介護保険制度では、心身の状態に応じて要介護度が要支援1~2、要介護1~5とランク付けされています。
この要介護度が上がれば上がるほど、「支給基準限度額」が増えて多くの介護サービスが利用できる仕組みになっています。
この要介護度は、「認定調査」の結果と「主事意見書」を元に認定審査会にて総合的に検討され決定します。
実際に介護をしていると、現在のサービスが適切なのだろうか?
この方の現状と要介護度は合致しているんだろうか?と感じることもあるでしょう。
今回は、そんなときの対応策である“区分変更”の仕組みについて説明していきます。
高齢者の心身状況は変化がある
例えば持病の悪化や転倒による骨折・認知症状の増悪によって介護にかかる労力が増すことがあります。
逆に、日ごろのリハビリの成果や住環境の整備、介護者の技術向上などによって状態が改善される例も多くあります。
そうなると、認定を受けている要介護度に応じたサービス料やサービス単価と実際の状況のミスマッチが発生して様々な不都合が生じてしまうことになります。
介護保険の要支援・要介護認定の区分変更とは
このような時に有効な手続きが、「区分変更」という制度です。
この手続きは、現在の要介護度と実際の状況のミスマッチが生じたときに申請することで、より現状に合った要介護度になるよう、再度要介護度の判定をやり直してもらう仕組みです。
在宅で介護を受けている方の場合は、まずは担当のケアマネジャーさんに相談しましょう。
- 重要なのは、今どのくらい介護をしていて、どの部分が大変なのか
- 以前と比べてどのような心身の変化があり、それがどう介護量の増悪に影響しているのか
- どのポイントが改善し、それがどう介護量の減少につながっているのか
これらのポイントを具体的に説明することです。そうするとケアマネジャーさんは、本人や家族、サービス提供事業所などに聞き取りや面談を行ってサービス提供内容の確認を行います。
その後にケアプランを見直し、現在の区分支給限度額では足りない(多すぎる)となったときに区分変更手続きに入ることになるのです。
施設に入所し介護を受けている方の場合は、施設にいるケアマネジャーが介護員や相談員から情報収集し、区分変更が必要となった場合に家族へ説明し同意を得て行うことになります。
特に施設に入所している方の場合、介護依存度が上がったことによる区分変更申請が殆どです。
区分変更が必要になる理由
具体的に区分変更の手続きが必要になってくるのはどのような場合なのでしょうか?ここでは、その手続きが必要になる理由ごとに説明していきます。
状態が悪化した
まず、圧倒的に多いのは心身の状態の悪化により、介護の負担が増悪した場合です。
例えば、今まで週3回ヘルパーから来てもらえば何とか生活できていた、という方がいるとします。
体調の悪化によって今まで自力で行っていた日常生活動作ができなくなることにより、生活をするために3食の食事介助や入浴の介助が必要になったとすると、現在の要介護の区分支給限度額では足りなくなります。
そうなると、超えた分は10割負担となってしまいます。
具体的に言うと、ヘルパーが身体介護で30分サービス提供すると、実際には2,480円かかるうちの24円が利用者負担となります。
1日のうちに何回もヘルパーから来てもらわないといけないのに、これが10割負担となると1ケ月ではかなりの金額になってしまいます。
これを防ぐために、要介護度を上げて区分支給限度額も増額し、より多くのサービスを利用できるようにするというのが状態が悪化したときに区分変更をする理由になります。
※参考 平成31年2月現在の区分支給限度額一覧(単位:円)
状態が改善した
区分変更をする方の中には、実際の介護状況が改善したために区分変更申請を行う場合があります。
要介護度が高ければ高いほど、たくさんサービスを利用できるんだからそのままにしておけばいいのに…と思う方もいるでしょう。
実は、介護保険のサービスの中には一回あたりの料金が要介護度によって変動するものがけっこうあります。
例えば、ヘルパーは介護度によって1回あたりの料金が変わるということはありません。
しかし、デイサービスの場合は同じ滞在時間であっても要介護度によって単価が違っています。
※参考 通常規模の通所介護事業所3時間以上4時間未満のサービス単価(単位:円)
このように、区分変更によって要介護4から要介護2になることで、介護にかかる費用を抑えることができるのです。
