介護というサービスの性質上、事故やトラブルが起きやすい状況の中で、日々職員は業務を行っています。
利用者や職員を守るために注目されているのが「リスクマネジメント」です。
この記事では、介護現場におけるリスクマネジメントについて詳しく説明します。
介護現場のリスクマネジメントとは
介護現場におけるリスクマネジメントとは、介護事故のリスクを把握し、組織的に管理することで事故を未然に防ぐことを目的とした活動です。
介護現場では、利用者の安心・安全を確保することが前提にありますが、リスクマネジメントに取り組むことで、職員を守ることにも繋がります。
職員や組織がリスクを意識した活動を行うことによって、介護事業所として利用者により安全で質の高いサービスを提供することができるようになります。
リスクマネジメントが重要な理由
介護現場におけるリスクマネジメントがなぜ重要なのでしょうか?その理由を大きく3つにまとめます。
その① 【理由1】事故が利用者の命に関連する
介護サービスを利用される方の多くは高齢者や障害者です。高齢者や障害者は身体の機能が低下していたり、麻痺などの障害があるなどし、軽い転倒でも大きな怪我になる可能性があります。
また、また、怪我をした場合、若い人や健常者と比べて治癒に時間がかかり、長期間にわたって寝たきりの状態になったり、認知症になることもあります。
怪我だけでは済まず、場合によっては利用者の命に関わることもあります。
少しの不注意やミスが事故に繋がり、利用者のその後の生活を左右し、最悪の場合は命に関わる大きなことなのです。
その② 【理由2】介護事故の高額訴訟について
介護事故を起こさないことが第一ですが、万が一起きてしまい、事故が職員の不注意や介護施設側の過失として認められた場合は、介護事故の損害賠償として多額の賠償金を支払わなくてはなりません。
実際に起きた介護事故により、損害賠償が認められた事例では、デイサービス利用者が入浴中に転倒、骨折し、830万円の損害賠償が請求された例や、施設利用者がとろみ食を誤嚥し窒息死に至り、2,640万円の損害賠償が請求された例などがあります。
このように多額の損害賠償が請求された場合、事業運営にも支障をきたし、最悪の場合は、介護施設の倒産・閉鎖に追い込まれることも考えられます。
リスクマネジメントは、利用者を守る観点だけでなく事業所を守るためにも必要です。
その③ 【理由3】介護職員のヤル気を左右する
介護事故を未然に防ぐためには、職員の経験に依存することなく統一した認識を持つことが必要です。そのためにマニュアルや勉強会など、職員の認識を高めることが、リスクマネジメントには求められています。
職員や組織がリスクを意識した活動を行うことにより、利用者により安全で質の高いサービスを提供することができます。職員は日頃から質の高いサービスを心がけるようになり、モチベーションの向上にも繋がります。
また、もし介護事故が起こってしまった場合でも、しっかりとしたリスクマネジメントにより再発防止に向けた対策が行われれば、当該職員の不安も軽減できます。
リスクマネジメントがおろそかになると、職員の不安や不満が増し、離職につながってしまう可能性も考えられます。
少子高齢化が進む日本において、介護職員を確保することは重要な課題でもあり、徹底されたリスクマネジメントは最重要と言えます。
介護現場のリスクマネジメントのアプローチ
介護現場で事故が起こらないように、リスクマネジメントが重要であることはお分かりいただけたと思います。
このリスクマネジメントはどのように進めていくと良いのでしょうか?
以下に介護現場でのリスクマネジメントのアプローチについて説明します。
その① 利用者の安全・尊厳を守る
まずは利用者の安全を確保するために、施設・事業所内で利用者に被害を与えてしまう可能性があるものを発見・把握しましょう。
これは現場であげられたヒヤリハット報告書や事故事例報告書を参考にすると良いです。
そして、報告書をもとに事故を分析し、事故が多く起こっている場所や時間帯を把握していき、なぜ発生したのかその要因の分析を行います。
この作業により見つけた要因に対して対策を立てていくことで、具体的な解決策を立案できるようになります。
それから、事故が起きてしまった際のリスク対応も重要です。
事故を起こしてしまった時に落ち着いて迅速かつ的確な対応ができるよう、リスクを想定した対応手順をマニュアル化し、職員全体に把握してもらいます。
事故の早期発見、早期対応を行うことで、被害を最小限に抑えることができます。
しかし、利用者の安全を守ることは第一なのですが、安全を優先するあまり利用者の自由や意欲まで奪ってしまうことは、本当の意味でのケアでなくなってしまいます。
利用者の尊厳を守りながら、利用者の安全を守るということを大切にしましょう。
その② 介護職員の組織を守る
リスクマネジメントの第一歩は、どんなリスクが考えられるかを洗い出すことです。
そのため、職員一人ひとりが当事者意識を持ち、情報を報告・共有しやすい雰囲気作りが大切です。
意識を高めるための勉強会を開催するなどもおすすめです。
また、介護業界におけるリスクマネジメントが重要視されていることを受け、2021年度の介護報酬・基準改定ではリスクマネジメントに関して見直されています。
今回の改定では、「安全対策担当者」を設置することが義務づけられ、基準を満たしていない場合には減算される、外部の研修を受けた担当者を配置し、組織的に安全対策を実施する体制が整備されている場合には加算されることになりました。
現時点でも多くの介護施設ではリスクマネジメントの担当者を設置していると思いますが、その大半は一般の介護職員が担っています。
法令に基づいてリスクマネジメントの担当者を設置することは、事故やトラブルが発生した際の責任がかかってくることも意味しています。
リスクマネジメント強化のために、担当者を決めて終わりではなく、スタッフ全員で事故やトラブルを減らそうという意識のもと、担当者をサポートしていく施設の体制・組織を作り、守っていくことが重要です。
まとめ
この記事では介護現場でのリスクマネジメントについて、詳しく解説しました。
以下にこの記事の内容についてまとめます。
- 介護現場におけるリスクマネジメントとは、介護事故のリスクを把握し、組織的に管理することで事故を未然に防ぐことを目的とした活動です。
- リスクマネジメントは、事故が利用者の命に関連するということ、また介護事故の高額訴訟などから職員・事業所を守る、介護職員のモチベーションを向上し、質の高いサービスを提供するという視点からも重要視されています。
- 介護現場のリスクマネジメントのアプローチとして、利用者の安全を守るために、事故の報告・分析をし、対策・リスク対応を立案し、職員全体が把握するようにします。利用者の尊厳を守りながら、安全を確保します。
- 職員一人ひとりが当事者意識を持ち、情報を報告・共有しやすい雰囲気作りが大切です。リスクマネジメントを強化する場合も、スタッフ全員で事故やトラブルを減らそうという意識のもと、担当者をサポートしていく施設の体制・組織を作り、守っていくことが重要です。
介護現場は介護というサービスの性質上、事故が起こりやすい状況ですが、リスクマネジメントがしっかりと行われていれば、たとえ介護事故が起こってしまった場合でも、適切なリスク対応により被害を最小限に抑えることができ、再発防止にも役立ちます。
リスクマネジメントに関する制度も見直され、安全かつ質の高いサービスを提供していくためのリスクマネジメントは、介護施設としての質を評価する基準になっていくかもしれません。
利用者の安全の確保のためだけでなく、今後職員や事業所を守っていくためにもリスクマネジメントは重要な取り組みであると言えます。