介護施設閉鎖・倒産の件数
老人介護施設の閉鎖や倒産が相次いでおり、大きな問題となっています。
2019年の倒産件数は年間111件で、過去最多といわれる2017年の記録と並びました。
さらに、2016年から4年連続で毎年100件超えという緊急事態が続いています。
高齢化社会で高齢者の数は増えているのに、なぜ倒産が増えているのでしょうか。
介護施設閉鎖・倒産が急増した理由
東京商工リサーチは、老人福祉・介護事業における倒産件数について2000年から調査しています。これによると、2019年のデータは以下のようになります。
2019年老人福祉・介護事業者の倒産データ
≪事業内容の内訳≫
訪問介護・・・58件
デイサービスなど「通所・短所入所」・・・32件
有料老人ホーム・・・11件
サ高住などその他老人福祉介護事業・・・5件
介護老人保健施設やグループホームなどその他・・・5件
≪倒産・閉鎖の原因≫・・・販売不振が約7割
≪業歴≫・・・2014年以降設立の施設(業歴5年未満)が約3割
≪従業員数≫・・・5人未満が約7割
≪資本金≫・・・1千万円未満(個人企業他含む)がほぼ大半
上記のデータから、
規模が小さく、業界参入後の業歴が浅い企業の倒産・閉鎖が目立つことが分かります。
なぜでしょうか?
参考:東京商工リサーチ
https://www.excite.co.jp/news/article/Tsr_analysis20200107_01/
その① 半数近くが事業の失敗
閉鎖・倒産の原因は、7割が業績不振となっています。
介護を必要とする高齢者の増加に伴い、様々な業種から介護業界へ新規参入がありました。
特に多かった分野は、訪問介護や通所介護サービスです。
また、老人ホームでも「施設」でなくあくまで「住宅」という枠組みで考えられる「住宅型老人ホーム」が急増しました。
これらは、新規開設の際の手続きが比較的簡単なため、新規に参入しやすいという理由があります。
しかし、介護業界の仕事は特殊で複雑、かつ、いざ経営となると、介護の知識だけでなくビジネススキルも必要不可欠です。
そのため、経営がうまくいかず業績不振から倒産まで追い込まれる企業が相次いだと考えられます。
その② 人手不足による費用高騰
もう一つの大きな原因が、人手不足と人件費の高騰です。
そもそも介護業界では、以前から慢性的な人手不足が問題となっていました。
倒産件数が最も多い訪問介護業界では、深刻なヘルパー不足が叫ばれています。
東京商工リサーチでも、「特にヘルパー不足が深刻な訪問介護事業者の倒産を招いた」と説明されています。
老人ホームでは、新規開業しても介護職員が足りないため、一部のみ開業ということも少なくありません。
このような状況の中、2019年10月に介護報酬の改定があり、「特定処遇改善加算」が設けられました。
これは、現場のリーダー級のスキルを要するベテラン介護職員に対し、月額平均8万円の処遇改善を行うというものです。
これにより介護業界の人手不足の解消を図りましたが、同時に人件費の高騰をもたらし、経営を圧迫することになりました。
介護事業の明暗を分ける理由
倒産に追い込まれた企業と成功する企業。同じ介護事業で、明暗を分ける理由を考えてみます。
その① 介護報酬の改定の影響
介護は大変な仕事でありながら、長く働いても給料が上がらないといったイメージがあり、人手不足が慢性化しています。
そこで新設された制度が「特定処遇改善加算」です。
この「特定処遇改善加算」は、リーダー級の介護職員の処遇改善をかかげたもので、職員のモチベーションアップを目的としています。
介護事業所が「特定処遇改善加算」を取得するとどうなるかというと、勤続10年などある一定の条件を満たした従業員に対し、「月8万円の賃上げ」または「年収440万円を超えるような賃上げ」が行われます。
実際に、2019年10月の制度導入に伴い、大手数社は大規模な賃上げを発表しました。
事業所がこの加算を受けるためには、以下のような一定の条件を満たしていなければなりません。
職務内容に応じた賃金体系の整備や資質向上のための研修機会提供などの「キャリアパス要件」
育児休暇など働きやすい職場環境提供のための「職場環境等要件」
実は、上記二つの条件を満たすことは中小企業にとって難しく、加算を受ける企業が大手企業に偏りがちです。
そして加算を受けている企業は賃上げができ条件が良くなるため、人材が偏りがちで、中小企業の人手不足が加速するという問題が起こっています。
その② 企業の経営力
元々介護業界は国の政策によって保護されていたのですが、状況の変化により新規参入が増えました。
別業界の大手企業も続々と参入し、その経営力を生かして、全国への拡充を目指しています。
市場競争が始まると、当然のことながら、集客力、資本力など経営力の強い企業が生き残ります。
中小よりは大手、知名度のない新興企業よりは歴史と信頼のある老舗です。
また、利益を出すためにコストを削減しようにも、介護事業では人件費が費用の大半を占めるため大変難しいです。
逆に人手不足で給与を上げなければ人員確保できません。
このようなことから、規模の小さい事業所・中小企業の倒産が相次ぐと考えられます。
今後の日本は大丈夫?2025年問題から考える
日本は、すでに世界に類を見ない高齢化社会です。
そして、来る2025年、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となります。
そのころには人口の1/3が65歳以上になると計算されており、当然、要介護者の人数も増えるでしょう。
実際に、要介護認定者数は、2000年の218万人から、2016年の623万人へと急増しました。
現段階で不足している介護職員、2025年には38万人が不足すると言われています。
優秀で十分な人材を確保するためには、どうすればよいのでしょうか。
介護の現場で働いている多くの人は、要介護者に寄り添って丁寧な介護をしたいと考えています。
しかし、慢性的な人材不足により、「スピードがあり効率の良い介護」を強いられがち。
満足な介護をしてあげたいのにしてあげられないというジレンマから、やりがいを失う人も少なくありません。
介護職に対する「体力的、精神的にきつい」「給料が低い」などネガティブなイメージも介護職離れに拍車をかけています。
簡単に解決できる問題ではありませんが、国や自治体も様々な対策を講じています。
前述の特定処遇改善加算もその一つであり、外国人の受け入れ態勢も積極的に整えています。
まとめ
高齢化社会が進み、要介護者の増加に伴い、多くの介護施設が開設されてきました。
しかしながら、近年4年連続でその倒産・閉鎖が年間100件越えという深刻な状況を迎えています。
介護業界の人手不足が大きな原因の一つとされており、今後2025年問題と共に深刻な問題として懸念されています。