この記事では介護保険サービスを利用した際の負担割合について、決定に大きく関係する合計所得金額について解説しています。
40歳になると強制的に加入させられることになっている介護保険ですが、介護が必要であると認められると介護保険サービスを利用することが可能になっています。
介護保険サービスを利用した際には当然その対価として利用料を支払う必要がありますが、支払うことになる費用はサービスを利用した際にかかった費用の総額ではなく一部となっています。
支払いの際の負担割合については被保険者によって異なってくることになっているのですが、その決定には「合計所得金額」というものが大きく関係してきます。
ここでは介護保険サービスを利用した際の負担割合について、決定に大きく関係する合計所得金額について解説していきますので、介護保険の負担割合について詳しく知りたいという方は是非この記事をご覧ください。
介護保険サービスの費用
冒頭でも触れたように、日本では40歳を迎えると自動的に介護保険に加入することになっており、介護保険の被保険者となります。
介護保険の被保険者は要介護認定において「要支援1・2」又は「要介護1~5」と認定されることによって介護保険サービスを利用することができるようになっています。
被保険者が介護保険サービスを利用した際には、原則としてサービスを利用する際にかかった費用の総額の一部を自己負担することになっています。
介護保険の在宅サービスでは、要介護認定において判定された要介護度に応じて以下のような区分支給限度額というものが設定されており、この限度額の範囲内であれば所得に応じた負担割合でサービスを利用することが可能になっています。
ただ、限度額を超えてサービスを利用した際には超過分が全額自己負担となりますので注意する必要があります。
[区分支給限度額]
要支援1: 50,030円
要支援2:104,730円
要介護1:166,920円
要介護2:196,160円
要介護3:269,310円
要介護4:308,060円
要介護5:360,650円
介護保険サービスの負担割合とは
先程の項目でも解説したように、介護保険サービスを利用する際に被保険者が支払うことになる費用は、サービス利用料の総額の一部となっています。
被保険者が利用したサービスにかかった費用の総額に対してどの程度の負担が必要なのかということを定めたもののことを「負担割合」といいます。
この負担割合についてですが、どのような基準によって決定されているかご存知でしょうか?
負担割合には「1割負担」「2割負担」「3割負担」の3種類がありますが、負担割合の決定には以下のような所得基準が使用され、保険者である各市町村によって決定されます。
また、負担割合の判定は毎年行われており、7月末に判定の結果が被保険者の元に届けられます。
① 自己負担が3割になる方
- 合計所得金額が220万円以上
- 年金収入とその他の合計所得金額の合計が単身世帯で340万円以上、夫婦世帯で463万円以上の場合(単身世帯で年金収入のみの場合は344万円以上に相当)
② 自己負担が2割になる方
- 合計所得金額が160万円以上
- 年金収入とその他の合計所得金額の合計が単身世帯で280万円以上、夫婦世帯で346万円以上の場合(単身世帯で年金収入のみの場合は280万円以上に相当)
③ 自己負担が1割になる方
上記の3割負担と2割負担の要件に当てはまらない方
負担割合を決定するのは合計所得金額
先程の項目では介護保険サービスを利用した際の負担割合を判定する際の基準について解説してきました。
気づかれた方もいるかもしれませんが、負担割合の決定には預貯金や現金などは関係しておらず、合計所得金額が負担割合の決定に大きく関係してきています。
この合計所得金額とは一体何なのでしょうか?
その① 合計所得金額とは?
合計所得金額とは、収入金額から必要経費に相当する金額を控除した後の金額のことであり、扶養控除や医療費控除といった所得控除をする前の金額となります。
また、その他の合計所得金額というものも出てきましたが、こちらは合計所得金額から年金収入にかかる雑所得を引いた後の金額となります。
なお、年金収入についてですが、非課税年金である障害年金と遺族年金は年金収入には含まれません。
その② 『総所得金額』や『総所得金額等』との違いは?
