この記事では認知症の被保険者が介護保険サービスの利用を拒否する心理とは一体どのようなものなのかということについて、また、拒否するケース別の対応策についても解説していきます。
日本では40歳になると介護保険に加入することになっており、被保険者に該当することになります。
介護保険の被保険者は介護が必要になったと認められると介護保険サービスを利用することが可能になりますが、被保険者で認知症の方の中には介護保険サービスの利用を拒否する方もいらっしゃいます。
なぜ認知症の方は介護保険サービスの利用を拒否するのでしょうか?
一体どのような心理状態なのでしょうか?
ここでは認知症の被保険者が介護保険サービスの利用を拒否する心理とは一体どのようなものなのかということについて、また、拒否するケース別の対応策についても解説していきますので、家族の中に認知症で介護保険サービスの利用を拒否している方がいるという方は是非この記事を参考にしてください。
介護保険サービスを拒否する認知症の心理状態
冒頭でも触れましたが、認知症の方の中には介護保険サービスの利用の利用を拒否する方がいます。
そのような方はどのような心理状態でサービスの利用を拒否しているのでしょうか?
ここでは、その主な理由について解説していきます。
その① 介護の必要性を理解できない
まず、自分自身に介護の必要性があるということを理解していないということがあります。
認知症の方は認知機能が低下していますので、自分自身に介護の必要性があることを認識することが難しい場合があります。
このような場合には時間をかけて本人の現状や介護の必要性についての説明を行っていくことになります。
被保険者と同じ目線に経って話をすれば納得してくれる場合もあります。
その② 介護を受ける以外に大切に感じていることがある
認知症の方の中には自分が今一番何をしたいのかということについて、他人にうまく説明することができない方もいます。
自分自身はトイレに行きたいと思っているのに他人にうまく伝えることができず、その最中に食事を促されるというようなことがあった場合拒否反応を示す場合があります。
また、腰痛や便秘といった身体的な不具合が介護の拒否につながっている場合もありますので、被保険者本人の状態や様子をよく確認した上で、本人が今何をしたがっているのかを理解することが重要になってきます。
その③ 疲れている
認知症の方は能が疲れやすいといわれているため、介護を拒否される理由が単純に疲れているからということもあります。
このような場合にはこのような状態の認知症患者には何かをしてもらおうと思ってもうまくいきませんので、時間をおいてからアプローチするとスムーズに運ぶことがあります。
その④ そもそも伝わっていない
認知症の方は言葉で説明するよりも五感による具体的な情報が伝わりやすいということがあります。
このため、難しい言葉であれこれ説明するよりも、道具を使ったり、視覚に訴えかけたりというような方法が認知症の方には伝わりやすい方法であるといえます。
その⑤ 気持ちが落ち込んでいる
認知症の方は感情的な記憶が自身の言動に大きく影響してきます。
このため、気持ちが落ち込んでいる場合も介護を受けることを拒否したりすることがあります。
例えば、着替えに関する介助で手荒な介助を経験してしまうと着替えに関する介助を拒絶してしまうことがありますので、認知症の方には負のイメージを持たれることがないように介助を行う必要があります。
ケース別の対応策
ここまでは認知症の方が介護を受けることを拒否する際の心理状態について解説してきましたが、ここでは介護の現場で良く見受けられる介護拒否のケース別の対応策について解説していきます。
その① 食事摂取拒否(食事介助拒否)
食事拒否の原因には「食べ方が分からない」「落ち着いて食事をすることができない」「嚥下障害等のトラブルがある」「食べ物として認識していない」ということがあります。
これらへの対応策はそれぞれ以下のようになります。
[食べ方が分からない]
認知症の症状の1つである失行によって食べ方が分からなくなっている場合には、本人の目の前で一緒に食事をしてみるということが一番です。
食べ方が分かるとつられて一緒に食べ始めることがあります。
また、食器の数が多すぎる場合には情報の多さから混乱してしまうことがあるので、盛りつけ等の工夫を行うことも重要です。
[落ち着いて食事をすることができない]
認知症の方は集中力が続かないと言う事がありますので、食事を行う場所は食事のみに集中することができるような環境を作り出す必要があります。
照明の明るさやテレビの音の大きさなどにも注意してみてください。
[嚥下障害等のトラブルがある]
