交通事故に遭った場合、弁護士に依頼をするケースもありますが、介護事故に遭ったときも弁護士に相談した方がよいのでしょうか?
この記事では、介護事故が発生した際に弁護士に相談した場合の流れについて、詳しく解説します。
介護事故の対応は弁護士に依頼した方がいいのか?
介護事故の場合は、家族の面倒をみてもらってお世話になった事業者や職員が相手になるため、そこに遠慮や感謝の気持ちがあり、弁護士を通すことは躊躇してしまうかもしれません。
しかし、事業所側に過失がある場合には、受けた損害に対する賠償を請求すること自体は当然の権利です。
介護事故であっても、事業者側の説明に納得がいかない場合には、弁護士に相談してみても良いと思います。
事案によっては、既に事業所側の保険会社から賠償の提示(示談の提案)が出ている場合もあります。
その賠償額が適正かどうかを弁護士に聞いてみるだけでも十分に意味はあると思います。
介護事故が発生して弁護士に相談すると聴かれる項目
交通事故と同様、介護事故で争点になるのは大きく分けて「過失の有無や過失割合」「生じた結果との因果関係の有無」「損害額」の3点です。
弁護士が介護事故の相談の際には、この3点を確認するために、事故以前の利用者の心身の状態・要介護度はどうだったか、事故直前の利用者の心身の状態に変化はあったか、事故自体の事実経過の詳細、事故後の治療経過、事故後の心身の状態・要介護度の変化などを聴取します。
弁護士に相談を依頼するときは、上記の点を説明できるように事実経過をまとめたり、資料を整理しておきましょう。
その① 過失に関すること
交通事故における道路交通法のような明確な基準もないので、過失の判断はそう簡単ではありません。事故が起こり不都合な結果が生じたからといって、事業者側に過失がなければ法的な賠償責任は発生しません。
過失とは「結果が生じることが予見できたにもかかわらず、結果を回避する措置を怠ったこと」です。
発生した事故が、誤嚥による窒息や歩行時の転倒などの場合、事業所側では予測できない事故であるため、過失はないと判断されます。
その② 因果関係に関すること
因果関係というのは、過失と結果が結びついているかどうかということです。例えば、介護者の過失で転倒・骨折してしまい入院したけれども癌で死亡したというような場合は、過失と骨折は因果関係があっても、過失と死亡は因果関係がありません。
しかし、ご高齢の方が骨折で入院したけれども、若い方の骨折の手術とは違い寝たきりの日が続くことによってどんどん免疫や体力が低下してしまい肺炎・その他の疾病で死亡するということは比較的よくあることです。
このような場合に因果関係を認めるのかは微妙なところです。裁判例では、このように比較的遠いつながりでも、因果関係を認めた事案もあります。
その③ 損害に関すること
「治療費」「入通院の慰謝料」「交通費」などは、交通事故などと同様ですので介護事故特有の問題はそれほどありません。介護事故の場合に問題になりやすいのは、後遺障害の問題です。交通事故や労災事故のように後遺障害の認定機関がないため、「交通事故等の後遺障害等級表」を参考に、どの程度の後遺障害に該当するかを判断していきます。
しかし、介護事故の場合は事故前も要介護状態である一定の障害が存在した状態であるため、事故前の状況も加味して判断することが必要になってきます。
相談から解決までの流れ
弁護士に相談をしてから解決に至るまでの流れご紹介します。
その① 法的な相談
まずは、事故の事実関係や事故前後の状況を確認し、どのような方法をとり得るかをアドバイスしてもらう法的な相談からスタートします。
事業所側から一定の損害賠償の提示を受けている場合には、その金額や過失割合についての判断が妥当かどうかについて、意見をもらいます。
相談をしたからといっても依頼をする必要はないため、何度か相談をくり返す場合もありますし、一度の相談で終了することもあります。
その② 調査・証拠保全の依頼
介護事故や医療事故の場合は、検討すべき記録(介護記録)が膨大であったり、責任を問えるかどうかの判断が直ちにつかない場合があるため、事案によっては「調査」という段階が必要になります。
また、事業所側のこれまでの対応に不自然な点があり、証拠隠滅のおそれがあると考えられる場合には、裁判所に申し立てた上で証拠保全という手続きをとることもあります。
その③ 示談交渉
一定の調査が終わり見通しがたった段階で、示談交渉の依頼を受けることが一般的です。
いきなり訴訟をするのでは費用も時間もかかりますので、示談交渉で解決できるのであれば、それを希望される方も多いです。
多くの場合、事業所側にも代理人弁護士がつき、弁護士間で法的な争点も含めたやりとりをし、示談交渉を進めます。
その④ 訴訟等
示談交渉では、双方の考えに開きがあり解決できなかったような場合、責任追及の見通しや希望に応じて、訴訟提起することがあります。
裁判所の手続きとしては、訴訟以外に、裁判所の調停委員を間に挟んで話し合いを進める調停という手続きもありますが、示談交渉である程度踏み込んだやりとりをしても、示談成立に至らなかった事案では、訴訟を選択する方が一般的です。
まとめ
この記事では、介護事故が発生した際に弁護士に相談した場合の流れについて、詳しく解説してきました。以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 介護事故が発生して弁護士に相談する場合、過失の有無や過失割合、生じた結果との因果関係の有無、損害額の3点について確認されるため、これらの点を説明できるように事実経過をまとめたり、資料を整理しておく必要があります。
- 弁護士に相談をしてから解決に至るまでの流れは、①法的な相談、②調査・証拠保全の依頼、③示談交渉、④訴訟等です。
介護事故の場合、交通事故と違って弁護士を通すことに対して躊躇してしまうかもしれません。
しかし、実際に事業所側に過失がある場合には、示談交渉や訴訟等に至る場合もあります。
自分たちではわからないこともあるため、まずは専門家である弁護士に相談するところから始めてみましょう。