安楽死は現在日本では認められていません。この記事では安楽死について、またなぜ安楽死が日本で認められないのかについて、詳しく解説します。
そもそも安楽死とはなにか
「安楽死」とは、死期が迫った患者を、耐え難い肉体的な苦痛から解放するために、医師が積極的または消極的に自殺を助ける行為をすることをさします。
患者自身が死を望み、倫理的に妥当と思われる方法で行われる必要があります。尊厳死と近似している部分もあります。
その① 安楽死の実情
安楽死は、世界のほとんどの国で認められておらず、日本においても安楽死は認められていません。
実際、安楽死が認められているスイスでは、世界各国から末期がん患者が安楽死を求めて集まってきます。
安楽死のための長いウェイティングリストが存在し、死の順番を待っているという病院があります。
ドイツ、フランス、イギリスなどの安楽死を認めていないヨーロッパ各国からは、自殺ツーリズムと呼ばれる、安楽死のためのスイス旅行がみられ、スイス国内でもその是非をめぐっては住民投票になるなど、社会問題化しました。
「死ぬ権利」に関しては、それを認める国、認めない国双方において、常に議論が絶えない問題になっています。
その② 安楽死には2つの種類がある
安楽死には「積極的安楽死」と「消極的安楽死」の2つの種類があります。
「積極的安楽死」とは、回復の見込みがなく、苦痛の激しい末期の傷病者に対して、本人の意思に基づき、薬物を投与するなどして人為的に死を迎えさせることです。
一方、「消極的安楽死」は、回復の見込みがない傷病者に対して、本人のリヴィング・ウィル(生前の意思)に基づき、人工呼吸器や点滴などの生命維持装置を外し、人工的な延命措置を中止して、寿命が尽きたときに自然な死を迎えさせることです。
尊厳死とも言います。
植物状態におちいるなどしたとき、人工的な延命措置によって生命を維持し続けることは、人間としての尊厳を保っていないと本人が考えた場合、人工的な延命措置を行わずに自然な死を選ぶ権利があるとする考え方に基づきます。
QOL(生命の質)を重視する流れから、この権利が求められるようになりました。
その③ 日本で安楽死は合法か?
現在、日本には安楽死に関する許容や禁止に係わる法や制度が存在しません。
そのため、たとえ本人または家族からの要望があったとしても、安楽死に携わった医師が罪(委託殺人罪、自殺関与罪)に問われることになります。
また依頼した近親者も殺人関与という形で罪に問われます。
本人の同意を得ずに安楽死が行われた場合も同様です。末期状態とはいえ、人の命を他者が短縮することは「人を殺す」ことになるという理解です。
日本で積極的安楽死が認められない理由
積極的安楽死にはデメリットがいくつかあります。
安楽死が法的に認められるようになると、末期患者や高齢者の早期の死を周囲が望む可能性が生じます。
患者本人は死を望んでもいないのに、周囲からのプレッシャーから積極的苦痛が増し、やむなく死を選択することも考えられます。
また、近年医療事故が多発しています。
投薬ミスや手術をする患者の取り違えなど、ちょっとしたミスが起こるような医療現場を考えると、末期患者にきめ細やかな医療介護を期待することはできません。
そのうえ、死期が近いという理由で安易に安楽死を勧められる可能性もありうるのです。
以上のような点を考えると、日本では安楽死を認められません。
安楽死と尊厳死に違いはあるのか?
安楽死と尊厳死はいずれも本人の意思による死の迎え方ですが、その目的や過程に違いがあります。
上記にも述べたように、安楽死は積極的安楽死、尊厳死は消極的安楽死のことを言います。
安楽死が「患者の苦痛からの解放」を第一の目的として、薬物などによって人為的に死をもたらすものであるのに対し、尊厳死は「人間の尊厳を保って自然に死にたい」という患者の希望をかなえることを目的として、人工的な延命措置を行うのをやめ、その結果として自然な死を迎えるというものです。
呼吸困難に陥っている患者に対して、酸素マスクを外して死に至らしめる行為を積極的安楽死とするならば、最初から酸素マスクをつけないで死を迎える行為を、尊厳死(消極的安楽死)と呼びます。
少しでも痛みを軽減して死を迎えるためにできること
日本では積極的安楽死は認められていないため、回復の見込みがない、苦痛の激しい末期の傷病者であっても安楽死を選択することはできません。
そのような患者が少しでも痛みを軽減して死を迎えるために「緩和ケア」というものがあります。
「緩和ケア」とは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチです。
まとめ
この記事では安楽死について詳しく解説しました。以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 安楽死とは、死期が迫った患者を、耐え難い肉体的な苦痛から解放するために、医師が自殺を助ける行為をすることをさします。安楽死には2種類あり、積極的安楽死は、末期の傷病者に対して、本人の意思に基づき、薬物を投与するなどして人為的に死を迎えさせることです。消極的安楽死(尊厳死)は、傷病者に対して、本人の生前の意思に基づき、生命維持装置を外し、人工的な延命措置を中止して、寿命が尽きたときに自然な死を迎えさせることです。
- 安楽死は、世界のほとんどの国で認められておらず、日本においても安楽死は認められていません。たとえ本人または家族からの要望があったとしても、安楽死に携わった医師は罪に問われます。
- 積極的安楽死にはデメリットがいくつかあります。周囲からのプレッシャーから積極的苦痛が増し、本人は死を望んでいないのにやむなく死を選択すること、医療事故安易な安楽死などが考えられます。
- 末期の傷病者が少しでも痛みを軽減して死を迎えるために緩和ケアがあります。緩和ケアは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチです。
現在日本では積極的安楽死は認められていませんが、消極的安楽死(尊厳死)は認められています。
本人の意思に基づき治療を中止することは違法ではありません。
高齢になったり、病気が進行して、家族や周りの人に迷惑をかけるのは避けたいといった理由で、消極的安楽死に賛成する人もいます。
しかし、生きている限りは誰でも年を取り、身体が動かしにくくなり、周りの助けが必要になるものです。
自分は迷惑だと思っていても、家族はどんな延命治療をしてでも長生きしてほしいと思っている場合もあります。
人によってどのような最期を迎えたいかは違うと思いますが、自分だけでなく周りの家族とも話し合う必要があります。