嚥下障害とは飲食物を飲み込みにくくなる障害ですが、これがあることによって食事を拒否している場合もありますので心当たりがある場合には医師に相談するようにしてみてください。
また、嚥下障害以外にも虫歯等の病気である可能性もあります。
[食べ物として認識していない]
そもそも目の前にあるものを食べ物と認識していない場合も食事を拒否することがあります。
そのような場合には本人の目の前で一緒に食べてあげると、それを食べ物と認識して食べ始めることがあります。
その② 服薬拒否
服薬拒否の原因には「なぜ薬が必要なのか理解していない」「薬が飲み込みづらい」「副作用が出ている」「薬が嫌い」「服薬のタイミングが悪い」「服薬を進める方との相性が悪い」ということがあります。これらへの対応策はそれぞれ以下のようになります。
[なぜ薬が必要なのか理解していない]
認知症の方は自分自身が病気であるという自覚がない場合がありますので、服薬が必要であるということを根気強く説明して理解してもらう必要があります。
[薬が飲み込みづらい]
飲み込む力が低下している方の中には薬が飲み込みづらいため服薬を拒否する方もいます。
薬によっては飲み込みやすい形状に変更できる場合もありますので、一度主治医等に相談してみてください。
[副作用が出ている]
服薬拒否の原因として実際にその薬を飲むことによって副作用が出ているという場合があります。
本人からそのような訴えがあった場合、聞き流すのではなく医師に相談することが重要です。
[服薬のタイミングが悪い]
食後すぐに服薬を促すと、食後のほっとするひとときを邪魔されたと感じて服薬を拒否する場合があります。
このような場合は本人にゆとりがでるタイミングを見計らって服薬を進める必要があります。
ただ、食前・食後といったタイミングは守らなければなりませんので、難しい場合には主治医等に相談することが重要です。
[服薬を進める方との相性が悪い」
単純に服薬を進めてくる方との相性が悪いから服薬を拒否しているという場合もあります。
このような場合には、他の家族の別の方に服薬を進めてもらうのがいいでしょう。
一旦服薬を行うと相性が悪かった方が服薬を進めても変わらずに服薬を行う場合もあります。
その③ 入浴拒否
入浴拒否の原因には「入浴の必要性を理解していない」「ただ単に面倒くさい」「入浴に対するイメージが悪い」ということがあります。これらへの対応策はそれぞれ以下のようになります。
[入浴の必要性を理解していない]
認知症の記憶障害によって入浴の必要性を理解していない方は入浴を拒否することがあります。
このような方に入浴を共用すると反発されることがありますので、浴室や脱衣所に「タオルで身体を拭かせて」というような感じで誘導し、湯を張った浴槽を見せて「良かったらついでにどうですか?」と誘ってみるのがいいでしょう。
[ただ単に面倒くさい]
入浴には様々な手順を踏む必要がありますので、中には面倒くさいと感じる方もいます。
このような方には入浴が楽しいことだと感じてもらう必要がありますので、入浴剤や入浴道具等で興味を引いてみるのがいいでしょう。
[入浴に対するイメージが悪い]
以前に入浴の際の身体の洗い方について厳しく注意されたというような負のイメージがある場合に入浴を拒否される方もいます。
このような場合には本人の行動を否定するのではなく、やさしく手伝ってあげることが重要であり、入浴に関する負のイメージを払拭してあげることが重要です。
その④ 着替え拒否
着替え拒否の原因には「着替え方が分からない」「介助を行ってほしくない」「集中力が持続しない」「身体的な要因がある」ということがあります。
これらへの対応策はそれぞれ以下のようになります。
[着替え方が分からない]
着替えとは様々な動作を組み合わせて行うものであるため、認知症の方は認知機能の低下によって着替え方が分からなくなっている場合があります。
ただ、全てにおいて介助を行うとさらに着替え方を忘れてしまいますので、本人が躓いているポイントを確認し、そのポイントのみに対策を行うようにしましょう。
例えば、シャツの腕を通すところから首を出してしまう場合などは、前開きのシャツにする等の対策を行うことができます。
[介助を行ってほしくない]
着替えというものは非常にプライベートなことですので、その行為に人の手を借りることを非常にいやがられる方もいます。
そのような方に対してはついでを装ってサポートを行うようにしましょう。
「薬を塗るついで」「湿布を貼るついで」等のように、本人に気づかれないように行うといいでしょう。
[集中力が持続しない]
認知症の方は集中力を持続することが難しくなっていますので、たくさんの服を着ることになる冬などは着替えに対して嫌気がさしてしまう場合があります。
