2019年の介護施設・介護事業所の倒産件数は100件を超えます。
介護保険制度が開始された、2000年から集計した倒産件数のうち、2019年の数値が最も多いものとなっているのです。
このような介護施設を取り巻く状況の中で、利用している介護事業所が倒産したらどうなるか、あらかじめ確認しておくに越したことはありません。
今回は介護施設の倒産数や、倒産に至った要因、利用している介護事業所が倒産したらどうなるかなどについて解説していきます。
介護施設の倒産について知識を深めたい方は、ご参考になさってください。
介護施設の倒産数について
はじめに介護施設の倒産数について、どのような状況になっているのかを、確認するところからはじめましょう。
2019年1月~12月の介護施設の倒産件数は、111件でした。
111件という年間倒産数は2017年と並び、介護保険制度が開始された2000年から2019年までで、過去最多となっています。
倒産数の推移ですが、2000年から2008年までは増加傾向にあったものの、2008年を境に2011年までは、倒産数が減少傾向へとなります。
その後は、再び介護施設の倒産数が増加傾向となり、2015年より倒産数の増加傾向が加速されました。
2019年に倒産した介護施設のうち、全体の約8割が小規模・零細企業です。
25年前から高齢化社会に突入した社会情勢の中で、介護事業の市場拡大が期待されました。
しかし小規模事業所の倒産数が増加している現状を踏まえると、介護事業は二極化が進行していると考えられます。
市場の拡大により事業規模を広げる大手介護施設と、倒産数が増加している小規模・零細事業所の、両極端に分かれる状態が見て取れるわけです。
業態別では、訪問介護事業所の倒産が急増しています。
ヘルパーをはじめとした人材不足が、倒産の主な要因となっていると考えられています。
【参考サイト:株式会社 東京商工リサーチ、2019年「老人福祉・介護事業」倒産状況】
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200107_01.html
倒産に至った理由については、次の項目で詳しく解説していきますので、そちらをご覧ください。
介護施設が倒産する理由で一番多いのは人手不足
介護施設の倒産数が増加する背景には、人材不足と人件費の上昇ではないかと考えられています。
2019年に倒産した介護施設の中で、特にヘルパー不足によって倒産した、訪問介護事業所の占める割合が目立った結果となっています。
【2019年 業種別 介護施設倒産割合】
※参考サイトを元に筆者が表を作成
【参考サイト:株式会社 東京商工リサーチ、2019年「老人福祉・介護事業」倒産状況】
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200107_01.html
また過去に行った訪問介護事業所を対象とした、人材募集に関するアンケートでは、募集しても応募がないや、外部研修に出すのが難しいなどの声が多くを占めました。
【参考サイト:東洋経済ONLINE、老人ホームの倒産が過去最多・入居者襲うリスク】
https://toyokeizai.net/articles/-/299487?page=3
これは零細・小規模事業所では、人材育成に必要な資金の確保や、ローテーションによる勤務体系の構築が難しい現状を、表した結果となっています。
人材不足による介護事業所の倒産が目立つ中で、国は様々な取り組みを行っています。
次の項目では人材不足に対する、国の取り組みをご紹介していきます。
人手不足に対する国の取り組み
2020年代初頭までに、追加で必要となる介護人材が25万人であるとの試算が、2017年に厚生労働省より示されました。
【参考サイト:厚生労働省、福祉・介護人材確保対策等について 83ページ】
https://www.mhlw.go.jp/topics/2018/01/dl/tp0115-s01-01-05.pdf#search='%E7%A6%8F%E7%A5%89%E3%83%BB%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E4%BA%BA%E6%9D%90%E7%A2%BA%E4%BF%9D%E5%AF%BE%E7%AD%96'
介護人材の必要性が高まっていく情勢の中で、国は様々な取り組みを行っています。
1つ目が介護職員の処遇改善です。
2019年10月に行われた消費税引き上げに際し、介護職員の処遇改善を行いました。
介護職員処遇改善加算が新設され、要件を満たす事業所は、当該加算を取得することが可能となります。
介護職員処遇改善加算を活用することにより、介護職員の賃金の改善が期待できます。
2つ目が再就職準備金貸付制度や奨学金制度の拡充です。
再就職準備金貸付制度は、介護職から離れてしまった人材を、再び介護業界へ呼び戻すことを目的としています。
再就職準備金貸付制度や奨学金制度の拡充により、介護人材の増加が見込まれています。
3つ目が地域医療介護総合確保基金の活用です。
地域医療介護総合確保基金は、地域における医療および介護の総合的な確保を促進するために、都道府県に設置された財源支援制度です。
【参考サイト:厚生労働省、平成30年度地域医療介護総合確保基金について 3ページ】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000194587.pdf#search='%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%8C%BB%E7%99%82%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E7%B7%8F%E5%90%88%E7%A2%BA%E4%BF%9D%E5%9F%BA%E9%87%91'
介護施設等の整備や、医療従事者・介護従事者の確保に関する事業を対象として、財政の支援が行われます。
地域医療介護総合確保基金の活用により、地域の実情に応じた参入の促進や、資質の向上などが期待できます。
4つ目が在留資格「介護」の創設です。
2017年9月より在留資格「介護」が創設され、外国人が介護福祉養成学校に入学し、介護人材の育成が見込まれています。
介護福祉士を目指す外国人留学生等の受け入れ環境を、整備する必要性が、今後の課題として挙げられています。
現在利用中の介護施設が倒産したらどうなる?
