グループホームとは、正式名称を「認知症対応型共同生活介護」と言います。
介護保険制度では、地域密着型サービスという名称のサービス種別に分類されていて、その施設が所在する市町村に住民票がある方が利用できる介護サービスです。
認知症の方専門の入所施設で、9人1ユニットとなり、馴染みの環境の下で一緒に暮らすというコンセプトの施設になります。
今夏は、そんなグループホームの特徴について、詳しくご紹介していきたいと思います。
グループホームの最大のメリットについて
グループホームというと、認知症の方が入所する施設というのは一般の方々にも浸透してきていることと思います。
しかし、その詳細や他の入所施設との違いまではなかなか広がっていないのではないのでしょうか。
まずは、他施設と比べてグループホームが際立っているポイントについてご紹介していきます。
とにかくアットホーム
筆者もグループホームでの勤務経験がありますが、働いてみてまず一番に感じたことは、職員と入居者、入居者同士の関係性が非常に近いという点です。
施設というよりは、共同生活をしているルームメイトのようなイメージでした。
そんなアットホームな雰囲気を形作っているのは、まさに認知症専門の入所系施設として、認知症に最大限配慮した住環境作りや、介護職員の配慮によるものです。
例えば居室。グループホームの居室は、基本的に個室です。認知症の方は、突然生活環境が変わると気持ちが落ち着かなくなったり、自分が今どこにいるのか分からない→何をされるか分からない…と言った不安が強くなり、精神的に不安定になったりしてしまいます。
それらを専門用語で“リロケーションダメージ”と言いますが、認知症の方にとってはそれが生活上の大きな壁となります。
そこで、リロケーションダメージを防ぐために、居室内は自宅にいたころの環境に極力近づけるようにします。
入居前に自宅に訪問して寝室の写真を撮り、家具を可能な範囲で施設に持ち込んで施設内に自宅の居室を再現するのです。
また、例えば花壇をするのが好きだった入居者がいれば、施設の敷地内にミニ花壇を作ったりプランターを用意したりして本人の趣味の時間を持てるようにします。
これは施設の外観もよくなりますし、入居者本人も以前のような楽しみを持つことができ、一石二鳥ですよね。
それ以外にも、刺し子が好きだった人には刺し子を、縫製の仕事をしていた方には本人の役割としてほつれた衣類を直してもらったり、雑巾を作ってもらったりします。
水分補給に使用するコップや湯飲み、寝具も自宅から使い慣れたものを持ち込みます。
中には、簡易的な仏壇や位牌などを持ち込む人だっています。
しまいには、グループホームで看取られた方が生前希望し、グループホーム内でお葬式を上げた例もありました。
このように、本人の趣味や生活歴をグループホームでの入居生活に結び付けて環境改善を図っていくことの積み重ねと、それを目指す施設職員の姿勢、そこに入居者一人一人の個性がうまく結びつき、グループホームのアットホームな雰囲気を形作っているのです。
落ち着いて生活できる
グループホームが分類されている地域密着型サービスの特徴は、「地域の特性を活かし、その地域に添ったサービスを提供する」というものです。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設のような大規模な施設は、多数の職員が常に広く迷子になりやすい施設内を歩き回り、来客や業者も多く出入りし、多数の利用者がいて入退所による入れ替わりも多く、常にせわしない雰囲気があります。
それに対してグループホームは、施設は小規模で分かりやすい設計ですし、職員も同じ顔ぶれが並びます。
施設内にある設備や物品も専門的な用具ではなく、家庭用の製品を活用したり、一緒に買い物に行ったりして用意します。
そういった自宅に近い仕組みが、落ち着いた生活をおくるための環境の土台となっているのです。
多くが地域に根ざしている
現在国では、住み慣れた地域でいつまでも暮らしていくための「地域包括ケアシステム」という考え方を推進しています。
これは重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制の構築を実現を目指そう、という考え方によるものです。
その中で地域密着型サービスは、地域の特性を活かし、その地域に添ったサービスを提供するために、市町村が事業者の指定や監督を行っています。
それによって、きめ細かいサービスを柔軟に提供することが期待されています。
また、運営推進会議(介護・医療連携推進会議)を定期的に開催することなっており、これが地域に根ざした活動を担保するための機能となっています。
具体的には、下記のような提供しているサービスの内容等を利用者、区市町村職員、地域住民の代表者等に対して明らかにすることにより、地域に開かれたサービスとすることで、サービスの質を確保することを目的として設置するものです。
- 事業運営の基本方針
- 日常サービスの提供内容や定例行事の実施報告
- 利用者の構成(年齢、要介護度、利用年数等)
- 事故報告(発生状況、再発防止策等)
- 利用者の健康管理に係る取り組み(熱中症や感染症に対する取り組み等)
- 非常災害対策の取り組み(消防計画の策定・見直し、避難訓練の実施等)
- 地域連携の取り組み(地域行事への参加、異年齢交流、ボランティアの受入れ等)
2 グループホームの食事について
グループホームの食事は、他の入所系介護施設とは全く違います。グループホーム故の特徴とも言える食事について、ここで説明しておきましょう。
食事の費用
グループホームに限らず、入所系施設の食費は、以前は介護保険の介護費用に含まれる金額設定でしたが、法改正により自己負担となっています。
相場としては、1食あたり500円程度で計算されている所が多いようです。ただしその費用は1食単位で設定されていたり、1日単位で設定されていたり、1ヵ月単位で設定されていたりと様々です。
また、地域事情や運営元の経営状況、消費税の変更などによって徐々に値上がりしているところが多い傾向があるようです。
食事の内容
グループホームの特色の一つが、食事にあります。
基本的にグループホームでは、自分たちで調理します。
なぜなら、調理という行為は非常に認知症予防や進行の抑制に効果があると言われているからです。
皆さんは、調理という行為は実は頭も体もフル回転させて行われる行為だということにお気付きでしょうか?
