介護施設において身体拘束を行う場合には、いくつかの要件を満たさなければなりません。
身体拘束を行うと利用者本人の心身だけでなく、家族や親族、施設のスタッフに弊害をもたらします。
それらだけに留まらず、身体拘束は施設に対して、社会的な影響を生じさせます。
今回は介護施設における、身体拘束の取り扱いについて解説していきます。
介護施設における身体拘束について、疑問がある方は参考になさってください。
高齢者施設における身体拘束とは
高齢者施設では行動の制限を行わないと、利用者本人や身の回りの方の心身に危害が及ぶことが予想される場合において、必要最低限の身体拘束を行うことがあります。
例えば認知症を患っており、判断力・記憶力の低下がみられ、危険な行動を取ってしまうことが予想される方を、車いすにベルトで固定し行動を制限することが挙げられます。
物理的に行動を制限するだけでなく、向精神薬によって行動を制限するケースも、身体拘束に該当します。
また居室の入り口にブザーを設置し、そのブザーにより本人の行動を制限する場合であっても、身体拘束に当てはまります。
それらの身体拘束を行う場合、切迫性・非代替性・一時性の3つの要件を、満たす必要があります。
これらの要件については後ほど詳しくご紹介します。
切迫性・非代替性・一時性とは、緊急時にやむを得ず、他の安全を確保する手段がなく、最も短い時間で、身体拘束を行わなければならないということを意味しています。
さらに身体拘束を行うための要件を満たした場合であっても、数名のスタッフだけでなく施設全体で、身体拘束が必要かを検討しなければなりません。
そして身体拘束を行った際には、身体拘束を行った時間や利用者の様子、身体拘束を行う理由の記録が義務付けられています。
【参考サイト:厚生労働省、身体拘束ゼロへの手引き 23ページ】
身体拘束は高齢者に長時間行うと、様々な弊害を生じさせ、悪循環を生む特徴があることに注意しなければなりません。
身体拘束を行うことにより、もともと低下していた体力がさらに衰え、認知症がより進行する可能性があります。
そして一時的と考えていた身体拘束が常日頃行うようになり、身体拘束を行う時間が増加し、本人の状態がさらに悪化してしまうのです。
【具体的例】これをしたら身体拘束!4点柵は?
つづいて具体的にどのような行為が、身体拘束に該当するのかをご紹介していきます。
厚生労働省では身体拘束に該当する具体的な行為を示しています。
【身体拘束の対象になる具体的な行為】
【参考サイト:厚生労働省、身体拘束ゼロへの手引き 7ページ】
なお上表の「3、自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む」は、いわゆる4点柵のことを言い表しています。
これまで解説してきたようにひもや拘束帯などの使用だけでなく、向精神薬の過剰な服用や居室等への隔離も、身体拘束に該当することが確認できたのではないでしょうか。
身体拘束に該当する具体的な行為を確認できたところで、次の項目で身体拘束がもたらす弊害について解説していきます。
身体拘束が利用者にもたらす弊害
身体拘束を行うと利用者だけでなく、家族や親族、施設スタッフへ多くの弊害をもたらします。
身体拘束がもたらす弊害を4つにわけ、それぞれの弊害を確認してきいましょう。
その① 身体的弊害
1つ目が身体的弊害です。
身体的弊害として、利用者本人の関節の拘縮や筋力の低下、褥そう(床ずれ)の発生が挙げられます。
また食欲や心肺機能、感染症への抵抗力が低下する可能性もあります。
車いすにて身体拘束を行った場合は転倒事故、ベッド柵を用いて身体拘束を行ったケースでは、柵の乗り越えにより転落事故のリスクが高まることも、身体的弊害の1つです。
これらの弊害だけでなく、拘束具による窒息の危険性すらあることを、胸に留めておかなければなりません。
その② 精神的弊害
2つ目が精神的弊害です。
不安や怒り、屈辱などの精神的な苦痛を与えるだけでなく、人間としての尊厳を奪う行為が、身体拘束です。
