近年、高齢者は、健常な状態から要介護状態になるまでに、「フレイル」という中間的な段階を経ていると考えられるようになっています。
この記事ではフレイルについて詳しく解説し、介護予防とどのように関係があるのか解説します。
フレイルとは
フレイルは、海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。
フレイルとは健常から要介護へ移行する中間の虚弱状態を言います。
具体的には、加齢に伴い筋力が衰え、疲れやすくなり家に閉じこもりがちになるなど、年齢を重ねたことで生じやすい衰え全般を指しています。
疾患や怪我などにより、健常な状態から突然要介護状態に移行することもありますが、高齢者の多くの場合はフレイルの時期を経て、徐々に要介護状態に陥ると考えられています。
その① フレイルで高齢者に起こること
フレイルは、身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題が含まれる、多面的な概念です。
高齢者は、フレイルの時期に、心身および社会性など広い範囲でダメージを受けたときに回復できる力が弱くなり(生理的予備能の低下)、環境や外敵からのストレスに対しても抵抗力が弱くなります。
フレイルの状態は生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症も引き起こす危険性があります。
風邪やちょっとした怪我をきっかけに寝たきりや死に至る場合もあります。
しかしフレイルは、早く介入して対策を行えば、元の健常な状態に戻る可能性があります。
この時期に適切な支援をうけることで健常な状態に戻ることができる大切な時期ともされています。
その② フレイルの原因
フレイルは、明確な固有の原因があって引き起こされるというよりも、加齢に伴うさまざまな心身の変化と社会的、環境的な要因が重なりあうことにより起こります。
これらの原因は、相互に影響し合って、本人を徐々にフレイルの状態にし、さらにより虚弱な状態に陥らせ、フレイルから要介護状態へと移行させます。
フレイルの原因となるものには以下のものがあります。
- 動くことが少なくなる
- 社会的に交流する機会が減る
- 身体機能の低下(歩くスピードの低下)
- 筋力が低下する・筋肉量が減る(サルコペニア)
- 認知機能の低下
- 疲れやすくなる
- 元気が湧かなくなる
- 日常管理が必要な慢性疾患(糖尿病、呼吸器疾患、循環器疾患、関節炎、抑うつ症状など)にかかる
- 体重が減る
- 低栄養になる
- 収入が減る
- 孤独になる
フレイルについてチェックしてみよう
フレイルには統一された評価基準はありませんが、現在ある評価基準を元に作られた日本で行われることの多いフレイルの評価基準は以下です。
その① 身体的フレイルのチェック
0項目:健常
1〜2項目:プレフレイル(フレイルには至らないが前段階)
3項目:フレイル
その② 総合的フレイルのチェック
高齢者の日常生活全般の健康度を測るものとして、2006年から使われている厚生労働省の基本チェックリストがあります。
このチェックリストは、身体・社会・精神の衰えを広くカバーしていて、総合的にフレイルを発見することができます。
フレイルを予防する方法
健常な段階からフレイルを予防するには、生活習慣病の(進行)予防をしながら、運動機能・認知機能の低下を防ぎ、社会的に関わりを保ち続けることが大切です。
その① 持病のコントロール
糖尿病、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患がある場合には、まず持病のコントロールをして、悪化させないことが大切です。
持病の治療がうまくいかず、行動が制限されたりさまざまな症状が現れると、体を動かしたがらなくなったり、身体機能が低下してしまうこともあります。
負担にならないような持病コントロールの方法を教えてもらうなど、医師や薬剤師とうまく連携して、現在の状態を維持・継続しましょう。
その② 感染症予防
高齢者は免疫力が低下していることが多く、インフルエンザや肺炎にかかりやすいです。
若い人なら感染症にかかっても軽症で済むことが多いですが、高齢者の場合は重症化しやすくなります。
