高齢者が介護施設に入所する理由は様々です。
若いころに自分でプランを立てて入所する方もいれば、ご家族の事情、本人の体調などのため仕方なくという場合など様々です。
しかし、せっかく入所したにもかかわらず、なんらかの理由で入所者が施設から脱走してしまうことがあります。
高齢者の施設脱走は、道に迷って行方不明になったり、事故に巻き込まれる可能性が高いため、なんとしても防ぎたいもの。
そこで今回は、介護施設からの脱走・行方不明事故を徹底的に防ぐための対策について考えてみました。
介護施設から脱走する原因
入所した高齢者の方が脱走してしまうのはなぜでしょうか。
これにはいくつかの原因が考えられます。
その① 認知症による徘徊
考えられる原因の一つに「認知症」があります。
認知症とは、何等かの病気が原因で脳細胞が壊れるために起こる症状を指します。
代表的なものは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症などです。
認知症の症状は幅広く、新しい情報を記憶しにくい、段取りが悪くなる、注意力・集中力の低下、日付・場所がわからない、話が理解しにくいなどがあります。
徘徊も一つの症状です。徘徊は、はたから見ると意味もなくうろうろ歩き回っているようですが、実は本人にはそれなりの理由や目的があります。
ただ、認知症特有の症状のため、目的地にたどり着けないような状態というところでしょうか。
例えば、近所のスーパーへ買い物に出かけそのまま延々と歩き続ける、自宅にいても突然「家」に帰ると言って歩き出し、当然その「家」が見つかることなく歩き続けるということも少なくありません。
つまり、認知症の方の脱走は、「介護施設から脱走しよう」と思って抜け出しているのとは少し違うパターンと言えます。
言い換えると、施設内で穏やかに暮らしていても、ある日突然姿が見えないということもあり得るため、十分注意が必要です。
その② 単純に施設生活が嫌い
入所者の中には、介護施設での生活が嫌でたまらないという人もいます。
例えば、認知症でなく何でも自分で理解できる人、人の世話にはならないとプライドを持っている人、集団生活に馴染めない人などの中には、施設生活が我慢できないと思うことがあるでしょう。
何とかして家に帰ると言い張る、その要望が通らなければ、思い詰めた上「脱走」してしまうかもしれません。
介護施設から脱走させない方法
介護施設からの脱走は、ともすれば大事故に繋がりかねず、なんとしても阻止しなければなりません。
介護施設は永年住み慣れた自宅とは異なり、一歩外へ出れば全く知らない土地であることが多いでしょう。
夜であれば暗い道を高齢者が歩くことは危険を伴い、季節によっては暑さ、寒さも命とりになります。
介護施設から脱走できるような隙を与えることのないよう、余念のない対策が必要です。
施設内で一定のルールを作る
介護施設といっても様々な種類があります。
施設によっては、入所者の居室を2階、3階などに設置し、テンキーロック式エレベーターにより勝手に乗り降りできないようになっているところがあります。
1階まで自由に行き来できる施設であれば、玄関口の通過のルールをどうするか、外出可能な施設であれば、出入りの管理をどうするかなど、その施設にあった細かなルールが必要になってきます。
入所者の行動や所在が常に確認できる絶対的な体制を確保したいものです。
十分な設備投資を
入所者の安全確認のためには、こまめな巡回などによる状況確認は欠かせません。
しかし、スタッフの人員にも限りがあり、多数の入所者の動きを人間の眼だけで管理することはなかなか難しいものです。
そこで、先ほどのテンキーロック式エレベーターもその一つですが、設備投資により人力だけでカバーしきれないところを補う工夫も必要です。
廊下やエレベーター口、玄関ドア付近の監視カメラなどは有意義な方法です。
入所者が居心地のよい環境を
施設生活がどうしても嫌だといって脱走する人を守るためには、その人が嫌だと思わない環境を作ることです。
なぜ嫌なのか、どんなところを改善できるのか、入所者の立場に立ったケアが必要です。
一人一人のわがままを受け入れるわけにはいきませんが、心に寄り添うだけで気持ちが変わるかもしれません。
介護施設からの脱走に一早く気付くために
その① 見守り・巡回の徹底
万が一入所者が脱走した場合、後手後手の対策は命とりです。
早期発見が第一条件。巡回の頻度を上げて、入所者の安全確認の強化を図りましょう。
特に個室の場合は、部屋にいるものと思っていて発見が遅れる可能性があります。
逆に大部屋では、大勢が広間で過ごしていると、一人欠けたことに気づくのが遅れる可能性があります。
つまり、一人一人へのこまめな気遣いと声掛けがとても大切。
これにより、入所者とスタッフとの信頼関係も築き上げれられていくでしょう。
その② スタッフ間の連携
多くの介護施設では、入所者対スタッフの割合は、3対1が平均と言われていますね。
スタッフ不足の施設や時間帯によっては、一人でもっと多くの入所者の対応を強いられることもあるでしょう。
忙しくなると、いくら神経をとがらせていても目が届かないことがあり得るので、複数の目で対応していくことが大切です。
また、シフトが変わって別のスタッフになったときにも、今日の入所者の状態や様子をよく申し送り、気になる人に引き続き注意を払ってもらう必要があります。
このようなことから、スタッフ間の連携は入所者の安全確保のためにとても重要です。
より多くの目を光らせて、脱走の早期発見に努めましょう。
その③ 個々のアセスメント分析
脱走する原因は色々あり、入所者の心身状態も様々です。
個人個人のアセスメント分析に力を入れ、スタッフ全員で情報を共有しましょう。
いつも同じ時間に外出しようとする、帰宅願望が強いなど、個々の習慣、ニーズにあった対応をすることが、安定した入所生活を送ることに繋がります。
所在不明になったときの対応方法
入所者の所在が分からなくなった時、まずは施設内を探しますが、長い時間探していても意味がありません。
施設内捜索は20分ほどで終わらせ、それでも見つからない場合はまず家族へ連絡します。
外へ出た可能性が高いため、家族の了承の上、警察へ捜索願を提出します。
タクシーや公共機関を利用している可能性もあるため、地元のタクシー会社、公共機関へも連絡し、協力を仰ぎます。
認知症の方の所在が分からない時には、地域の徘徊SOSネットワークがあれば利用するとよいでしょう。
まとめ
介護施設を脱走した高齢者が行方不明という事件は少なくありません。
脱走の理由は様々で、施設生活が嫌で出て行ってしまう人もいれば、認知症の症状により迷子になってしまう人もいます。
いずれにしても、脱走により大きな事故に巻き込まれてしまう可能性があるため、なんとしても阻止しなければならない課題です。
入所者が安全に穏やかに生活できるよう、予防対策と共にいざという時のための対処法を徹底しておきましょう。