合計所得金額は所得の合計を表すものであり、似たようなものに「総所得金額」や「総所得金額等」というものがありますが、総所得金額及び総所得金額等とは以下のようなもののことを指します。
[総所得金額]
純損失、雑損失、特定居住用財産の譲渡損失、居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の繰り越し控除後の以下の所得の合計額のことをいいます。
① 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得の金額、雑所得及び総合課税の 短期譲渡所得の金額(利子所得と配当所得については一律分離課税の適用を受けるものを除く)
② 総合課税の長期譲渡所得及び一時所得の合計額の2分の1
[総所得金額等]
純損失、雑損失、特定居住用財産の譲渡損失、居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の繰り越し控除後の以下の所得の合計額のことをいいます。
① 総所得金額
② 分離課税の土地建物等の譲渡所得の金額(特別控除適用前)
③ 分離課税の株式等に係る譲渡所得の金額(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控後除及び特定株式に係る譲渡損失の繰越控除後)
④ 分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額(上場株式に係る譲渡損失の損益通算後及び繰越控除後)
⑤ 分離課税の先物取引に係る雑所得等の金額(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除後)
⑥ 退職所得金額(2分の1後)
⑦ 山林所得金額(特別控除後)
その③ 合計所得金額の確認の仕方
合計所得金額とは「事業(営業等)所得」「事業(農業)所得」「不動産所得」「利子所得」「配当所得」「給与所得」「雑所得」「総合譲渡所得、一時所得」の8つの所得の合計金額となります。
① 事業(営業等)所得、事業(農業)所得、不動産所得
これらの所得は収入金額から必要経費を引くことによって求めることができます。
② 利子所得
こちらは基本的に収入金額がそのまま所得額になりますが、ほぼ全ての金融商品の利息は源泉分離課税となっていますので、ここに全ての利息を含める必要ありません。
③ 配当所得
こちらの所得は、収入金額から株式等を取得するためのしゃく入金の利子を差し引くことによって求めることができます。
なお、配当所得を源泉分離課税とする場合には、ここに含める必要はありません。
④ 給与所得
こちらの所得は、源泉徴収される前の金額から給与所得控除額を差し引くことによって求めることができます。
この所得に関する間違いが一番多くなっており、収入額がそのまま所得額になるわけではないということを理解しておく必要があります。
⑤ 雑所得
こちらの所得ですが、公的年金等以外のものについては収入金額から必要経費を引くことによって求めることができます。
公的年金等の場合は収入金額から公的年金等控除額を引くことによって求めることができます。
⑦ 総合譲渡所得、一時所得
総合譲渡所得についてですが、短期譲渡の場合は取得費と譲渡費用を足した額を譲渡価格から引くことによって求めることができます。
長期譲渡の場合は取得費と譲渡費用を足した額を譲渡価格から引き、そこからさらに50万円を引いた金額の半分が所得額となります。
一時所得ですが、こちらは収入金額から収入を得るために支出した金額を引き、そこからさらに50万円を引いた額の半分が所得額となります。
負担割合の種類について
ここまでの中で介護保険の負担割合には「1割負担」「2割負担」「3割負担」の3種類があると解説してきました。
この負担割合ですが、元から1~3割の3種類だったのではなく、介護保険の改正によって変更が繰り返されて現在の形となりました。
介護保険制度は2000年にスタートしましたが、この時には全ての被保険者が一律で1割負担でした。
しかし、年々介護が必要な高齢者が増加していくにあたって、財源の確保を迫られることになり、2015年の改正によって一部の被保険者の負担割合が2割に引き上げられることになりました。
さらにその3年後の2018年の改正では、先の改正で2割負担に引き上げられた被保険者の中で現役並みの所得がある被保険者の負担割合が3割に引き上げられることになったのです。
負担割合が2割から3割に増加するということは、それだけ支払うことになる金額が増えるということになりますが、現在この3割負担に該当しているのは受給者全体の3%である12万人程度に留まるといわれています。
なお、この3種類の負担割合の対象となるのは65歳以上の第一号被保険者のみであり、40歳~64歳までの第二号被保険者は所得がどれほどあろうとも一律で1割負担となっています。
まとめ
ここまで介護保険サービスを利用した際の負担割合について、決定に大きく関係する合計所得金額について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
介護保険サービスを利用した場合、被保険者は負担割合に応じた金額を支払う必要があります。
解説してきたように、この負担割合の判定には合計所得金額というものが大きく関わってきており、これによってその年の介護保険サービスに対して支払う金額も変わってきます。
最高の3割負担となる方は、現時点では全体の3%といわれていますが、介護保険の財源は厳しい状態が続いていますので、今後その範囲が拡大される可能性は十分にあります。