インフルエンザや肺炎が重症化して入院し、そのまま寝たきりになってしまうこともあります。
- 適度な運動やバランスのよい食事を心がけ、免疫力を高める体作りをする
- 基本的な手洗い・うがいなどの清潔保持を行う
- 予防のためのワクチンなどを接種する
- 誤嚥性肺炎による肺炎を防ぐため、しっかりと口腔ケアをする
その③ 適度な運動
生活習慣病の予防や運動機能の維持のためには、適度な運動を行うことが大切です。
フレイルのチェック項目の中に筋力の項目があるように、筋力維持や向上はフレイルの予防のために重要です。
日常生活の行動に、少し運動を取り入れたり、歩く時間や距離を伸ばすなどして、毎日続けられる方法を、少しずつ始めましょう。
その④ バランスのよい食事
高齢になると食が細くなったり、好みが偏ったりして、バランスよく栄養が摂れていないことがあります。
特に一人暮らしの高齢者は、食事の品数も減り、食べる食材も偏り、食欲が低下しがちで、低栄養状態に陥りやすくなります。
また、運動機能を維持するためにもたんぱく質やカルシウムなどの体を作る栄養素が必要です。
さまざまな栄養素をバランスよくしっかりと摂取して、低栄養状態に陥らないようにしましょう。
その⑤ お口のなかの清潔の維持
高齢になると唾液の分泌量が減少し、口腔内を清潔に保つのが難しくなります。
口の中を清潔に保つことで歯周病や虫歯など、お口のトラブルを予防し、それに伴う全身の健康状態の維持にも繋がります。
口腔ケアをすることで、誤嚥性肺炎を予防することもできます。
また、口腔内の衛生環境の改善により、食欲増加をもたらし、結果として体力増強、QOLの向上をもたらすことができます。
その⑥ 嚥下機能のケア
高齢になると歯が抜けたり、舌の運動機能、咀嚼能力、唾液の分泌、味覚などが低下します。
加齢に伴い嚥下機能(飲み込む力)が弱くなると、食べものや飲みものが気管に入る「嚥下困難」が起きることもあります。
誤嚥しやすくなり誤嚥性肺炎を起こすこともあります。
誤嚥性肺炎での入院をきっかけに寝たきりになっててしまったり、命を落としてしまう方もいるため、高齢者の誤嚥には注意が必要です。
嚥下機能を保つリハビリをするなど、食べる機能を低下させないようにしましょう。
その⑦ 社会との繋がりを保つ
高齢になると、社会的地位や家族の役割が変化したり、家族や友人を喪失することで、気力や活気が失われてしまうこともあります。
外出する機会や気力が失われ、家に閉じこもりがちになることでフレイルへと進行しやすくなります。
特に一人暮らしの高齢者は他人との関わりがなくなるため注意が必要です。
友人や家族との交流する機会を継続的に持ち続けることが重要です。
また、趣味や地域の活動を通して人との関わりを持ち役割を担うことで、フレイルの進行予防になります。
まとめ
この記事ではフレイルについて詳しく解説しました。
以下にこの記事の内容をまとめます。
- フレイルとは健常から要介護へ移行する中間の虚弱状態を言い、年齢を重ねたことで生じやすい衰え全般を指しています。フレイルには明確な原因があるわけではなく、加齢に伴うさまざまな心身の変化と社会的、環境的な要因が重なりあうことにより起こります。
- フレイルは体重減少や、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動などの身体的フレイルのチェック項目のほかに、身体・社会・精神の衰えを広くカバーしている総合的フレイルのチェックも使用することで早期にフレイルを発見することができます。
- フレイルを予防する方法としては①持病のコントロール、②感染症予防、③適度な運動
、④バランスのよい食事、⑤お口の中の清潔の維持、⑥嚥下機能のケア、⑦社会との繋がりを保つ、これらの方法が重要です。
フレイルについて知っておくことで予防がしやすくなるだけでなく、もしフレイルになってしまったとしても、適切に介入することで元の健常な状態に戻りやすくなります。
健康な高齢者でもいつどのきっかけでフレイルの状態になるかはわかりません。
高齢者本人や家族がフレイルの状態や兆候を知り、日常生活のすべてが健康にかかわるものと捉え、日頃から介護予防に取り組むと良いでしょう。