健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し、自立を助長するための制度として、生活保護があります。
生活保護の中には様々な援助項目があり、介護サービスに関するものも含まれているのです。
今回は生活保護の扶助内容(援助内容)や、生活保護受給者が介護保険を利用する際の適用範囲について解説していきます。
生活保護や介護保険に関して、疑問がある方は参考になさってください。
そもそも生活保護制度とは何か?
そもそも生活保護とは、どのような制度なのかから解説していきます。
生活保護制度とは、日本国憲法で定めている健康的で文化的な最低限度の生活を、国や自治体が保障する制度です。
資産や能力等をすべて活用しても、日々の生活が困窮する人に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その自立を助長することを目的としています。
生活保護には、原則的に8つの扶助内容(援助内容)が存在します。
扶助内容によって、援助の対象となる費用の発生理由や援助の内容が異なります。
1つずつ扶助内容について、確認していきましょう。
その① 介護扶助
要介護者を対象とし、介護サービスを利用した時に発生する、1割から3割の施設サービス費が給付されます。
介護保険と同様に、介護扶助は現金ではなくサービスが支給される、現物給付によって行われます。
福祉事務所が発行した「介護券」を使用することにより、本人が施設サービス費を負担することなく、介護サービスを利用することが可能です。
その② 生活扶助
生活扶助は衣類や光熱水費などの、基本的な生活費を対象として現金が支給され、基準生活費と加算に大別されます。
基準生活費は年齢や世帯人数、居住地などの条件によって定められる生活費を基にして算出されます。
加算は、世帯に特定の需要があると判断された場合にのみ発生します。
生活扶助の加算は以下の通りです。
その③ 住宅扶助
住宅扶助は、居住する上で発生する費用が対象です。
アパートやマンションなどの賃貸物件に住んでいるのであれば家賃が、持ち家の場合は改修に必要な費用が、現金給付されます。
また転居する場合は、敷金や礼金が支給対象になります。
その④ 教育扶助
教育扶助は世帯の児童に対し、義務教育中の教育にかかる費用を対象とする扶助内容です。
教育費として必要な費用の実態に即して、現金が支給されます。
その⑤ 医療扶助
医療扶助は病気やケガの治療に必要な、医療費を給付する扶助内容です。
生活保護法に基づく指定医療機関にて、医療サービスの提供を受けた場合、本来であれば発生する1割から3割の料金を負担することなく、治療を受けられます。
介護扶助と同じく、現金ではなく医療サービスが提供される、現物支給にて行われます。
その⑥ 出産扶助
出産扶助では、出産に必要な費用を現金にて支給されます。
出産扶助の対象となるのは自宅での出産や、指定助産施設以外で出産するケースに限られます。
病院で出産する場合は、児童福祉法が定める入院助産制度が優先されますので注意が必要です。
その⑦ 生業扶助
生業扶助は自立を目的として、働くために必要な費用を現金給付する扶助内容です。
就職のために必要である衣類の購入費や、小規模な自営業の設備費が対象です。
その⑧ 葬祭扶助
葬祭扶助では、生活保護を受給している方が亡くなったとき、葬祭や埋葬にかかる費用が現金給付されます。
以上が生活保護の扶助内容のあらましについてです。
生活保護の概要について理解が深められたところで、次の項目では生活保護と介護保険の関係性について解説していきます。
生活保護受給者に介護保険はどこまで適用される?
生活保護受給者に、介護保険がどこまで適用されるかは年齢によって異なります。
具体的には40歳以上64歳以下の方と、65歳以上の方です。
それぞれの年齢にわけて、介護保険の適用範囲を確認していきましょう。
その① サービスの利用について
原則として、40歳以上64歳以下の方が介護保険を利用するには、介護保険の特定疾病に該当しなければなりません。
介護保険の特定疾病は次の通りです。
生活保護受給者が上記の特定疾病に該当する場合、40歳以上64歳以下の方は「みなし2号」という制度上の位置づけになり、介護サービスを利用することになります。
介護サービスにかかる費用は、介護扶助から支払われます。
40歳以上64歳以下の方が該当になる「みなし2号」とは、第2号被保険者と「みなす(仮定する)」ということを指してます。
原則的に40歳以上64歳以下の方は、介護保険の第2号被保険者に該当し、医療保険料に上乗せして、介護保険料が徴収されます。
しかし生活保護受給者は医療保険に加入しない「無保険」状態のため、介護保険料が納付できません。
そこで生活保護を受給している40歳以上64歳以下の方は、第2号被保険者と仮定する必要があるのです。
一方で65歳以上の方は、介護扶助から施設サービス費が支払われます。
その① 介護保険料について
介護保険料についてですが先ほど解説したように、40歳以上64歳以下の方はみなし2号であるため、介護保険料は納付しません。
対して65歳以上の方は、生活扶助から支払うことになります。
65歳以上になると、介護保険料が生活扶助に上乗せされ支給されるためです。
介護に必要な費用はどこまでが生活保護でカバーできる?
さいごに介護に必要な費用は、どこまでが生活保護でカバーできるか解説していきます。
その① 口腔ケア用具
口腔ケア用具に関しては、福祉事務所に確認する必要があります。
要支援、要介護認定が下りていれば、ケアマネージャーと契約を結んでいるでしょうから、担当ケアマネージャーに確認するのも選択肢の1つです。
訪問歯科を利用して口腔ケアを行うのであれば、医療扶助や介護扶助により、自己負担分が発生しないケースがあります。
いずれにしろ口腔ケアに関して疑問に感じることがある場合は、福祉事務所や担当ケアマネージャーへ確認することをおすすめします。
その② 特殊な介護用衣類
福祉用具貸与を行っている事業所に、希望する介護用衣類がある場合、介護扶助にてカバーできる可能性があります。
介護扶助を活用する関係から、要支援または要介護認定を受ける必要があります。
福祉用具貸与以外で、特殊な介護用衣類を購入・レンタルしたい場合は、福祉事務所や担当ケアマネージャーへ問い合わせるとよいでしょう。
その③ オムツやパット
オムツやパットは生活扶助の一時扶助にて、月額20,600円までカバーできます。
ただし常時失禁状態にある患者等に使用する、紙オムツやパット等を必要とする場合に限り、基準額の範囲内において、必要最低限度の額を計上する必要があります。
まとめ
生活保護とは何かや、生活保護受給者が介護保険を利用した時のサービス費などについて、解説してきました。
生活保護の概要や、生活保護と介護保険の関係性について、理解が深められたのではないでしょうか。
介護保険は生活保護でどこまでカバーできるかをまとめると
- 生活保護は、資産や能力等をすべて活用しても生活に困窮する人に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その自立を助長する制度である。
- 生活保護受給者は40歳以上64歳以下と、65歳以上で介護保険料の取り扱いが異なる。
- 口腔ケア用具や特殊な介護用衣類など、個別の事例に関してわからないことがあったら、福祉事務所や担当ケアマネージャーに確認するとよい。
ということがあります。
生活保護と介護保険との関係を理解するには、専門知識が必要になります。
生活保護を受給していてわからないことや、生活保護受給者が介護保険を利用するときには、福祉事務所や担当ケアマネージャーなどへ確認を行いましょう。