そのような場合には着替えの手順が少なくなるようにベルトが必要なズボンではなくゴムのズボンにするというような工夫が必要になってきます。
[身体的な要因がある]
着替えが必要なことだと分かっており、面倒くさくもないが身体的な要因によって着替えを行うことがつらいというような場合にも着替えを拒否される場合があります。
このような場合には介護の専門職に着替えの介助方法についての相談を行うようにしてください。
その⑤ 排泄介助拒否
排泄介助拒否の原因には「トイレのタイミングがずれている」「恥ずかしい」「排泄を失敗しそうで怖い」「トイレが怖い」ということがあります。これらへの対応策はそれぞれ以下のようになります。
[トイレのタイミングがずれている]
認知症が進行するとトイレのタイミングを伝えることが困難になりますので、早め早めにトイレに連れて行こうとする方がいますがそれは逆効果となります。
基本的に排泄介助は、本人のリズムで行う必要がありますので、本人の排泄の意識をくみ取ることが重要になってきます。
[恥ずかしい]
トイレというのは非常にプライベートな空間であり、排泄を介助されるということは認知症が進んでいたとしても恥ずかしく感じるものです。
このため、トイレに行かないかと進めるのではなく、トイレの前を通るように誘導してついでを装って排泄を行ってもらう必要がありますし、その際にはプライバシーには必ず配慮するようにしてください。
[排泄を失敗しそうで怖い]
時にはトイレに行くタイミングが合わずに失禁してしまう場合もあるかと思います。
ただ、そのような場合に強い口調で失跡してしまうとトイレに対する恐怖心などを抱えてしまう可能性がありますので、何かあってもやさしい口調で言葉を掛けるようにしてください。
[トイレが怖い]
以前にタイミングが合わずに失禁してしまった経験がある場合にはトイレが怖いと感じる場合があります。
このような場合には、照明を変えたり、花をおいたりというようにトイレを楽しい場所であると感じられるようなイメージチェンジを行う必要があります。
その⑥ 外部の施設サービス利用拒否
外部の施設サービス利用拒否の原因には「不安感がある」「出かける意欲がわかない」「どこに行くのか想像することができない」「施設との相性が悪い」ということがあります。これらへの対応策はそれぞれ以下のようになります。
[不安感がある]
認知症の方は周囲の影響を受けやすくなっていますので、施設に行く際の準備などで周りがドタバタしていると何科大変なことが起こったのではないかと勘違いして不安になってしまう場合があります。
朝はほとんどの方が時間がないと思いますが、朝の服薬等ならば施設での対応が可能な場合もありますので、施設に相談してみるようにしましょう。
[出かける意欲がわかない]
認知症の方は通常の人よりも行動を起こす際に必要になるエネルギーが大きいので、外出に対する意欲が低下していることがあります。
このような場合には、外に出かけることは楽しいことだということを感じてもらう必要がありますので、デイサービス等で作ってきた作品を褒めるなど、本人のやる気を引き出すようにしてください。
[どこに行くのか想像することができない]
認知症の方は記憶障害によって通っている施設の名前を出してもそれがどこなのか思い出すことができないという場合があります。
もし、仲のいい利用者や職員がいる場合には「その人の所へいきましょう」というと「あそこへ行くんだね」と納得されることがあります。
[施設との相性が悪い]
施設の評判が高くても本人と相性が悪いということはよくあることです。
そのような場合には施設へ通うことを拒否されることがあります。
このような場合で、施設へ通うことを拒否される期間が長くなるようであれば、施設の変更も必要になってきますのでケアマネージャー等に相談するようにしてください。
まとめ
ここまでは認知症の被保険者が介護保険サービスの利用を拒否する心理とは一体どのようなものなのかということについて、また、拒否するケース別の対応策についても解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
認知症の方は様々な理由によって介護を拒否されることがあります。
介護拒否をされた場合には解説してきたように通常の支店ではなく様々な側面からアプローチを行う必要があります。
また、今現在は何の問題もなく行っている介護も、認知症の症状が進行することによって介護拒否が現れる場合もありますので、どうにもならない場合には1人で、家族で抱え込むのではなく、ケアマネージャーや地域包括支援センター等に相談するようにしてください。