高齢化社会が進み、介護職のニーズは高まっていますが、介護職員の給料は少なく、待遇が悪いと言われており、介護職員はなかなか増えず、不足しています。
そのため介護職員の給料をアップする方法として作られた「介護職員処遇改善加算」について、詳しく解説します。
介護職員処遇改善加算の概要
介護職員処遇改善加算とは、介護職のためにキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職の賃金を上げるためのお金を支給するという内容の制度です。
厚生労働省は、平成23年度まで実施されていた「介護職員処遇改善交付金」を廃止し、当該交付金の対象である介護サービスに従事する介護職員の賃金の改善にあてることを目的に「 介護職員処遇改善加算 」を新たに設けました。
介護職員処遇改善加算は加算Ⅰ〜Ⅴの5つの段階に分けられ、それぞれの段階により、必要な要件が異なります。加算Ⅰ〜Ⅴの算定要件については、後ほど詳しく説明します。
誰が貰う?誰が負担する?
介護職員処遇改善加算は、介護職に対する加算であり、同じ介護職場で働いていても、もらえる職種、もらえない職種があります。
その① 誰が貰える?介護職員のみ?
介護職員処遇改善加算は、介護職員に対する加算です。
介護職員とは、デイサービス、入所施設などで直接介護にあたっている職員のことであり、資格の有無は問いません。
また、正規職員やパートなどの雇用形態は関係ありません。
介護職以外の看護師、栄養士、理学療法士など、他の職種に従事している場合は支給の対象外となります。
また、直接介護を行わない管理者やケアマネージャー、サービス提供責任者も支給の対象となりません。
実際の現場で、管理者や相談員・看護師などが介護を兼務している場合は、支給対象となります。
その② 誰が負担をする?
介護職員処遇改善加算の流れとしては、まず介護事業所が介護職員のキャリアアップの仕組みや、職場環境の改善の計画を立てます。
それらの計画を都道府県や市町村などの自治体に報告します。
その報告をもとに、自治体が介護報酬に「給料の上乗せ費用」を追加して支給します。その支給されたお金が、介護職員へ給料として支給されます。
介護職員処遇改善加算は、サービス区分ごとに設定された加算率(後ほど表で説明)を所定の報酬単価に掛け、その分を上乗せして算出します。
この加算は区分支給限度額の対象からは外されていますが、利用者の1割(2〜3割)負担が発生します。
負担増はわずかですが、利用者にも負担額が生じます。
残りの9割(7〜8割)は自治体が介護報酬として負担します。
介護職員処遇改善加算は人によって貰える額が違う
介護職員処遇改善加算は、一律同じ額がもらえるわけではなく、人によってもらえる額が異なります。
これには以下のような理由があります。
その① 5つの段階がある
介護職員処遇改善加算は、加算Ⅰ〜加算Ⅴの5段階があり、取得できる要件によって加算の段階が異なります。それぞれの算定要件を以下にまとめました。
<処遇改善加算Ⅰの算定要件>
以下の要件を全て満たしていること
- 処遇改善計画を立案している、または既に処遇改善を行っており、適切に報告していること。
- 労働基準法等の違反、労働保険の未納がないこと。
- 新たな定量的要件(職場環境等要件)を満たしていること。
- キャリアパス要件Ⅰを満たしていること。
- キャリアパス要件Ⅱを満たしていること。
- キャリアパス要件Ⅲを満たしていること。
(1)介護職員の任用の際における職位(役職)、職責または職務内容に応じた任用等の要件を定めること。
(2)(1)に掲げる職位(役職)、職責または職務内容に応じた任用等の要件を定めていること。
(3)(1)および(2)の内容について職業規則などのもので書面で明確にし、周知していること。
(1)次のア.またはイ.の条件を満たした計画を作成していること。
ア.資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供または技術指導等を実施(OJT、OFF-JT)するとともに介護職員の能力評価を行うこと。
イ.資格取得のための支援(金銭、休暇の取得など)を行うこと。
(2)上記の内容をすべての介護職員に周知していること。
(1)次のいずれか昇給の仕組みを導入していること。
※単一の基準ではなく、複数の基準をかけ合わせた仕組みでも可。
ア.経験年数や勤続年数に応じて昇給する仕組み
イ.資格取得(または保有)により昇給する仕組み
ウ.人事評価や試験結果により昇給する仕組み
(2)上記の内容をすべての介護職
<処遇改善加算Ⅱの算定要件>
以下の要件を全て満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 1.と2.と3.を満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 4.と5.を満たしていること
<処遇改善加算Ⅲの算定要件>
以下の要件を全て満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 1.と2.を満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 4.または5.を満たしていること
