介護業界でも、「リスクマネジメント」という用語をよく聞くようになりました。
リスクマネジメントを徹底することで、介護事故を防ぎ利用者の安全を確保することができます。
この記事では、リスクマネジメントは何か、具体的にどのような取り組み方法など、詳しく解説していきます。
見出し 介護施設におけるリスクマネジメントとは?
リスクマネジメントとは、「事業の偶発的、人為的リスクを防ぎ、万一の事故の場合にはその損害を最小限に抑えるため取り組み」を指します。
介護施設における最大のリスクは、信用を失うこと。
そして、介護施設のリスクマネジメントとは、その高い信用を確保するために、介護事故のリスクを洗い出して事故を未然に防ぐよう組織的に活動をすることです。
高齢になると様々な機能の衰えにより、普段の生活環境の中でも思わぬ事故に遭う確率が高くなっていきます。
利用者の安全が家族の安心であり、それを確保することで施設の信用を高め職員を守ることに繋がります。
リスクマネジメントの具体的な方法は?
介護施設におけるリスクマネジメントは、事故を未然に防ぎ施設の信用を高めることです。
このための活動は二つの異なる方向性を持っています。
その① 法的責任を回避する
介護施設のリスクマネジメントの第一の手段は、法的な責任を回避することです。
介護事故で怖いことは、安全配慮義務違反による損害賠償という法的責任です。
介護施設も一つの事業体であり、経営の存続のためにこの法的責任を回避又は軽減できるよう努めなければなりません。
そのためには、事故を予防するための組織体制、人員配置、内部での取り組み、事故が起こってしまった時の保険や法務の活用など、入念な準備が必要です。
その② 利用者の尊厳を重視する
第二の手段は、利用者の尊厳を重要視した対応です。
介護施設を利用する高齢者や家族の方々は、自宅では本人の尊厳を守ることができないからこそ施設を利用しています。
言い換えれば、施設に入所していれば、プロに任せておけば、介護事故のリスクもなく尊厳も重視したケアが受けられるはずと信じて託しているのです。
この期待に応えるべく、介護の現場において、個々の尊厳を保証するための介護の在り方を考えなければなりません。
利用者の意向をくみ取りながら、利用者を危険から守っていくための活動が必要です。
その③ 手段と目的を分けて考える
さて、上記2つの手段は、利用者を守るという目的は同じでありながら、手段としては異なっています。
施設としての法的責任回避ばかりが重要視されてしまうと、利用者の尊厳がおろそかになる可能性があります。
例えば、食事中の誤嚥事故防止を目標としたとき、丁寧な介助による食事ではなく他の栄養補給に変えてしまうかもしれません。
利用者の転倒事故防止のためには、利用者の身体拘束を行うかもしれません。
利用者が自由に動き回れる環境の方が、転倒事故の確率は増えるのですから。
このような事態が発覚した場合には、法的責任の回避どころか、家族や地域からの信頼を失ってしまうでしょう。
そして結果的に、リスクマネジメントは失敗に終わることになります。
介護施設におけるリスクマネジメントの最大の目的は、施設の信頼確保です。
日々の小さな意識と活動の積み重ねが大きな信頼につながります。
それを念頭に置き、利用者の尊厳を第一に考えた対応の中、法的責任の回避も意識して活動していくことが大切です。
介護施設のおけるリスクマネジメントの4ステップ
その① リスクの特定
施設内で挙げられたヒヤリハット報告書や、事故の事例報告を洗い出しましょう。
ヒヤリハットとは、実際に事故にはならなかったものの、事故になってもおかしくないようなミスや、ヒヤリ、ハッとした事例のことです。
これらを共有することで、今後利用者に被害が及ぶような事故防止に役立てることができます。
その② リスクアセスメント
事故報告書やヒヤリハット報告書を元にして、リスクの具体的な原因、要因、危険度などを分析します。
総数、事故のレベル、場所、時間などを集約することで、事故が起こりやすい状況や時間帯などがわかります。
また、なぜヒヤリハットが起こったのか、一つの事案について「人的要因」、「設備的要因」、「環境的要因」、「管理的要因」の4つの要因を洗い出していきます。
これにより、より具体的な対策を見出すことができます。
その③ リスク対応
緊急時に備えて、あらかじめ想定したリスクに対する対応手順をマニュアル化していきます。
事故は起きないに越したことはありませんが、万が一起きてしまった時には、その被害を最小限に抑えることが最も重要なことです。
考えられるリスクに対応するマニュアルを整備して置けば、いざという時に迅速かつ的確な対応が可能です。
職員全員がこのマニュアルを把握しておきます
その④ リスクコントロール
リスクコントロールとは、リスク対応で作成したマニュアルに沿って、施設全体で取り組むことです。
万一の事故に万全に備えることは頭ではわかっていても、スタッフ全員への周知には時間がかかります。
少しでも早く周知徹底できるよう、部署ごとの研修を行ったり、事故防止委員会を設置してアセスメント、ルールの確認、決定、共有をし、組織的な取り組みを行っていきます。
介護事故を防ぐ安全対策
その① 誤嚥事故
本人の嚥下能力を十分把握し、食事の形状に配慮する。
気道が十分とじるよう姿勢に気遣う。体が反り返っていると、気道が開きやすいため、椅子に深く座り、背筋を伸ばす。
体がまっすぐにならに場合は、脇のあたりにクッションを充てるとよい。
丁寧な食事介助をする。
認知症、脳梗塞など多様な事故の可能性もはらんでいることから、個人の健康状態に合わせて、医師、看護師、栄養士などチーム連携で対応する
その② 転倒・転落事故
転倒・転落事故は、介護事故全体の8割を占めるといわれています。
歩行中の転倒、ベッドから落ちるなどの事故が多いです。
室内や廊下、トイレに手すり設置、ベッドへの柵の取り付けは基本です。
また、少しでも転倒リスクのある人は歩行器を使うとよいでしょう。
ただここで一つ考えたいことは、人は自分の意思で活動する生き物ということです。
なんらかの理由で「動く」という行動にでます。
ずっと座っていればお尻が痛くなり、ずっと同じ態勢で横になっていて違和感を感じ、それを回避したいと気持ちが生じて動こうとします。
結果、バランスを崩して転倒してしまったというケースは少なくありません。
大切なことは、今その人が何を感じているか?
です。苦痛を感じていないか?居心地が悪くないか?
座っていれば、横になっているから良いのではなく、今何をしたいかその人の今の心理状態を思いやることが大切です。
その③ 外圧(皮膚剥離・皮下出血)
高齢になると、代謝機能や免疫機能の低下と共に皮膚も薄くなり、皮膚剥離や皮下出血を起こしやすくなります。
軽くつまんだだけでもその刺激が奥まで達しやすく、毛細血管が破れて内出血を起こすのです。
これらの予防には、まずバランスのとれた食事で栄養を摂り、新陳代謝を高めます。
また、手袋やハイソックスで皮膚をカバーしたり、椅子の足やひじ掛けにクッションを付ける、保湿クリームの使用も効果的です。
まとめ
介護施設におけるリスクマネジメントについて解説しました。
リスクマネジメントの最大の目的は、施設の信頼確保です。
ヒヤリハット事例を徹底的に分析し、いざという時に迅速的確な対応ができるようマニュアルを作りましょう。
介護事故を起こさない、利用者の尊厳第一という信頼を得るために施設全体でリスクマネジメントを徹底しましょう。