同じようなサービス提供を受けるのであれば、料金はかからないに超したことはないですよね。
要介護認定の結果が不服である
3つ目のケースは、決定された要介護度の結果に不満がある場合です。
本来は「不服申し立て」という手続きがあるのですが、実際にはこの手続きを行い結果が確定するまで3か月程度を必要とします。
この間、本人や家族、サービス事業者にとっても宙ぶらりんの状態で事務作業も止まったまま、暫定のプランで介護サービスを受けることになります。
暫定のプランで介護サービスを受けるということは、「多分この介護度になるだろうな」と予測を付けて利用するということです。
これが、いざ3か月後に結果が出たら予測より軽かった…となると、大幅に区分支給限度額をオーバーして多額の自己負担分が発生してしまうというリスクと不安をかかえることになります。
そのため、より短期間で結果が確定する区分変更という手段を取る場合があるのです。
ただ、本来不服の場合は「不服申し立て」を行うのが本来正当なルールになります。
区分変更で必要なもの
区分変更で必要な書類は、「区分変更申請書」と「介護保険被保険者証」の2つです。
区分変更申請書の中身には、専門的見地から記入しなければならない部分もあるため、担当のケアマネジャーさんにお任せするといいでしょう。
区分変更によって再度認定調査や判定会議が行われますが、判定会議に必要な資料として主治医意見書があるため、改めて主治医を受診するように依頼される場合もあります。
区分変更の認定有効期間
区分変更後の認定有効期間の開始日は、区分変更の申請日となります。
そのため、申請書類を提出した時点で結果を待たずしてサービスを増やすことができます。
ただし自治体によって、申請日=書類の作成日or書類を受理した日と取扱いが異なる場合がある点に注意が必要です。この期間開始日の確認を怠ると、区分支給限度額を超過して10割自己負担が発生してしまう場合があるので注意が必要です。
有効期間は、区分変更後は基本的に6ヵ月となります。但し、認定審査会の判断によって3か月~12か月の範囲で設定することができます。
区分変更の申請後にどう対応するか
では、実際に区分変更申請を実施したあとは具体的にどのように流れていくのでしょうか。ここで確認しておきましょう。
却下されたケース
区分変更手続きを行っても、却下される場合があります。
自治体によって違いますが、おおむね下記のような場合です。
- 元の認定の要介護(要支援)状態区分から変更がないと判定された場合
- 非該当と判定された場合
- 要介護者からの状態の重度化等を申請理由とする変更申請で、要支援と判定された場合
- 要支援者からの状態の軽度化を申請理由とする変更申請で、要介護と判定された場合
ただし、却下された場合の取扱いが自治体によって違う場合があります。
- 区分変更申請自体がなかったこととして取り扱う。
- 保険者の職権により要支援2という決定が下ったその日からの適用とする。
- 区分変更後の認定結果を、区分変更申請日にさかのぼって適用する。
この3パターンがあるので、万が一の時のために事前に確認しておくとよいでしょう。
申請が受理されたケース
申請が受理された、ということは、心身状況の重度化もしくは軽度化に応じて認定された、新しい要介護度が載った介護保険被保険者証が送付されてきた場合です。
新しい要介護度認定の有効期間は申請日に遡りますので、サービス利用時の料金はその日に遡って再計算されるということになります。
直ちに担当のケアマネジャーさんに連絡しましょう。
その後はサービス担当者会議や新しいケアプランの作成などがあり、新たな枠組みでのサービス利用が開始になります。
まとめ
区分変更手続きは、一見複雑そうであり、万が一意図しない結果がでることも想定されます。
区分変更による認定調査の際は日ごろからよく世話をしている主介護者が立ち合い、また担当のケアマネジャーさんからも同席してもらうようにするとよいでしょう。
ケアマネジャーさんであれば、認定調査のポイントに応じて適切な情報提供を調査員にしてくれます。事前に、日ごろから大変な点についてケアマネジャーと確認し論点整理し、メモしておくと確実です。
区分変更申請は、ある意味リスクを伴っています。安易な申請はせず、入念な準備をして臨むことが大切と言えますね。