介護保険制度は1〜3割の負担割合で必要な介護サービスを受けることができる制度ですが、この制度は誰でも受けることができるサービスなのでしょうか?
介護保険に未加入の場合は、介護を受けることができないのか、解説します。
介護保険が未加入となるケース
介護保険の中には公的と民間のものがありますが、ここでは公的介護保険についてお話します。
公的介護保険は40歳以上の方が全員が加入し、65歳以上の方が第1号被保険者、40〜65歳未満の方が第2号被保険者となります。
この介護保険に加入するには、介護保険料を支払う必要がありますが、経済的状況から加入が困難なため介護保険に加入していない方もいます。
生活保護受給者に該当する場合では介護保険の保険料を支払うことは困難で、未加入となることになります。
未加入でも介護サービスを受けられるのか
実際に介護サービスを利用する場合は、介護保険料を納めている必要がありますが、経済的な問題で介護保険に未加入の場合もあります。
このような場合、生活保護受給者として認められた場合には、生活保護の扶助の中から介護サービスに関しても給付があり、受けることができます。
ここで生活保護についてお話します。
生活保護を受けるためには、以下の4つの条件をすべて満たしている必要があります。
①援助してくれる身内、親類がいない
自分と生計を一緒にしている家族がいて、その人が働ける状態で、収入がある程度あるならば生活保護を受けることはできません。
生活保護を申込みした際には、親や兄弟、3親等以内の親類に対して「扶養照会」というものが届きます。
これは、生活保護を受けたい人の援助ができるか否かを親や兄弟、3親等以内の親類に確認する書類で、もし援助が可能な人がいるならば生活保護を受けることはできません。
②まったく資産を持っていない
貯金や、土地、車などを所有している場合では、その土地や貯金を売却してからではないと生活保護を受けることができません。
アパートに住んでいたり、家を借りている場合は自分の家ではないので生活保護を受けることが可能です。
③働けない
これは上の①、②の2つの条件が満たされている人で、病気やケガなどでどうしても働けないという人は生活保護を受けることが可能です。
母子家庭の場合や極端に収入が低い場合は、働いていても生活保護の対象となる場合もあります。
④上記①~③を満たしている状態で、月の収入が最低生活費を下回っている
ここまでの①~③の条件を全て満たした上で、年金、児童手当などの収入があっても、厚生労働省が定めた最低生活費の基準額を下回っていれば生活保護を受けることができます。
また、生活保護には介護扶助、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、出産扶助、失業扶助、葬祭扶助の8つの扶助があります。
それぞれの生活に合わせて、どの扶助が必要であるか行政が判断し、生活保護受給者に支給されています。
生活保護受給者で介護保険の被保険者の場合、介護サービス費は介護扶助で支給されます。
介護扶助とは、介護保険法における要介護者又は要支援者の介護サービス費に充てるための扶助です。
介護扶助の内容は基本的に介護保険の保険給付の対象となるサービスと同じ内容です。
支給方法は現金支給ではなく現物支給(サービスの提供)です。
介護扶助の項目は下記の全部で8項目です。
①居宅介護(居宅介護支援計画に基づき行うものに限る。)
②福祉用具
③住宅改修
④施設介護
⑤介護予防(介護予防支援計画に基づき行うものに限る。)
⑥介護予防福祉用具
⑦介護予防住宅改修
⑧移送
①~④は要介護者を⑤~⑧は要支援者を対象とした扶助です。
その① 第2号被保険者の場合
介護保険制度の被保険者は第1号被保険者と、第2号被保険者とに大別されます。
第1号被保険者は65歳以上の方で、第2号被保険者は40~65歳未満の方です。
第2号被保険者は、介護保険の対象となる16種類の「特定疾病」が原因で要介護状態になったときのみ介護保険を利用して介護サービスを受けることができます。
[16種の特定疾病]
- 1.がん(がん末期)
- 2.関節リウマチ
- 3.筋萎縮性側索硬化症
- 4.後縦靭帯骨化症
- 5.骨折を伴う骨粗鬆症
- 6.初老期における認知症
- 7.進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 8.脊髄小脳変性症
- 9.脊柱管狭窄症
- 10.早老症
- 11.多系統萎縮症
- 12.糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 13.脳血管疾患
- 14.閉塞性動脈硬化症
- 15.慢性閉塞性肺疾患
- 16.両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
第2号被保険者の場合、介護保険料は医療保険料に上乗せして徴収されます。
介護保険未加入でも国民健康保険等の公的医療保険に加入していれば、介護保険料に関しては医療保険の保険料に上乗せされる形で請求されることになります。
介護保険未加入であっても医療保険未加入でなければ強制的に介護保険の保険料を請求できる仕組みになっています。
このように生活保護受給者でも医療保険加入者の場合、9割は介護保険が負担し、1割が自己負担となります。
この1割の自己負担分が介護扶助費として支給されます。
第2号被保険者で医療保険未加入者の場合、介護保険の被保険者とならないため、10割全部が自己負担となります。
この10割の自己負担分が介護扶助費として支給されます。
自己負担分は介護扶助で賄われるため、実質的な利用者の費用負担は発生しません。
ただし、保険対象外のサービスを利用した場合や介護保険における支給限度額を超えたサービスを利用した場合は、自己負担分が発生します。
その② 第1号被保険者の場合
前述したように、介護保険制度の被保険者は65歳以上の第1号被保険者と、40〜65歳未満の第2号被保険者とに大別されます。
第1号被保険者(65歳以上)に関しては、原因を問わず、要介護・要支援状態と認定されれば、介護サービスを受けることができます。
第1号被保険者の場合、一般的に介護保険料は年金から天引きされます。
65歳以上であれば、医療保険を支払っていない人であっても、全員が介護保険の第1号被保険者となり、介護保険料を支払う義務が生じます。
生活保護受給者の場合は支払いが困難なため、介護保険料の分を生活扶助に上乗せして支払うようになっています。
1割が自己負担となりますが、第2号被保険者と同様、介護保険の自己負担分は介護扶助で賄われ、支給限度額内であれば実質的な利用者の費用負担はありません。
まとめ
この記事では介護保険の未加入者が介護を受けられるのかについて解説しました。
以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 生活保護受給者の方は介護保険料が支払えず、介護保険未加入となっている場合があります。生活保護受給者の場合、介護扶助の支給があり、介護サービスを受けることができます。
- 第2号被保険者の生活保護受給者で医療保険加入者の場合、介護保険料は医療保険料に上乗せして徴収され、1割が自己負担となります。医療保険未加入者の場合、介護保険の被保険者とならず、10割が自己負担となります。自己負担分は介護扶助費として支給されるため、実質的な利用者の費用負担はありません。
- 第1号被保険者の生活保護受給者の場合、介護保険料は生活扶助に上乗せして支払うようになっています。1割の自己負担分は介護扶助で賄われ、実質的な利用者の費用負担はありません。
介護保険に未加入の人でも、生活保護受給者であれば、介護扶助が支給され実質的な利用者の費用負担はなく、介護サービスを受けることができます。
基本的には介護保険料をしっかりと納め、自己負担分は支払う必要がありますが、介護保険料や利用者の一部負担金が重くなったら、一人で抱え込まず、市区町村の窓口に相談してみましょう。