リハビリの職種には理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がありますが、中でも言語聴覚士はあまり聞き慣れない職種です。
この記事では、介護保険における言語聴覚士の役割、リハビリ内容について、詳しく解説します。
そもそも言語聴覚士とはどのような資格か
言語聴覚士はSpeech-Language-Hearing Therapist(ST)とも呼ばれ、理学療法士、作業療法士と並ぶ、リハビリテーション専門職です。
言語聴覚士とは、病気、加齢、生まれつきの障害などによって、会話や発声、食事などがうまくできない人に対し、必要な指導、アドバイス、訓練を行う専門職です。
対象は、ことばによるコミュニケーションや摂食・嚥下機能に障害を持つ方々であり、これらの障害を抱えた人たちの社会復帰のお手伝いをし、自立した生活を構築できるよう支援するのが言語聴覚士の仕事です。
在宅介護サービスでの言語聴覚士の役割
言語聴覚士が活躍する場として、医療施設、保健施設、福祉施設、教育機関などがあります。病院から地域、施設から在宅へと医療の体制が大きくシフトしており、医療分野や病院だけでなく、在宅・介護分野での言語聴覚士の需要も高まっています。
在宅介護サービスとは在宅で介護をしている要介護の方が利用できるサービスであり、自宅へ訪問してもらいサービスを受ける「訪問型」のサービスと、施設へ通いサービスを受ける「通所型」のサービスがあります。
在宅介護サービスにおける言語聴覚士は、在宅で生活する利用者の方が安全に暮らしていけるよう支援します。口腔・嚥下機能の維持・向上やコミュニケーション能力の維持・向上、誤嚥性肺炎の予防などに対するアプローチを行います。また、在宅で介護を行う家族に対しても支援を行います。
その① 言語聴覚士がリハビリを実施するサービス事業所の種類
自宅へ訪問してもらいサービスを受ける「訪問型」のサービスには
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅療養管理指導
- 夜間対応型訪問 ※地域密着型サービス
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 ※地域密着型サービス
この中で、言語聴覚士がリハビリを実施するサービス事業所は
- 訪問看護(訪問看護ステーションにおける理学療法士等による訪問リハビリ)
- 訪問リハビリテーション
施設へ通いサービスを受ける「通所型」のサービスには
- 通所介護(デイサービス)
- 通所リハビリテーション(デイケア)
- 認知症対応型通所介護(認知症対応型デイサービス)※地域密着型サービス
- 療養通所介護(療養型デイサービス)※地域密着型サービス
この中で言語聴覚士がリハビリを実施するサービスは「通所リハビリテーション(デイケア)」です。
最近はリハビリに特化した通所介護(デイサービス)もあり、言語聴覚士のリハビリが受けられる施設もあります。
その② 言語聴覚士が行なう具体的なリハビリ内容
言語聴覚士が行う具体的なリハビリ内容について、障害別に紹介します。
- 「聞こえ」の障害
- 「話すこと」の障害
- 「食べること」の障害
- ことばの遅れ
- 成人の言語障害
「伝音性難聴」や「感音性難聴」などの「聞こえ」の障害がある人に対して、検査や訓練、補聴器のフィッティングなどを行います。
「構音障害」や「吃音(きつおん)」などの「話すこと」の障害がある人に対して訓練を行います。発声音声器官に障害がある構音障害や、声に異常が発生する音声障害、流暢(りゅうちょう)に話すことが難しい吃音なども言語聴覚士の評価・訓練の対象となります。
「食べること」の障害とは、「摂食・嚥下(えんげ)障害」を指します。食べ物が口からこぼれる、うまく飲み込めない、むせるといった摂食・嚥下障害に対して、原因の調査と必要な器官の運動訓練や、飲み込む反射を高めるための訓練を行います。
「ことばの遅れ」とは具体的には子どもの発達障害を指します。知的発達の遅れ、対人関係の障害、脳の損傷などにより言語機能の発達が遅れている子どもに対して、「ことばやコミュニケーションに関心を持たせる」、「語彙や文法、文字の習得を促す」などの訓練・指導を行います。
「成人の言語障害」とは具体的には「失語症」や「記憶障害」、「認知症」などを指します。失語症は脳卒中や交通事故などによる脳外傷などが原因で起こる、成人の後天的な言語機能障害です。伝えたい内容を単語や文で表現したり、単語や文の意味を理解することが困難になります。失語症以外の「高次脳機能障害」に対しても、言語聴覚士は患者さん一人ひとりの症状や発生メカニズムを把握し、それに対応したプログラムを組み立てて訓練を行います。
通所リハビリ(デイケア)の利用者は、比較的介護度が軽く、ご自分で食事が食べられる方が多いです。
そのため、利用者の口腔・嚥下機能の維持を目的にアプローチしていきます。
一方、訪問リハビリの利用者は、比較的介護度が重く、脳血管障害や難病などで寝たきりの方も多くいます。
嚥下機能もですが、話すことが難しい方もおり、コミュニケーション能力に対してもアプローチしていきます。
また、高齢者の死亡原因として誤嚥性肺炎の割合が増加している背景もあり、在宅ではその予防・改善が必要になっています。
その③ 言語聴覚士が行なうリハビリについての料金
通所リハビリでは介護度別に基本料金が定められています。
