介護が必要になったときに、1〜3割の自己負担で介護サービスを受けることができる介護保険制度ですが、この介護保険制度ができるには今までの日本の背景があります。
高齢化が進む日本での介護保険のこれからの問題点について解説します。
介護保険制度ができた背景
1980年代、病院への社会的入院や寝たきり老人が社会問題化してしましたが、当時の老人福祉法では十分に対応しきれていませんでした。
この法制度のもとでは、利用者が自由にサービスを選べず、画一的なサービスばかりが提供されていまいした。
また、介護を理由とした長期入院が全国的に増え始めて医療費が増加していました。
さらに、90年代に入り高齢化が急速に進み、要介護状態の高齢者の増加、介護期間の長期化などが問題となり、家族への介護負担が増えていました。
これらの問題を解決すべく、介護を社会全体で支える制度として、2000年に介護保険制度が施行されました。
この介護保険制度は、年金や医療と同じく国が運営する社会保険制度の一つで、65歳以上の方(特定疾患の場合は40歳以上の方)に介護が必要になったとき、訪問介護や通所介護などの介護サービスを自己負担1〜3割で受けることができるものです。
介護保険制定から今日まで
2000年に介護保険制度が施行されてから、これまでの介護の在り方が変わりました。
今までの画一的なサービスとは違い、利用者はケアプラン作成時に自分の利用したい介護サービスを自由に選択することができます。
また、在宅サービスが充実しており、入院期間が短くなり、早くから在宅での生活を送ることができるようになりました。
介護保険制度は、平均寿命の延びや高齢化の進展に伴い、「要介護高齢者の増加」「介護期間の長期化」「核家族化」「介護する家族の高齢化」といった、家族だけでは担いきれない介護を社会全体で支える制度となっています。
日本は高齢化が急速に進んでおり、介護保険を必要とする人も急増しています。
それに伴い介護保険制度も見直されてきました。
法改正による大きな変更が5回、サービスの細かい仕組みや介護報酬の見直しが6回ありました。
介護保険制度の問題点
介護保険制度はその都度見直しがされ、より良い制度に変わってきていますが、それでも現在の日本における介護事情には大きな5つの問題が存在します。
①多様な介護事情、②虐待、③独居高齢者、④介護難民、⑤権利擁護に関するトラブル、これらの大きな5つの問題について、原因と解決策についてご紹介します。
その① 多様な介護事情(老老介護等)
介護というと、一般的には高齢者を若い世代が介護するという形が考えられます。
しかし、高齢化や核家族化が進む日本では介護も多様な形になっており、問題視されています。
65歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者を介護する「老老介護」や、介護する人と介護される人の双方が認知症を発症している「認認介護」です。
老老介護の場合では、高齢の夫婦間での介護、高齢の兄弟姉妹間での介護、高齢の子供がさらに高齢の親や身内の介護をするといったケースが該当します。
老老介護や認認介護の原因に、医療の進歩による日本人の平均寿命が延びていることがあります。
平均寿命が延びることで、平均寿命と健康寿命(一生のうちで、健康で活動的に生活できる期間)との差が広がり、身体的機能の衰えだけでなく認知症を発症するリスクも高くなります。
また、親と子供が別々に住む「核家族」が増えたこと、いわゆる核家族化も原因の一つです。
高齢者夫婦の世帯でどちらかに介護が必要になれば、どちらかが面倒を見ることになり、そうして暮らしていくうちに、双方が認知症を発症するリスクがあります。
老老介護は認認介護につながる可能性があります。
その② 虐待
家庭や介護保険施設において、高齢者が虐待を受けるという現実もあり、大きな問題となっています。
家庭で高齢者の同居の息子、夫、娘が虐待を行うことが多く、介護保険施設ではあってはいけないことですが、介護職員や看護師からの虐待が存在しています。
2006年に対策として「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が施行されましたが、その後も高齢者への虐待が続いているのが現状です。
これに対し厚生労働省が各都道府県に対して「都道府県および市町村が速やかに実態を把握できる取り組みを強化すること」、「介護に携わる関係者に対する研修等で対応を強化すること」、「高齢者権利擁護等推進事業の活用」を通知しています。
また、「介護うつ」という言葉が生まれるほど、介護は家族にとって負担となることがあります。
市町村の窓口などで相談したり、介護サービスを活用して少しでも介護負担を軽減することが重要です。
家族で介護を行う際には、一人が抱え込まず、家族で話し合って分担したり、介護者の集いなどに参加して気持ちを共有することも大切です。
その③ 独居高齢者
核家族化が進んでおり、一人暮らしの高齢者が多くなっています。
高齢者が一人で暮らすことで生じる問題として、「認知症」と「孤独死」が挙げられます。
厚生労働省によると、わが国における認知症の患者数は462万人おり、これに加え、およそ400万人の人たちがMCI(軽度認知障害)であると推計されています。
65歳以上の7人に1人が認知症で、4人に1人が認知症かMCIの状態にあります。