献立を考える所から始まり、買い物に行けば食材を探すために歩き、何を買うか思い出し、レジに持っていき、お金を支払い、重い食材を持って帰る。
その後も帰ってきてから計画立てて調理を進めないと美味しい料理は作れませんよね。
また、ご飯を炊くためには作業だけでなく、調理の進行状況も加味して何時にご飯を食べるか検討し、そこから逆算して炊きあがる時間を調整しなければなりません(大抵はタイマー炊飯ですが)。
この一連の動作が、認知症予防や進行抑制に効果があると言われているのです。
さらに、“美味しいごはん”を目指した入居者と職員の共同作業によってコミュニケーションの機会が増え、人間関係の醸成へと寄与するのです。
そのため、職員は最低限の調理スキルを身に着ける必要があります。
私は小さいころから調理師の母から仕込まれてましたので問題ありませんでしたが…
ただ、事業所によっては併設されている施設との関係で味噌汁だけ作ればよいところがあったり、配食サービス等に委託していたりと全てのグループホームが日頃から調理を行っているわけではありませんので、見学や面接のときに確認してみるとよいでしょう。
グループホームのスタッフについて
最後に、グループホームの職員体制について解説していきます。
介護と看護の関係
グループホームには、看護職員の配置義務がありません。普通の家族に看護師がいるなんて、そうそうありませんよね?
まさに自宅の延長線上にあるグループホームの弊害ともいえるかもしれません。そのため、一般的に医療に弱いと言われています。
ただ、当然要介護状態の方々にとっては普段の生活の中で医療知識や行為が必要となる場面はあります。
そのため、常駐ではないにしろ看護職員を配置しているグループホームも増えてきています。
また、医療を重視する法人の場合は近くの訪問看護事業所と委託契約を結び、常に相談・対応が可能な体制をとっている所もあります。
グループホームは終の住処です。看取りケアに関する加算を算定している施設は看護師がいますので、一つの指標になると言ってよいでしょう。
介護スタッフがしてくれる内容
グループホームのサービス内容は、その入居者1人1人の認知症や身体状況に応じた必要な入浴・食事・排泄等の生活全般の介護を行います。
身体介護だけでなく、日々のレクリエーションや地域ボランティアとの交流の機会の提供なども仕事の一つです。
居室や施設内の掃除・洗濯・買い物等は、日常活動として職員と入居者が協力しながら一緒に行います。
例えば受診が必要になったとき、急変時や転倒などが生じたときはグループホームの職員が同行し、家族に連絡し駆けつけてもらうという形が多いです。
それ以外の定期通院については、基本的に家族対応としている傾向があります。
施設によって違いがありますので、事前に確認が必要な点ですね。
介護スタッフは優しい??
グループホームに務める職員は、認知症介護に誇りと意義を以て働いている場合が多いです。
そのため、他施設の介護職員と比較して認知症対応が得意です。
例えば「家に帰る」と不穏になり、なだめても効果がない場合は気が済むまで徘徊に付き合います。
私が働いていたグループホームでは、家が心配で庭の手入れをしなければならないと訴えて施設を飛び出してしまう方がいましたので、片道4km程度の道をほぼ毎日歩くという活動がありました。
また、基本的医にグループホームは共同生活の場というイメージですので、入居者からも出来ることは自分でやってもらいます。
中にはそれが「優しくない」「なんで介護してくれないの」と思う方もいるようです。
しかし、自分で出来ることを見つけてやっていただくことで、心身の機能を維持し認知症の進行を抑制することが出来るのです。
骨折して患部を固定したあとは、リハビリしないと動かせなくなりますよね?そのような廃用症候群(生活不活発病)を防ぐという意味合いもあります。
更には、あえて建物内の段差を残した作りにしたり、水道の蛇口を自動吐出にしなかったりといったバリアフリーとは真逆の考えで“バリアアリー”な作りにしているところも少なくありません。
まとめ
グループホームは、認知症の方が安心して自分らしく暮らすことを目的とした施設です。
そのため他の施設とは職員配置や設備、日常生活、介護に対する姿勢などに特徴がある施設です。
設備や職員体制は他の施設と比べれば整っていないと言われる面もあるかもしれませんが、身体介護技術だけでなく、認知症対応のノウハウや創意工夫、様々な生活上の知識・知恵を活かして日々ケアを行っています。
そのスタッフの姿は、まさに高齢者の日常生活を支えるプロフェッショナルです。
要介護者を抱える方も転職をお考えの方も、興味を持った方は、ぜひお気軽に見学してみることをおススメします。