歩行が難しくなるとベッドの上で過ごす時間が増えがちですが、車いすがあれば、食事やトイレ、入浴など、毎日の生活の中でベッドから離れる時間が増え、外に出て新鮮な空気を吸ったり、季節を楽しむこともできます。
そのために必要な移乗という介助。ポイントを押さえてスムーズに行わないと、転倒の危険性が上がったり、介助する人にとっての肉体的負担が大きくなります。
この記事を読んで上手な移乗のポイントを知り、ラクで安全な移乗介助を行いましょう。
移乗とはなにか
歩行が困難な方が、ベッドから車いすへ、または車いすからベッドや椅子などへ移るときの介助です。
毎日の生活の中で必要となる場面が多い介助の一つです。
その① 移乗は転倒のリスクが高い
ベッドから車いすへ、または車いすからベッドへ移動させる移乗という介助は、転倒のリスクが高いので注意が必要です。
体が思う様に動かない人一人を、立たせる⇒向きを変える(回転)⇒座らせるという一連の動作ですので、それぞれの動作を安全に行うための手順を一つ一つきっちり行う必要があります。
車いすを使うことから、車いすの基本的な扱い方はもちろん、安全に移乗するための準備や手順も確実に守らなけらばなりません。
慌てたり、うっかりして万全な注意ができなかったり、バランスがうまくとれないと、転倒する可能性があります。
その② 腰痛予防に努める
移乗は、スムーズに行わないと、介助者にとって肉体的な負担が大きくなります。
- 立ち上がるために適切な位置に座らせる
- 座っている状態から体を支えて立ち上がらせる
- 立っている状態から勢いがつかないように静かに座らせる
といった動作は、ポイントをしっかりと押さえていないと力任せになりがち。
その結果、筋肉痛になったり腰を痛めてしまうことも多いです。
技術を学び、スムーズな介助をすることは、介助する人の健康と、介助される人の安全と安心感につながります。
その③ 移乗が必要となる場面
移乗は、毎日の生活の中で頻繁に必要となる介助です。
- トイレに行くとき
- お風呂に入るとき
- 食事にいくとき
- おやつを食べるとき
- 手を洗いたいとき
- 外出するとき
など、そして、逆にベッドに戻るときも同じです。
歩くことが困難な高齢者の方にとって、ベッドを離れることは寝たきりを防ぐためにとても大切ですよね。
短い時間でも外へ出て、季節の変化を感じたり、景色を眺めることは、生活にメリハリを与えます。
外に出なくても、立ち上がる、座る、となりの部屋へ行くといった動作や変化が、身体機能の維持に有効なのです。
移乗を頻繁に行うことは、長い目で見て心身の健康維持に役立つのと言えますね。
移乗についておさえるべきポイント
歩くことが難しい高齢者にとって、幅広い意味で大切な移乗という介助。
介助される人にとって安全で、介助する人にとっての負担を抑えるために、大切なポイントをしっかりと学びましょう。
その① 移乗するモノの位置や角度を確認
移乗は、車いすを使った移動が目的。
車いすの安全な扱い方をしっかりと学習しましょう。
ベッドから車いすへの移乗、椅子から車いすへの移乗、反対に車いすからベッドへ移乗などのシチュエーションがありますが、いずれの場合も、移乗するモノの位置や角度が大切です。
たとえば、ベッドから車いすへ移乗する場合には、車いすを極力ベッドに近づけ、車いすの側面がベッドに対して「15~30度、できる限り平行」になるように設置します。
これにより、余計な体の動きや不安定な状態で立っている時間がなくなり、安全にすばやく移乗できます。
その② ブレーキの確認・フットレストを上げる
車いすの取り扱いで大切なことは、ブレーキとフットレストです。
移乗を行うときには、まず準備の段階で、ブレーキをしっかりと固定します。
座ったときのはずみでブレーキが緩んだり、車いす自体が動いてしまうと大変危険です。
次に、フットレストを上げておきます。
フットレストについては意外と忘れがちなのですが、フットレストを誤って踏んでしまうと、その勢いで車いすが跳ね上がり事故につながります。
フットレストにつまずいて転倒する危険性もあります。
道具を使う時には、事前の安全確認がとても大切です。
その③ 対象者が立ち上がりやすい環境を整備する
移乗は、立ち上がる⇒向きを変える⇒座るの一連の動作です。
そのため、立ち上がりが安全にできるよう、環境を整えます。
安全に立ち上がるためには浅く座る必要がありますので、対象者の位置を確認します。
ベッドの縁に、太腿の中間がくるくらいが適切です。
このとき、おしりの高さが膝の高さよりも高くなると、立ち上がりやすいです。
おしりの方が下がっているようであれば、ベッドの高さを調節します。
その④ 前傾姿勢を意識して移乗する
立ち上がりをスムーズに行うためには、対象者を前方(介助者の方向)へ誘導することが大切です対象者は、少しおじぎをするような前傾姿勢になります。
こうすることで、重心が前方へ動き、おしりが持ち上がりやすくなります。
この時、介助者は足を広げて腰を落とします。
介助者に、持ち上げようという気持が無意識のうちにはたらくと、対象者の方へ体を近づけてしまうのですが、そうすると重心が対象者のおしりに残ったままになります。
この状態ですと力で持ち上げることになり、肉体的負担がかかる上、バランスを崩してベッドの上に倒れる危険性があります。
その⑤ 支持基底面積を意識する
移乗を安全に行うために、ボディメカニクスを思い出しましょう。
人の身体を負担なくスムーズに動かすためのポイントの一つが、支持基底面積でしたね。
移乗の際も、介助者は両足を広げ、腰を落とし、安定した体制を取ります。
一方の足を、対象者の外側(車いすと反対側)におくと、膝で支えやすいです。もう一方の足は、車いすの外側位がよいでしょう。
立ち上がりの時には、対象者は前傾して重心が前に動きますが、介助者から見ると、重心が後方へ移動します。
それに続いて、回転、座るという姿勢になりますので、その時に安定した状態でいられる足の位置がよいのです。
その⑥ 介助前後の声掛け
移乗は、タイミングが大切です。対象者が動こうとする瞬間と、介助者が踏ん張る瞬間がぴったり合えば、小さな力で移動することができます。
お互いのタイミングがぴったり合うように、声掛けをしましょう。
「1,2の3で動かしますよ」などと声をかけて、コミュニケーションをしっかりとれば、介助者の肉体的負担軽減になりますし、対象者の不安も取り除かれます。
まとめ
歩くことが難しくなるとベッドで過ごす時間が増えてしまいそうですが、車いすを活用すれば外に出て季節を感じたり、気持ちの良い空気を吸ってリフレッシュすることができますよね。
外出はしなくても、食事に行く、トイレに行く、入浴をするなど、日々の生活の中で車いすで移動するだけで、脳への刺激になったり筋力の維持に役立ちます。
移乗は、車いすを活用するために必要不可欠な介護技術。スムーズに行うコツとポイントを学び、肉体的負担なくスムーズに行いたいものですね。