介護老人保健施設は理学療法士などのリハビリの専門職から専門的なリハビリを受けることができ、在宅復帰を目指す施設です。
この記事では、介護老人保健施設の現状と課題について詳しく解説します。
介護老人保健施設【現状と課題】経営主体は医療法人が多い
介護老人保健施設とは理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などのリハビリ専門職が専門的なリハビリテーションを行い、在宅復帰を目指す介護保険施設です。
他の介護保険施設と比べて、医療的なケアが多く行われる施設であるのが特徴です。
厚生労働省の「平成28年介護サービス施設・事業者調査の概況」から老健の現状を見てみると、介護老人保健施設の経営主体は、医療法人が75.1%を占めています。
これは介護老人保健施設は、入所者に対して専門的なリハビリや医療的ケアなどが必要であり、常勤医師や常勤看護師、常勤理学療法士などの配置が義務付けられているためだと思われます。
医療法人以外の経営主体が介護老人保健施設を経営する場合もありますが、専門職の人員基準を満たすことを考えると、どうしても医療法人に偏ってしまい、病院色の強い施設が多いのも現状です。
他の経営主体が経営を行うことで、介護老人保健施設の個性が広がることを期待します。
介護老人保健施設【現状と課題】全国的に特養より個室率が低い
介護老人保健施設は、定員別室数の割合を見ると個室が45.1%で第1位、次いで4人室(40.7%)、2人室(12.1%)の順になっています。
特別養護老人ホームの個室は73.4%であり、比較すると介護老人保健施設の個室率は低いです。
これは、特別養護老人ホームが入所者の最期の場所となるのに対して、介護老人保健施設は在宅復帰を目指してケアを行う病院と自宅との「中間地点」となっているためです。
また、介護老人保健施設のユニットケアの状況を見ると、ユニットケアを実施している施設数は10.5%です。
特別養護老人ホームは36.7%であり、比較すると介護老人保健施設の実施率が低いことがわかります。この点も両施設の特性が異なることから来ています。
介護老人保健施設【現状と課題】退所後の在宅復帰率が低い
介護老人保健施設の入所者の入所前と退所後の場所についてお話しします。
入所前の場所では医療機関が51.2%、次いで自宅が31.1%となっています。
退所後の行き先としては医療機関が36.6%、自宅が33.1%、死亡が12.0%です。上記の結果を踏まえると、退所後の在宅復帰率が低いことがわかります。
介護老人保健施設には「従来型」と「在宅強化型」の2つがあります。
「在宅強化型」とは厚生労働省が定める要件を満たした在宅復帰・在宅支援機能が高いと認めたれた介護老人保健施設のことです。
退所後の行き先が自宅となっている在宅復帰をした方の割合は、従来型においては18.5%、在宅強化型でも61.6%とやっと6割を超える程度です。
一方で、退所先が医療機関の方の割合は、従来型で57.3%と6割近くに上り、在宅強化型でも22.5%あります。
これらの結果を踏まえると、介護老人保健施設は病院から在宅復帰への中継点と期待されてきましたが、その期待には応え得ていないということです。
在宅強化型の施設が増えてきてはいますが、その割合は全体の15.8%で、まだまだ従来型の施設が多く、全体の53.7%あります。
全体の1割ほどの在宅強化型の施設が在宅復帰率を上げても介護老人保健施設全体の在宅復帰率を上げることにはなかなか繋がりません。
医療と介護の連携や地域で高齢者の暮らしを支える地域包括ケアシステムの整備を整え、従来型の施設の在宅復帰率を上げることで、全体の在宅復帰率が向上していくと思われます。
介護老人保健施設【現状と課題】在宅=自宅に固執している
先ほどは在宅復帰の話をしましたが、ここでは少し視点を変えて「在宅=自宅」ではないという考え方を紹介します。
近年は核家族化により共働きの家庭が多く、いわゆる専業主婦が親や義理の親の介護をするというケースは少なくなっています。
また高齢化が進み、介護する側も高齢化し、老老介護(高齢者が高齢者を介護する)や認認介護(認知症の人が認知症の人を介護する)という場合もあります。自宅で介護をするという形が難しくなってきているのです。
訪問介護サービスにショートステイやデイサービスを組み合わせて、同居する家族の負担を軽くしながら在宅生活を支援する方法もありが、これは地域における在宅サービスが充実が前提にあり、場合によっては難しいところもあります。
介護老人保健施設の退所後の行き先として、完全な自宅復帰に固執するのではなく、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホーム、グループホームを利用しながら、徐々に自宅へという柔軟な考え方をしても良いと思います。
普段は施設に居住しながら、月に何日かは自宅に帰るという逆ショートステイも考えられます。
このように在宅=自宅という考え方に固執するのではなく、柔軟な考え方をすることで、退所後の行き先の選択肢が増え、退所時の条件が緩くなり、退所率の向上に繋がると思われます。
介護老人保健施設【現状と課題】地域包括ケアシステムとしての機能
介護老人保健施設は経営主体の8割近くを医療法人が占めており、それに加えて、医師や看護師の常勤が義務付けられています。
現在の役割も医療と介護の中間的なものであり、地域における医療と介護の連携において、重要な存在と言えます。
前述したように、現在は従来型の介護老人保健施設が全体の5割ほどで、在宅強化型と在宅支援加算型の割合はまだまだ少ないですが、将来的には、在宅強化型+在宅支援加算型が増えることが期待されています。
現状では、従来型の介護老人保健施設が多く、在宅復帰率もまだまだ低いですが、在宅強化型が増えることにより、在宅復帰率が上がり、介護老人保健施設が今よりも地域と密着した施設となることができます。
今後は、介護老人保健施設が医療と介護の連携で中間の重要な役割を果たし、地域包括ケアシステム構築の要的な存在としての、期待が高まっています。
まとめ
この記事では、介護老人保健施設の現状と課題について解説しました。以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 介護老人保健施設は、専門的なリハビリや医療的ケアが多いことから、経営主体は医療法人であることが多いです。
- 介護老人保健施設は、特別養護老人ホームと比べて、両施設の特性が異なることから、個室率が低いです。
- 介護老人保健施設は病院から在宅復帰への中継点と期待されていたが、現状では退所後の在宅復帰率は低いです。
- 「在宅=自宅」という考え方に固執するのではなく、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなど、柔軟な考え方をすることで、退所後の選択肢が増え、在宅復帰率の向上に繋がります。
- 介護老人保健施設は、医療と介護の中間的な役割を担っており、在宅強化型の施設が増えることで、地域包括ケアシステムとしての機能も期待されます。
- 介護老人保健施設は、在宅復帰を目指す施設したが、在宅復帰率は低く、本来の目的は果たせていないのが現状です。
しかし、国も加算などを設けることで、在宅強化型への力を入れており、今後は在宅強化型の施設が増えると考えられます。
今後、在宅復帰率が向上し、本来の介護老人保健施設としての役割を果たせるようになると、地域包括ケアシステムとして機能することができ、高齢者の方の地域での生活を支援できるでしょう。