これとは別に通所リハビリにおいて、リハビリに関連する加算は、
- リハビリテーションマネジメント加算
- 短期集中個別リハビリテーション実施加算
- 認知症短期集中リハビリテーション実施実施加算
- 生活行為向上リハビリテーション実施加算
- 社会参加支援加算
訪問リハビリテーションでは、基本サービス費は、1回(20分以上)302単位であり、40分連続してサービスを提供した場合は、2回として算定されます。
1週に6回を限度としています。
これとは別に訪問リハビリにおける加算は、
- 短期集中リハビリテーション実施加算
- リハビリテーションマネジメント加算
- 社会参加支援加算
- サービス提供体制強化加算
それぞれの加算については、後ほどまとめて解説します。
施設介護サービスでの言語聴覚士の役割
施設介護サービスとは特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院に入所した要介護の方に提供されるサービスです。
特別養護老人ホームでは主に食事・排泄・入浴などの介護が提供されるのに対して、介護老人保健施設や介護療養型医療施設、介護医療院では、医学管理下における介護やリハビリ、療養上の管理や看護などのサービスも提供されています。
施設介護サービスにおける言語聴覚士は、施設に入所する利用者の口腔・嚥下機能の維持・向上、コミュニケーション能力の維持・向上、誤嚥性肺炎の予防などに対するアプローチを行います。
その① 言語聴覚士がリハビリを実施するサービス事業所の種類
施設介護サービスには
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
この中で、言語聴覚士がリハビリを実施するサービス事業所は「介護老人保健施設」です。
介護老人保健施設は病院と自宅を結ぶ中間に位置づけられる施設であり、一定の期間入所してリハビリを受けることができる施設です。
介護老人保健施設には、医師や看護師のほかに、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリ専門職の配置が義務付けられているため、専門的なリハビリが受けられます。
介護老人保健施設以外にも、特別養護老人ホームなどでもリハビリに力を入れているところもあり、言語聴覚士のリハビリが受けられる施設もあります。
その② 言語聴覚士が行なう具体的なリハビリ内容
施設に入所できるのは、要介護の認定を受けた人のみであり、基本的に要支援の人は利用できません。
そのため、施設に入所している方は要介護度が重く、寝たきりの方も多くいます。
寝たきり状態となると、廃用症候群がすすみやすくなり、嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎を発症しやすくなります。
言語聴覚士は、施設に入所している利用者の方の口腔・嚥下機能の維持・向上、誤嚥性肺炎の予防などに対してアプローチを行います。
その③ 言語聴覚士が行なうリハビリについての料金
介護老人保健施設では介護サービス費、居住費、食費などがかかります。
これらは介護度や居室のタイプによって異なります。
これらとは別に介護老人保健施設において、リハビリに関連する加算は、
- 短期集中個別リハビリテーション実施加算
- 認知症短期集中リハビリテーション実施実施加算
前述した通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション、介護老人保健施設それぞれの加算について、表にまとめました。
※自己負担額は負担割合が1割の場合、1単位1円となるため、330単位は330円になります。
まとめ
この記事では介護保険における言語聴覚士の役割、リハビリ内容などについて、詳しく解説しました。以下にこの記事の内容にっいて、まとめます。
- 言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)は病気、加齢、生まれつきの障害などによって、ことばによるコミュニケーションや摂食・嚥下機能に障害を持つ方に対して、必要な指導、アドバイス、訓練を行う専門職です。
- 言語聴覚士は、在宅介護サービスにおいては、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなど、施設介護サービスにおいては、介護老人保健施設などで活躍しています。利用者の方が安全に暮らしていけるよう、口腔・嚥下機能の維持・向上やコミュニケーション能力の維持・向上、誤嚥性肺炎の予防や、在宅で介護を行う家族に対しても支援を行います。
- 言語聴覚士は、①「聞こえ」の障害、②「話すこと」の障害、③「食べること」の障害、④ことばの遅れ、⑤成人の言語障害 などに対して、一人一人の症状に対応した訓練を行います。
- 通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション、訪問看護、介護老人保健施設では、基本的な料金とは別にリハビリに係る様々な加算があります。
言語聴覚士は理学療法士などと比べると、まだまだ認知度の低いリハビリ専門職ですが、その仕事内容はとても専門性が高いです。
高齢になると口腔・嚥下機能が低下し、誤嚥性肺炎などを起こしやすくなり、肺炎後の廃用症候群や認知症など、潜むリスクは大きいです。
高齢者の方が在宅や施設で元気に生活するためには、介護保険における言語聴覚士の関わりが重要と言えます。