現在利用中の介護施設が倒産したらどうなるか、介護施設の中でも有料老人ホームにスポットをあてて、解説していきます。
そもそも有料老人ホームは分譲マンションとは異なり、代金を支払ったとしても居室や建物の所有権を、獲得できるわけではありません、
有料老人ホームは代金を支払うことにより、終身利用権を獲得する仕組みであるためです。
そのため介護施設が倒産すれば、利用権のみを所持している状態となり、原則的に引き続き同じ場所に住み続けることはできません。
しかし介護施設が倒産した際、別の運営会社に介護施設の運営が引き継がれるケースがあり、その場合は同じ施設を利用し続けることが可能です。
また介護保険サービスを利用しているのであれば、ケアプランの作成が必要になり、ケアプラン作成事業者は、引継ぎ先を確保する義務があります。
介護施設が倒産したからといって、直ちに次の居場所を本人や家族のみで、探すことになるわけではありません。
運営会社が別会社に引き継がれた際に、注意しなければならないことがいくつかあります。
運営会社の引継ぎが行われると、原則的に利用料金やサービスの内容が、引継ぎ先のものへと変化します。
運営会社の引継ぎが行われた場合には、必ず利用料金や提供されるサービスについて、確認することを強くおすすめします。
その他にも、新しい事業所が運営する施設が遠方にあるケースでは、転居する必要性があり、引っ越し費用が補填されるかどうかは、契約内容によって異なります。
契約内容によっては引っ越し費用を、本人や家族が負担しなければならないことを胸に留めておく必要があります。
万が一運営会社の引継ぎ先が見つからないときには、自分で次の施設を探さなければなりません。
運営会社が倒産した場合、どうなるかについて解説してきましたが、最後に入居一時金に関しても紹介していきます。
2006年以降に開設した施設であれば、入居一時金の保全措置が義務化されています。
入居一時金の未償還残高が返還されないときには、施設に代わって銀行や損害保険会社等が500万円を上限とし、未償還残高を支払う制度です。
この措置に関して契約書や重要事項説明書にどのように記載されているかを、時間があるときに確認しておきましょう。
なお2006年3月より前に開設された施設には、入居一時金の保全措置が取られていないことがありますので、注意が必要です。
まとめ
介護施設の倒産数や倒産理由、利用中の介護施設が倒産したらどうなるかに関して解説してきました。
介護施設の倒産について、理解が深められたのではないでしょうか。
利用中の介護施設が倒産したらどうなるかをまとめると
- 2019年の介護施設の倒産数は過去最多の111件だった
- 2019年に倒産した介護施設のうち、ヘルパー不足により倒産する訪問介護事業所の増加が目立った
- 有料老人ホームが倒産した場合、運営会社が引き継がれるケースがあるが、利用料金や提供されるサービスが引継ぎ後の事業所のものとなるため、確認が必要である
ということがあります。
介護事業所の倒産数が増加する背景で、現在利用している介護施設が倒産したらどうなるか気になる方もいることでしょう。
倒産した際の対応については契約書や重要事項説明書に記載されてます。
契約書や重要事項説明書に記載された内容に関して、疑問がある方は施設担当者へ確認したいところです。
疑問や不安に感じることを施設へと確認し、満足のいく介護サービスの利用を心がけましょう。