- 既存の定量的要件を満たしていること
平成20年10月から計画書の届出の日の属する月の前月までに実施した介護職員の処遇改善の内容(賃金改善に関するものを除く。)および当該介護職員の処遇改善に要した費用を全ての職員に周知していること。
<処遇改善加算Ⅳの算定要件>
以下の要件を全て満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 1.と2.を満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 4.または5.または処遇改善加算Ⅲ 3.を満たしていること
<処遇改善加算Ⅴの算定要件>
以下の要件を全て満たしていること
- 処遇改善加算Ⅰ 1.と2.を満たしていること
その② 介護サービスによって加算率が違う
介護職員処遇改善加算は介護サービスの区分によって加算率が異なります。
以下の表に処遇改善加算の区分別加算率についてまとめました。
その③ 分配率は事業所に任せている
介護職員処遇改善加算の区分と介護サービスに応じて、一定の額が事業所に支給されます。
その額をどのように分配するかは事業所の判断に任せられています。
常勤にだけ配分する事業所、非常勤にも支給する事業所、配分を頭割りする事業所、勤務年数等で差をつける事業所、月ごとに分配する事業所、年に数回に分けてまとめて支給する事業所など、分配の方法は事業所によって異なります。
ただし、介護職員処遇改善加算は全て介護職員に配分しなければいけません。
他職種にも加算を上乗せされる話も…
介護職員の処遇改善については、平成29年度の臨時改定における介護職員処遇改善加算の拡充も含め、これまで数次にわたる取り組みが行われてきました。
新しい経済政策パッケージ(平成29年12月8日)において、「介護人材確保のための取組をより一層進めるため、経験・技能のある職員に重点化を図りながら、介護職員の更なる処遇改善を進める。
具体的には、他の介護職員などの処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認めることを前提に、介護サービス事業 所における勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行 うことを算定根拠に、公費1000億円程度を投じ、処遇改善を行う。」とされました。
2019年10月の消費税率引上げに伴う介護報酬改定において、「介護職員等特定処遇改善加算」が創設され、2019年10月より開始されています。
全産業を対象としている賃金調査において、介護職員の賃金が全産業の平均と比較し、低いという調査結果が出ています。
これまでも介護職員の職場定着のための取り組みとして、介護職員処遇改善加算等の取り組みが行われていました。
さらに定着率の向上を目指し、特に現場でリーダー的な役割を担う介護職員の賃金を全産業の平均年収440万円へ引き上げるための取り組みとして、設けられたのが、介護職員等特定処遇改善加算です。
長く勤めること、キャリアアップすることで、それに見合った賃金を得ることでき、給与面での不安から離職することを防ぐことが目的となっています。
「経験・技能がある介護福祉士」を基本として「その他の介護職員」「その他の職種」が支給の対象となります。
この「経験・技能がある介護福祉士」とは、勤続10年以上の介護職員を基本としながらも、現場での業務を勘案して、事業所の裁量で設定することになります。
「経験・技能がある介護福祉士」が支給対象の基本となりますが、一定のルールにのっとり、「その他の介護職員」「その他の職種」への柔軟な配分が可能です。
まとめ
この記事では、介護職員処遇改善加算について詳しく解説しました。以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 介護職員処遇改善加算とは、介護職のためにキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職の賃金を上げるためのお金を支給するという内容の制度です。
- 介護職員処遇改善加算は、介護職員に対する加算です。デイサービス、入所施設などで直接介護にあたっている職員のことを指し、資格の有無や雇用形態は問いません。この加算は1割(2〜3割)は利用者負担、残り9割(7〜8割)は自治体が介護報酬として負担します。
- 介護職員処遇改善加算には、加算Ⅰ〜加算Ⅴの5段階があり、取得できる要件によって加算の段階が異なります。また介護サービスの区分によって、加算率が異なります。
- 2019年10月、現場でリーダー的な役割を担う介護職員の賃金を引き上げるための取り組みとして、「介護職員等特定処遇改善加算」が設けられました。経験・技能がある介護福祉士を基本として、その他の介護職員、その他の職種も支給の対象となります。
介護職員処遇改善加算は、給料アップ以外にも、キャリアアップの仕組み作りや職場環境改善などの取り組みを行う制度です。
この制度によって、介護施設が介護職員にとってより働きやすい職場になることが期待されます。
転職などでこれから職場を探す場合は、「介護職員処遇改善加算」をひとつのチェックポイントとしてみると良いでしょう。