高齢者は、食べ物が飲み込みにくいなどの嚥下障害を起こしやすいものですが、これは、誤嚥性肺炎などの原因にもなるため、適切な嚥下食を提供しなければなりません。
では、適切な嚥下食とはどのようなものでしょうか?
今回は、高齢者、要介護者の嚥下障害と嚥下食ピラミッドについて説明します。
この記事を読んで、上手な嚥下食の進め方を理解しましょう。
嚥下食の必要性を説明
高齢になると、噛む力、飲み込む力(嚥下)が弱くなり、食が細くなって低栄養になったり、食事中にむせる、喉を詰まらせるなどということが増えます。
噛む、飲み込むことがうまくできないことを「嚥下障害」と言いますが、これは、QQLの低下、低栄養・脱水症、誤嚥・窒息という問題を引き起こし、多くの高齢者に苦しみをもたらします。
そこで、噛む力や飲み込む力が低下した人のために、食べやすく、飲み込みやすく調理された嚥下食が作られるようになりました。
とろみを加えて飲み込みやすくしたり、食物の形を変えて食べやすくするなどの工夫がされたものです。
嚥下食を摂るということは、身体機能が衰えた高齢者でも口から食べることができるということ。
ここには、人間らしい生活を保つという意味があります。
また、噛みやすい、飲み込みやすい調理法により、楽にしっかりと栄養をとることができ、低栄養を防ぐことができます。
そして、飲み込みやすいため、命にもかかわる誤嚥を防止するという役割も果たしています。
このようなことから、嚥下食は高齢者や要介護者にとって、そして介護現場にとってもなくてはならない介護食であるのです。
嚥下過程を説明
嚥下とは、食べ物を認識し口に入れるところから、口を経由して胃の中に送り込むまでの一連の動作です。
この動作は、5段階に分けることができます。
その① 先行期
視覚、嗅覚、触覚などから、食べ物だと認識して口に運ぶ前の時期です。
今から口に運ぶものが食べものなのか、硬さはどうか、口に入る大きさかどうかなどを判断します。
その② 準備期
その食べ物を口に入れて、咀嚼し、食塊を形成します。
歯で噛み砕き、喉を通過しやすい柔らかさのひと固まりの食物にしていきます。
食塊は、あご、下、頬、歯を使って唾液と混ぜ合わせることで形成されます。
その③ 口腔期
舌や内頬を使い、食べ物を口の奥からのどへ送る時期です。
舌をしっかり口の上側につけることで口の中の圧力を高め、のどの奥へ送り込む動作を促します。
ほおや唇も同じ働きをします。
その④ 咽頭期
脳にある嚥下中枢から指令を受け、食べ物を食道へ送る時期です。
食塊をのどの奥から食道の入口へ送り込みますが、その時鼻孔へ逆流しない、気道へは入らないような仕組みになっています。
その⑤ 食動期
食べ物を食道から胃へ送り込む段階です。
蠕動運動と重力によって食塊が流れていき、同時に食道入口は閉鎖し、食塊が逆流しない仕組みになっています。
嚥下食ピラミッドについて
その① 嚥下食ピラミッドができた経緯
日本では高齢者の数が右上がりに増え続けてきましたが、同時に、嚥下障害に苦しむ人の数も増加しました。
しかし、嚥下食に関する研究の歴史は浅く、摂食・嚥下障害の問題は患者さんはもちろん、介護関係者にとっても大きな課題であったのです。
そのような中、小田原市の特別擁護老人ホーム「潤生園」で嚥下障害に関する研究が進められ、1982年、栄養価の高いミルクをゼラチンで固めた「救命プリン」が開発されました。
そして、口から食事がとれなくなった入所者に救命プリンを与えることで、嚥下反射が回復してくることを発見したのです。
これを機に、様々な食材で嚥下食を作ることを可能にし、今日の嚥下食の基礎を作ったといわれています。
その後も、様々な介護関係者により嚥下食の研究が続けられ、2004年の第10回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会教育講演にて、金谷節子さんにより発表されたものが「嚥下食ピラミッド」です。
その② 嚥下食ピラミッドの基本定義
嚥下食ピラミッドは、普通食から嚥下食まで6段階に分けた介護食の分類法です。
全ての食事を、摂食・嚥下の難易度にもとづいて区分し、各レベルごとに、食物形態の条件を基準化し、食事の品質管理をしやすくしたものです。
高齢者施設などでは、飲み込みが難しくなるごとに、普通食から介護食、介護食から嚥下食へとレベルを下げていきます。
- レベル0 開始食 お茶ゼリー・リンゴゼリーなど
- レベル1 嚥下食Ⅰ ねぎとろ・具ナシ茶わん蒸し・プリンなど
- レベル2 嚥下食Ⅱ 重湯ゼリー・フォアグラムース・ヨーグルトニンジンゼリーなど
- レベル3 嚥下食Ⅲ おかゆ・水ようかん・卵料理などピューレ状のもの
- レベル4 介護食 おかゆ・こしあん・かぼちゃの柔らか煮など
- レベル5 普通食 ご飯・ロールパン・しいたけ・五目ひじきなど(嚥下障がい者には食べることが困難)
嚥下食ピラミッドの活用方法
嚥下食ピラミッドの活用方法は、嚥下障害のある高齢者の支援だけではありません。
嚥下食ピラミッドのレベル0~2は、嚥下の訓練食という設定です。
レベル3が安定期の嚥下食、レベル4が介護食(移行食)、レベル5が普通食です。
これは、様々な理由で経口からの食事がとれなかった人の訓練にも有効です。
例えば、脳卒中の患者さんは発症後しばらくの間経口から食事をとらず、症状に応じてレベル0の訓練食(開始食)からの摂取を試みます。
状態が安定していれば、レベル1、レベル2と、嚥下が難しい食事へと順に移行していくのです。
つまり、嚥下食ピラミッドは、難⇒易、易⇒難と、両方向から機能するのです。
まとめ
高齢者は、食べ物を飲み込みにくい、むせやすいなどの嚥下障害に悩まされる人が多いです。
嚥下障害は、誤嚥・窒息など命に係わる事故の原因ともなるため、適切な嚥下食の提供が必要です。
嚥下食ピラミッドを上手に活用し、美味しく食べやすい食事を提供しましょう。