また認知症を患っている方であれば、症状が進行し、せん妄の発生回数が増加するおそれがあります。
これらの精神的弊害が発生する本人だけでなく、身体拘束は家族や親族へも精神的な苦痛を与えます。
身体拘束がされている姿を家族が目の当たりにすることにより、混乱や後悔が生まれ、罪悪感にさいなまれてしまうのです。
その③ 施設内弊害
3つ目が施設内弊害です。
身体拘束を行うと、介護・看護スタッフは自身が行うケアに誇りが持てなくなり、施設全体の士気低下を招きます。
十分な検討をなされずに行われた身体拘束は、施設スタッフのモチベーション低下を引き起こすことを、忘れてはなりません。
その④ 社会的弊害
4つ目が社会的弊害です。
身体拘束は介護施設に対する社会的な不信や偏見を生みます。
また身体拘束を行うことにより、利用者の心身機能が低下し、医療的な処置や経済的な負担が増加する可能性があります。
身体拘束をやむを得ず行なう場合の3要件
前の項目で紹介したように、身体拘束は緊急時にやむを得ず、他の安全を確保する手段がなく、最も短い時間で行わなければなりません。
身体拘束を行うには、今回紹介する3つの要件をすべて満たす必要があるのです。
それでは身体拘束をやむを得ずに行う場合の、3つの要件に関して解説していきます。
その① 切迫性
1つ目が切迫性です。
切迫は期限が差し迫っている、緊張した状態が続いていることを言い表す言葉です。
切迫性を満たすには、本人または他の利用者等の生命・身体が危険に陥る可能性が、非常に高いと認められる必要があります。
なお身体拘束を行うことにより発生することが考えられる悪影響を考慮し、それでも危険に陥る可能性が非常に高い場合にのみ限られます。
その② 非代替性
2つ目が非代替性です。
非代替性とは身体拘束・その他の行動制限を行う以外に、介護方法がないと判断されるケースにおいて、身体拘束が認められるということです。
いかなるときでも身体拘束に代わる介護方法を検討し、他の方法がないかを複数のスタッフで確認しなければなりません。
その③ 一時性
3つ目が一時性です。
身体拘束・その他の行動制限が一時的であることが、身体拘束を行うための要件の1つです。
本人の状態に応じて、必要とされる最短時間で、身体拘束を行う必要があります。
身体拘束廃止に向けて介護施設で取り組むこと
身体拘束廃止に向けて、介護施設で取り組むことは多岐にわたります。
具体的には身体拘束が必要と思われる方の行動や状態を分析し、その人なりの原因や理由に基づき、対処方法を確立することです。
見守りを手厚くしたり、車いすやベッド、衝撃緩和マットなどの介護用品を検討したり、利用者の状態にあわせたケアを提供する必要があります。
【参考サイト:NPO 全国抑制廃止研究会、身体拘束とは】
介護のプロである介護スタッフであったとしても、知らず知らずのうちに仕事として身体拘束を行い、利用者の自由な意思決定を妨げているかもしれません。
介護スタッフだけでなく、事務方や介護施設の経営者が一丸となり、身体拘束廃止に向けて取り組むことが必要不可欠です。
まとめ
高齢者施設における身体拘束とは何かや、身体拘束にあたる具体的な行為、やむを得ず身体拘束を行う場合の要件などについて解説してきました。
介護施設における身体拘束に関して、理解が深められたのではないでしょうか。
介護施設における身体拘束の適正化をまとめると
- 4点柵の設置や、車いすへの縛り付けだけでなく、過剰な向精神薬の服用による行動制限も身体拘束に該当する
- 緊急時やむを得ず、身体拘束以外に安全を確保する手段が見当たらない場合、本人の状態にあわせて、最も短い時間で身体拘束を行わなければならない。
- 身体拘束が廃止できるかどうかは、介護スタッフや事務方、介護施設の経営者などの施設職員の意識にかかっている
ということがあります。
身体拘束は利用者本人だけでなく、家族や施設職員、施設自体に、様々な弊害を生じさせる可能性があります。
仕事だからと自分を納得させず、身体拘束に頼らない日々のケアを提供したいところです。