この記事では介護保険における応益負担とは一体何なのか、また、応益負担と応能負担にはどのような違いがあるのかということについても解説しています。
皆さんは介護保険を利用した際にかかってくる利用料は原則として応益負担となっています。
ですが、介護保険について詳しくない方の中には応益負担とは一体何のことか分からないという方もいるのではないでしょうか?
また、似たような名前の負担方法に応能負担というものがあるのですが、どのような違いがあるのでしょうか?
ここでは介護保険における応益負担とは一体何なのか、また、応益負担と応能負担にはどのような違いがあるのかということについても解説していきますので、応益負担や応能負担について知りたいという方は是非この記事をご覧ください。
『老人福祉制度』と『介護保険制度』の違いは?
介護保険制度は介護を必要としている高齢者やその家族を社会全体で支えていこうという目的で2000年にスタートした制度ですが、この介護保険制度がスタートするまでは介護に関するサービスは老人福祉法の措置制度によって行われていました。
措置制度とは、市町村の行政処分で施設への入所や在宅サービスの利用を決定するもので、この際にかかってくる費用の負担方法は、サービスを利用した方が属している世帯の所得に応じた負担となる応能負担と呼ばれるものでした。
ちなみに、この措置制度の時代は利用者自身がサービスを選ぶことができませんので介護施設のサービスはひどい状態の所もあったそうです。
しかし、介護保険が導入されたことによって、老人福祉法の措置制度から「要支援」又は「要介護」の認定を受けることによって介護保険サービスを利用することができるようになるというように変わり、要介護認定を受けることによって枠内のサービスを自由に選ぶことができるようになりました。
また、費用の負担方法についても変更があり、サービス利用料が原則としてサービスにかかった費用の1割(所得に応じて2~3割)という応益負担となりました。
介護保険制度が開始されてからは利用者が自身で介護サービスを選択することが可能になりましたので、選ばれる側となった事業者側は措置制度の時代とは打って変わって利用者に選ばれるために様々な工夫を凝らすようになり、介護サービスの質も改善されました。
老人福祉制度から介護保険制度へと変化したことによって、2つの制度の間には応能負担と応益負担というサービスを利用に対する費用負担の根本的な変化が生じることになりました。
また、老人福祉制度では実際に住んでいる場所で手続きを行って介護サービスを利用するという仕組みから、住民登録を行っている地域で認定手続きを行って介護サービスを利用するという仕組みに変更になりました。
長々と解説しましたが、このような違いが老人福祉制度と介護保険制度の大きな違いといえます。
応益負担とは
応益負担とは、利用者が受けたサービスに応じて、それぞれの収入や所得に関係なく全ての人が同じ金額を支払うというシステムのことをいいます。
身近なものでいうと消費税がこれに当てはまり、現在では商品を購入すると収入等に関係なく8%の消費税を支払うことになっています。
その① メリット
この応益負担のメリットですが、全ての方が平等であるということです。
同じサービスを受けた場合には全ての方が同じ料金を支払うことになりますので、同じサービスを受けて一部の方だけの料金が高額だということは起こりません。
その② デメリット
全ての方が平等であるというメリットを持っている応益負担ですが、デメリットも抱えています。
同じ料金を支払うが故に、所得が低い方の法が収入の内の多くをサービスの利用料の支払いに回さなくてはならなくなるということになります。
このため、一見平等に見えても実は不平等になってしまうという負担方法が応益負担なのです。
3. 応能負担とは
応能負担とは先程の項目で解説してきた応益負担の真逆といえる負担方法で、収入に応じて支払うことになる金額が変わってくるというシステムのことをいいます。
代表的なものとしては累進課税方式である所得税が挙げられ、収入が多い方は多く支払い、収入が少ない方は少ない金額を支払います。
その① メリット
応能負担のメリットは、収入に応じた負担しか求められないということです。
このため、所得が低い方がどのような介護サービスを利用したとしても、収入に応じた負担しか求められませんので、所得が少ない方や様々な介護が必要な方が家庭にいるという場合であっても安心して介護サービスを利用することができます。
その② デメリット
応能負担は収入に応じた負担しか求められないという大きなメリットがありますが、所得に応じてサービスを利用した際にかかってくる費用が大きくなっていきますので、高所得者層からは不満が出ることになります。
これからの介護保険はどうなる?
2016年に社会保険審議会介護護憲部会が開催されましたが、この際に厚生労働省は介護保険制度の改正を見据えて利用者負担や給付の見直しを検討する意向を示しました。
また、会以後保険制度が改正される度に応能負担に関する議論も行われていますが、これも当然の流れといえましょう。
各家庭において所得の格差があるのは当然であり、所得が少ない方に応益負担において費用負担を求めるということ自体が間違っているという意見さえあります。
現在の日本は超が付くほどの少子高齢化社会であり、年々介護を必要とする高齢者の人口が増加しています。
これにより様々な介護サービスは、そのサービスを必要としている方の数に追いついていないため、需要と供給のバランスが崩壊しており、このままの状態が続けば介護サービスを提供している民間企業はサービスの利用料を増額することが容易に想像できます。
このままで行くと介護サービスにおける需要と供給のバランスはどんどん崩れていきますので、「高額なサービス利用料を支払わなければ十分な介護サービスを受けることができない」「所得が低いと介護サービス自体を受けることができない」というような事態にもなりかねません。
このため、利用者負担や給付の見直し等の様々な議論が行われているのですが、現在の応益負担から収入に応じた負担が求められる応益負担に戻すことになると高所得者層からの反発などが予想されますので、高所得者層は高い利用料を負担する代わりに何らかのメリットを与えるというような制度への改革が検討されています。
ただ、時が経つにつれ高齢化はどんどん深刻になってきていますので、早めの制度改革が求められています。
まとめ
ここまで介護保険における応益負担とは一体何なのか、また、応益負担と応能負担にはどのような違いがあるのかということについても解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
解説してきたように現在の介護保険は応益負担で全ての方が一律の料金を支払うシステムになっています。
ただ、この応益負担では所得の低い方が介護サービスにかかる費用の支払いが大きな負担となってしまうため、応益負担では無理があるのではないかという声が日に日に高まってきています。
少子高齢化社会である日本では、これからもどんどん介護が必要な高齢者が増加していきますので、このような負担方法についての見直しが急務となっています。