認知症を患うと、一人で日常生活を営むことが困難になります。
このような認知症高齢者が独居生活をすることは、生活レベルの低下のみならず、近隣住民とのトラブルを招くことにもなりかねません。
さらには、犯罪や火事、事故など命に関わる事態に巻き込まれる危険性もあります。
また、誰にも気づかれることなく死に至る「孤独死」の数も年々増加傾向にあります。
家族と疎遠になり、近隣住民とも交流のない場合、孤独死の発見が遅れることも多くあります。
厚生労働省も「孤独死は人間の尊厳を損なうと同時に、家族や親族、近隣住民などに心理的な衝撃や経済的な負担を与える」として、孤独死を防ぐ対応の必要性を訴えています。
独居高齢者の認知症、孤独死のリスクを防ぐためには、家族はもちろん、国や社会全体での取り組みも大切です。
家族が同居することが一番ですが、現実問題として難しい場合は、民生委員や介護保険サービス、見守りサービスを利用するなどしましょう。
また、高齢になっても働いたり、自治体の活動や高齢者サークルへ参加するなどして、社会との接点を持つことも対策の一つです。
社会との接点があれば、何か起きたときに誰かに気づいてもらえる可能性が高まります。
その④ 介護難民
「介護難民」とは介護が必要な「要介護者」に認定されているにもかかわらず、施設に入所できない、家庭においても適切な介護サービスを受けられない65歳以上の高齢者を指します。
介護難民の原因として、高齢者の増加が挙げられます。
高齢者は年々増加しており、2025年には人口の約3割、2060年には約4割を65歳以上を占めると予測されています。
高齢者の増加に伴い、要支援・要介護者の数も増加していますが、介護に携わる従業員は不足しているのが現状です。
介護難民対策として国は「地域包括ケアシステム」を打ち出しました。
地域密着型で高齢者をケアするという考え方で、地方自治体の「地域包括支援センター」が中心となって運営を行っています。
また、介護難民にならないために、高齢者本人はできるだけ自分のことは自分で行ったり、家族は必要以上に干渉せず、高齢者が自分から身体を動かすように促すことが大切です。
要介護者になるリスクを減らしたり、要介護度の進行を防止することに繋がります。
その⑤ 権利擁護に関するトラブル
高齢者の人権や財産等の権利を守ることは高齢社会において重要なことです。
今後、独居高齢者が増加することが予測されること、さらに認知症や失語症など、コミュニケーションが困難な状態や、判断能力が低下した場合にも、家族や後見人の支援が必要となってきます。
認知症などで判断力が衰えてしまった人のために、家庭裁判所が「成年後見人」を選んで、被後見人を保護・援助する制度が「成年後見制度」です。
成年後見人の主な役割は、被後見人に代わって、不動産などを含めたあらゆる財産を管理することですが、権限を乱用し、被後見人の財産を自分のもののように使うなどのトラブルが生じています。
特に親族が成年後見人になると、財産を独り占めしようとしたり、自分の権利を必要以上に主張したりし、トラブルに繋がることが多いです。
成年後見人を親族以外の弁護士、司法書士、税理士といった専門家に任せることで、家庭裁判所への報告などの手続きも行ってくれ、トラブルを回避することができます。
これからの介護保険に対す期待
高齢化により平均寿命が延び、寝たきりなどの重度者よりも、要支援や要介護1などの軽度者が大幅に増えています。
軽度者の状態像を踏まえ、介護サービスの対象者やサービス内容、ケアマネジメント体制を見直し、軽度者に対する支援が期待されます。
また、認知症高齢者や独居高齢者が増えており、地域全体で地域の高齢者を支えていく必要があります。
地域密着型サービスや地域包括支援センターの支援により、地域の特性に応じた様々なサービス提供を受けることができます。
れまで介護保険制度は時代の流れやニーズに合わせて、改正を重ねてきました。
今後も現在の高齢化社会に合わせた改正が行われ、介護保険制度がより良いものになることが期待されます。
まとめ
この記事では介護保険の5つの問題点について解説しました。以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 高齢化が急速に進み、要介護状態の高齢者が増加し介護期間が長期化することで、家族への介護負担が増えており、それを解決するために1〜3割の自己負担でサービスを受けることができる介護保険制度が施行されました。
- 介護保険制度により、利用できるサービスの自由度が高まり、在宅サービスが充実したことで入院期間が短くなり、早くから在宅での生活を送ることができます。
- 現在の日本の介護事情には、①多様な介護事情(老老介護など)、②虐待、③独居高齢者、④介護難民、⑤権利擁護に関するトラブル、の大きな5つの問題があります。
- 介護保険制度は時代の流れやニーズに合わせて改正を重ね、今後もより良いものになることが期待されます。
高齢者の介護は、高齢化社会を生きる我々一人一人が真剣に考え、取り組むべき課題です。
この記事で紹介した5つの問題は決して他人事ではなく、これからの人生で自分たちも陥る可能性がある問題ばかりです。
各問題にどのように対処するべきなのか、知識として知っておき、対策を考えられるようにしておきましょう。