要介護者を支えたり、移動させたりすることは、介護の仕事の中でも大きな比重を占める部分です。
この身体介助は介助者にとって肉体的な労力が大きいため、筋肉痛や腰痛などに悩まされる人も少なくありません。
この問題解決に役立つものがボディメカニクスです。
ボディメカニクスは、できるだけ少ない労力で介護を続けるコツ。
ボディメカニクスを理解し、スムーズで負担の少ない介護をしましょう。
ボディメカニクスを分かりやすくご説明
ボディメカニクスは、最小限の労力で介護を続けるために有効な考え方のことです。
正確には、学問の一つで、人間の身体を一つの機械として考え、その運動機能の特徴につい手の学問のこと。
立ち上がる、歩く、座る、走るなど、人間の正常な運動機能は、神経・骨格・関節・筋肉がお互いに係り合った上で成り立っており、この相互関係を「ボディメカニクス」と呼びます。
ボディメカニクスを理解すると、「身体のどこをどう動かすと、その結果、身体全体がどう動くか」ということが、わかりやすくなります。
人の身体を動かすということは力がいるものですが、このボディメカニクスを活用すれば、力任せにしなくても、無理なく身体を起こしたり、身体の向きを変えたりすることが可能となります。
介助する人の肉体的労力を減らし、かつ介護される人にとっても楽な介助方法です。
ボディメカニクスの基本
その① 相手の身体を小さくし中心に寄せる
対象者の身体を小さくまとめます。
腕を胸の上で組む、膝を立てるなどして、身体をできるだけ小さく、球形に近い状態にし、ベッドに接する面積を小さくします。
これにより、介助する人の力が分散されることなく、介助がしやすくなります。
その② 相手との距離を近くする
対象者にできるだけ近づいて介助をします。
体を近づける=お互いの身体の重心が近づくことになり、移動の方向性がぶれずに同じ方向へ力が働くため、小さな力で動かすことができます。
その③ 支持基底面積を広くする
指示基底面積とは、足裏など床と接しているところで囲まれた足元の面積です。
この面積が広いと、身体が安定します。
介助者が、両足を前後、左右に広げることで、身体が安定し、力を入れやすくなります。
その④ 介助者の重心を低くする
膝を曲げて、重心を低くすると、体勢が安定し腰へ負担がかかりません。
膝の屈伸を使って重心移動によって動かすことを意識すると、楽に移動できます。
その⑤ 水平移動を心がける
水平に移動させることを意識しましょう。
水平移動は重力の影響を受けないため、負担が軽く済みます。
持ち上げるということは極力避けます。
その⑥ 介護者は大きな筋肉(筋群)を使う
「手先だけ」「腕だけ」での介助は避けましょう。
足は腰など、大きな筋肉を意識して、全身を使うようなつもりで介助をします。
腹筋、背筋、大腿四頭筋、大臀筋などの筋肉を同時に使うと、大きな力で介助ができる上に、一つ一つの筋肉への負荷は小さくて済みます。
ボディメカニクスを活用する場面
要介護度が高くなるとどうしてもベッドで過ごす時間が長くなりがちですので、少しでもベッドから離れる時間を作ることは、身体機能の維持と向上のために大切です。
ボディメカニクスは、様々な場面での介助に活用できますので、一つ一つの介助をラクに行い、介助者の負担を軽減しましょう。
その① 体位変換
寝たきりの方は、血行障害や褥瘡などを防ぐために定期的に体位変換が必要です。
その他にも、着替え、オムツ交換、シーツ交換の時などにも必要な、基本的な介助の一つです。
介助者は、寝返りを打つ側へ立ち、ベッドに片膝をつきます。
介助される人の「体を小さく球形に近づける」ため、両膝をゆっくりとたて、腕は胸の上に組みます。
介助される人の顔を寝返る向へ向けます。
こうすると、「重心が移動」します。
介助される人の膝と肩を支えながら、ゆっくりと寝返る側(介助者の方向)へ向かって引きます。
その② 立ち上がり
立ち上がりは、車いすへの移乗、介助されながらの歩行など、次のステップに進むための土台となる介助動作です。
不安定になりやすいので、ゆっくりとしたペースで行いましょう。
要介護者にベッドサイドに座ってもらいます。
両足が床に着くよう、おしりを少しずらして浅めに座ります。
要介護者の腕を、介助者の肩に回します。
介助者は、「指示基底面」を広げ、腰を落として「重心を低く」し、要介護者の背中に腕を回して介助します。
要介護者に、お辞儀をするような形で立ち上がってもらいます。
立ちあがってもすぐに要介護者から手を放さず、安定して立っているか確認してから、次のステップに進みましょう。
その③ 移乗
ベッドから車いすへ移動させる介助です。
車いすは、ベッドに対して10度~30度の角度で設置し、ブレーキを必ずかけておきます。
上記その③立ち上がりのステップから、引き続き行います。
要介護者が、ベッドサイドに立ちあがることができたら、体の向きを変えていきます。
介助者は、車いすに近い方の足を軸にして方向を変え、車いすに向き合います。
このとき、要介護者をゆっくりと誘導し体の向きを変えてもらいます。
要介護者に車いすを確認してもらい、手すりをもってゆっくりと座ってもらいます。
介助者は、要介護者と一緒に腰を落としながら介助します。
フットレストを下ろして、要介護者の両足をのせます。
その④ 歩行介助
歩行はできるが不安定な人、足腰の筋力が弱っている人には、歩行介助をします。
介助者は、要介護者の横に立ち、脇に手を入れ、腕の内側に手を当てて体を支えます。
反対側の手で、介助される人の手を下から支えるように軽く握ります。
要介護者の歩調に合わせて、ゆっくりと歩きます。
まとめ
介護は肉体的な労力を伴うため、腰などを痛めてしまう人も少なくありません。
介護をする人の健康のため、そして要介護者が安心して暮らすためにも、ボディメカニクスを理解し、肉体的負担を減らした介助を心がけましょう。