生活拠点を施設へ移し、介護サービスを受けることができる「施設系サービス」は、名称が似通っていることもあり、特徴やメリット・デメリット、入所できる対象者がわかりにくい側面があります。
今回は「施設系サービス」の中でも「介護老人保健施設」にスポットをあてて、概要や「施設系サービス」の1つである「介護老人福祉施設(略称:特養)」との違いを解説していきます。
「介護老人保健施設」の概要を1つずつ確認し、「施設系サービス」を利用する際の参考になさってください。
介護老人保健施設の概要
「介護老人保健施設」ですが「老健」とも呼ばれており、代表的な「施設系サービス」の1つです。
医療法人や社会福祉法人が運営しており、医療処置やリハビリが充実しているという大きな特徴があります。
その① 介護老人保健施設の特徴や役割
「介護老人保健施設」は公的な介護保険施設の1つで、在宅復帰を目的として施設での生活を送ります。
在宅復帰という目的のため入所する施設ですので、入所期間は定められており、終身利用することはできません。
「介護老人保健施設」に入所できる期間は、おおむね3か月から6カ月と言われています。
「介護老人保健施設」では日々の生活に必要な食事や入浴、排せつなどの身体介護のほかに、健康管理や医療処置、理学療法士や作業療法士などの専門職からリハビリテーションなどのサービスが提供されます。
また「介護老人保健施設」では医師が常勤として配置しなければなりません。
看護師も「介護老人福祉施設(特養)」と比較して手厚く配置されており、「介護老人福祉施設(特養)」では対応が難しいインスリン注射やたん吸引、経管栄養などが必要な方でも、「介護老人保健施設」の入所が可能である場合があります。
医療処置が必要な場合に関しては、「介護老人保健施設」の窓口となる職員に確認しましょう。
その② 介護老人保健施設のメリットとデメリット
次に「介護老人保健施設」のメリットとデメリットについて解説していきます。
はじめに「介護老人保健施設」のメリットからです。
1つ目のメリットとして、在宅復帰を目的とし日々の生活を送る点です。
「介護老人保健施設」へは在宅復帰を目的としての入所となるため、病院から退院をせまられているものの自宅へ戻るのが不安な方に対し、病院から自宅までの橋渡しのような役割が期待できます。
2つ目のメリットですが、理学療法士や作業療法士などのリハビリテーションに関する専門職から、専用の機器や器具を用いたリハビリを受けることができる点です。
理学療法士は立ち座りや寝起きなどの、日常生活に必要となる基本動作に関する専門職であり、作業療法士は洗濯や料理などの応用的な日常動作に関する専門職です。
3つ目が医療的なケアが充実している点です。
「介護老人保健施設」の特徴でも解説したように医師が常勤として配置しており、看護師の配置人数も多く、インスリン注射やたん吸引などの医療処置が対応可能となっています。
続いて「介護老人保健施設」のデメリットについて解説してきましょう。
デメリットの1つ目ですが、先ほどメリットとして紹介した在宅復帰を目的として入所する点が、介護環境によってはデメリットになってしまいます。
介護をする家族が高齢であったり、就労しなければならず十分な介護を行えなかったりする場合、「介護老人保健施設」に入所後、いずれは退所しなければならない点は大きなデメリットです。
2つ目のデメリットとして、多くの「介護人保健施設」は2~4人の入所者が大部屋で生活をする「多床室型」となっており、個室等と比較しプライバシーの保護が十分に行われにくいという点があります。
3つ目に「介護老人保健施設」は入所目的からレクリエーションやイベント等、生活を楽しむためのサービスが提供されにくい点です。
レクリエーションやイベント等で毎日の生活を楽しく送りたいという方には不向きな「施設系サービス」と言えます。
その③ 介護老人保健施設の対象者
続いて「介護老人保健施設」の対象者について、解説していきます。
65歳以上であれば、要介護1以上の要介護認定が下りている方が対象となります。
40歳以上65歳未満の方でも「介護保険の特定疾病」に該当すれば「介護老人保健施設」の対象になりますが、要介護1以上の認定が下っている必要があります。
インスリン注射やたん吸引、経管栄養の方でも「介護老人保健施設」に入所可能と解説してきましたが、施設によっては看護師が24時間体制で配置されていない場合もあり、夜間に医療処置が必要な方は入所が難しい場合があります。
夜間対応に関しては施設によって異なりますので、医療処置が夜間必要な場合は事前に確認しておくことを強くおすすめします。
その④ 介護老人保健施設の利用料金
気になる「介護老人保健施設」の利用料金ですが、内訳は次の通りとなっています。
介護保険の給付対象となる「施設サービス費」は、「介護老人保健施設」を利用した時の基本料金のようなものです。
加算や施設の規模により、「施設サービス費」の詳細は異なります。
「施設サービス費」を除く利用料金は実費となり、利用しただけ料金を支払う必要があります。
その他日常生活費に関しては、理美容代や洗濯代です。
薬代やおむつ代、日常的に必要な医療に関わる費用に関しては、「施設サービス費」に含まれているため、別途支払う必要はありません。
施設の規模や加算状況、入居者の状態にもよりますが、概ね1か月間に9~20万円程度の利用料金がかかります。
利用料金に関しては毎月支払うことになりますので、「介護老人保健施設」の入所に関する窓口で必ず確認するようにしましょう。
介護老人保健施設と特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の違い
「介護老人保健施設」の概要について解説してきましたが、ここで「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」との違いについて整理しましょう。
具体的には次の表が、「介護老人保健施設」と「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」との違いです。
上の表から役割やサービス内容、入所期間など、「介護老人保健施設」と「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」で多くの違いが確認できます。
まとめ
「介護老人保健施設」の概要や、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)との違いについて解説してきました。
「介護老人保健施設」の特徴やメリット・デメリット、特別養護老人ホームとの違いについて理解を深めることができたのではないでしょうか。
「介護老人保健施設」についてまとめると
- 「介護老人保健施設」は在宅復帰を目的として生活を送る施設であり、入所期間に制限がある
- 「介護老人保健施設」では医療処置やリハビリが充実している反面、レクリエーションやイベント等の生活を楽しむために提供されるサービスが頻回に行われにくい
- 役割やサービス内容、入所期間等で「介護老人保健施設」と「特別養護老人ホーム」とでは大きな違いがある
ということがあります。
「介護老人保健施設」は入所後、いずれ退所しなければなりません。
施設から退所の要望が出されたのちに、あわててどのように介護を行うか決めることがないように、「介護老人保健施設」の入所は、退所後の介護方針についてセットで検討したいところです。
入居者や家族が満足し、「施設サービス」を利用するためにも、「介護老人保健施設」の特徴やメリット・デメリットを事前に確認しておきましょう。