保険サービスを利用することが可能になっています。
多系統萎縮症はこの特定疾病に該当しているのですが、訪問看護については要介護認定を受けていたとしても介護保険を利用することはできません。
ただ、訪問看護以外の介護保険サービスについては通常通り利用することが可能になっていますので安心してください。
多系統萎縮症は厚生労働大臣が定める疾患
多系統萎縮症は特定疾病に含まれているのになぜ介護保険において訪問看護を利用することができないのかと思われるでしょうが、これは多系統萎縮症が「厚生労働大臣が定める疾患等」に該当しているからです。
罹患している病気が「厚生労働大臣が定める疾患等」である場合には、たとえ要介護認定を受けていたとしても医療保険において訪問看護を利用することになります。
多系統萎縮症はこの「厚生労働大臣が定める疾患等」に該当していますので、医療保険によって訪問看護を利用することになります。
ちなみに「厚生労働大臣が定める疾患等」に該当する病気は以下のようになっています。
[厚生労働大臣が定める疾患等]
- 末期の悪性腫瘍
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- スモン
- 筋萎縮性側索硬化症
- 脊髄小脳変性症
- ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症
- パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病
(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって、生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限る)) - 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症およびシャイ・ドレーガー症候群)
- プリオン病
- 亜急性硬化性全脳炎
- ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋萎縮症
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
- 後天性免疫不全症候群
- 頸髄損傷
- 人工呼吸器を使用している状態及び急性増悪期の場合
多系統萎縮症は医療保険で訪問看護の利用が可能
多系統萎縮症は介護保険において訪問看護を利用することはできませんが、医療保険によって利用することが可能になっています。
訪問看護が必要な場合は医療保険によって利用可能
第二号被保険者の方は特定疾病でなければ介護保険サービスを利用することはできませんが、「厚生労働大臣が定める疾患等」に罹患している場合であれば、介護保険ではなく医療保険によって訪問看護を利用することになります。
ただ、気をつけておきたいのが自己負担額の違いです。
介護保険であれば第二号被保険者の方は所得にかかわらず一律で1割負担となっていますが、医療保険が適用になる訪問看護の場合は原則として3割負担になりますので注意が必要です。
訪問介護の回数制限に注意
また、医療保険での訪問看護は介護保険サービスではありませんので、介護保険に加入することができない39歳以下の方でも利用することが可能になっていますが、この場合には「1日に1回まで」「週3回まで」といった回数制限がありますので、こちらにも注意するようにしてください。
まとめ
ここまで介護保険における特定疾病とは何なのか、また、多系統萎縮症は介護保険を利用することができるのかということについて解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
解説してきたように40歳~64歳までの第二号被保険者の方は特定疾病でないと介護保険サービスを利用することができません。
多系統萎縮症は特定疾病に含まれているので介護保険を利用することができますが、特定疾病の他に「厚生労働大臣が定める疾患等」にも該当しているため、訪問看護については要介護認定を受けていたとしても医療保険での利用となります。
このため、介護保険に加入することができない39歳以下の方でも医療費を軽減することが可能になっていますが、自己負担額は介護保険の1割とは異なり、原則3割となりますので注意して下さい。