自宅での介護が困難となってきて老人ホーム等への入所を検討するようになると、必ず選択肢にあがるといっても過言ではない施設。
それが特別養護老人ホームです。
「特養」や「特老」と省略して呼ばれることも多いです。
最後の砦として位置づけられることも多いこの施設ですが、実はどんな方でも入居できるわけではなく、また施設毎の人員配置体制によっては、入所者の状態に合わせた対応ができない場合もあるのです。
そこで今回は、知っているようで実は知らない、特別養護老人ホームの基本についておさらいしていきたいと思います。
特別養護老人ホームの特徴
特別養護老人ホームには、大きく分けて下記の4種類の部屋構造があります。
そのタイプによって、サービス単価や施設の介護方針が分かります。
- ユニット型個室
- ユニット型準個室
- 従来型個室
- 多床室
10人程度の生活単位(ユニット)ごとに共用スペースが併設されている個室
居室が、可動しない間仕切り(天井との隙間がある)などで仕切られて完全な個室になっていないユニット型個室
ユニットを構成せず、ホテルの客室のように廊下に直結した個室が並んでいるタイプ
1室あたり2~4名が同室になって構成される、入院病棟のような構成の部屋タイプ
時代の流れとともに集団ケアから個別ケアへと介護方法が変化してきていることやプライバシー保護の観点から、新設される施設はユニット型の施設や個室タイプで設計されることが多いです。
ユニット型は10人程度を1つの小単位として少人数で固定された職員が関わることによって、介護員と入所者の相互理解が深まり、画一的でない、個性や生活歴に合わせた柔軟な介助が可能となります。
また、入所者同士の交流への援助もしやすいため、良好で濃密な人間関係を築くこともできます。
ただし、その構造上建設コストや人件費が高くなってしまったり、従来型多床室と比べて施設の定員が少なくなってしまうことがある等の理由により費用が高くなってしまうという傾向があります。
入所できる要件
特別養護老人ホームに入所できる要件は、
- 要介護3以上の認定を受けている65歳以上の方(第1号被保険者)
- 要介護3以上の認定を受けている40~64歳の方(第2号被保険者)
- 特例入所に当てはまる要介護1~2の方
以上の3つとなります。
なお、ここでいう特例入所とは、
- 認知症で、日常生活に支障をきたすような症状等が頻繁に見られること
- 知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障をきたすような症状等が頻繁に見られること
- 深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態であること
- 単身世帯等家族等の支援が期待できず、地域での介護サービス等の供給が不十分であること
これらが要件となり、入所申請時に所定の書類を提出することが必要となります。
また、特別養護老人ホームを管轄する都道府県によっては、こられの要件について具体的な判断基準を設定している場合があるようです。
詳しくはお住いの都道府県の介護保険担当課に確認するとよいでしょう。
働いている人達
特別養護老人ホームは、法定基準として下記のような人員配置となっています。
なお、ユニット型の特別養護老人ホームの場合は合わせて
- 昼間は1ユニットごとに常時1人以上の介護職員又は看護職員、夜間は2ユニットごとに1人以上の介護職員又は看護職員を配置
- ユニットごとに常勤のユニットリーダーを配置
などの人的要件があります。
これ以外にも、その施設によって受付専門の職員や施設の維持管理に関わる営繕担当職員、施設の送迎者等を運転するための職員、施設内を掃除する職員、リネンや入所者の衣類などを洗濯したり管理したりするための職員、夜勤者以外に夜間巡視や施錠確認・電話対応を行う宿直員などを配置している場合があります。
直接雇用ではなく、一部をシルバー人材センター等に委託して派遣してもらっている所もあります。
日々の活動内容
施設によって細かな違いはありますが、日々の日課はこのようになっています。
特別養護老人ホームのメリット&デメリット
特別養護老人ホームは、大規模な施設であり、終身入居を前提とした施設です。
そこには大規模であるが故の様々なメリットやデメリットがありますので、確認しておきましょう。
メリット
- 費用が安い
- 24時間介護を受けることができる
- 終身入居である
- 安定している
有料老人ホームや高齢者向け賃貸住宅などにある入居一時金や権利金、敷金・礼金などといった一時金の設定がありません。
また、負担限度額認定制度により、所得に応じて居住費や食費に減免制度があります。
有料老人ホームなどは施設毎に人員配置に差があり、夜間介護員がいない所があります。
それに対して特別養護老人ホームは常に介護職員もしくは看護職員がいます。
そのため夜間や深夜であっても適宜必要な介護を受けることができます。
終身入居することが前提の入居となります。
ただ、施設で対応困難な高度医療的ケアが必要となった場合や利用料支払いが滞った場合などは退去せざるを得ないこともあります。
特別養護老人ホームを運営しているのは、公的側面のある地方自治体や社会福祉法人に限定されています。
施設設置・運営開始に当たっては事前に厳しい審査があります。
また補助金や税金等の面で優遇や減免される等のメリットがありますので、運営母体として倒産したり運営不可能となったりするなどのリスクは少ないです。
デメリット
- 入居要件が比較的厳しい
- 入居待ちが長くなっている
- 医療体制に限界がある
入居するための条件として、平成27年の法改正以降から原則的に要介護3以上であることが必要になっています。入居決定に当たっては申請の新着順ではなく、施設ごとに設置されている「入所判定会議」によって生活状況や介護依存度から総合的に決定されています。
要介護1~2の方でも特定の条件を満たせば入居申請をすることが可能ですが、要介護度が軽度の方は優先順位としてはかなり低くなります。
必然的に要介護度が高い方から優先順位が上位となります。
法改正以前から入所している場合を除いて、殆どいないと言っても過言ではないでしょう。
その費用の安さや手厚い介護などのメリットによって、特別養護老人ホームへの入所希望者は非常に多いです。100人単位で入居待機者がいる施設も少なくありません。
終身入所するのが殆どですので、つまりは入所者が死亡し退所する以外にベッドが回転することはありません。
また、昨今の人材不足から、上記の介護員及び看護職員に関する職員数を満たすことができずに空きベッドはあるものの、入居者数を制限している施設もあります。
入居申請してから数年待ちというケースも少なくないのが現状です。
看護師については24時間配置の義務がなく、また医師については常勤である必要はなく嘱託契約に留まっている場合が殆どです。
医療行為の対応についてはたん吸引や経管栄養、緊急時対応や突発的な応急処置、日勤帯での褥瘡対応などに限られている所が多いでしょう。
なかには特別養護老人ホームと言えども介護員の特定行為(たん吸引・経管栄養)に対応していない施設もあります。
そのため継続/日的な医療行為が必要な場合は受け入れが困難となる場合もあるようです。
特別養護老人ホームの費用について
最後に、特別養護老人ホームの入所に関して必要な費用について確認していきましょう。
居住費・食費
入所に当たっては、居住費や食費が介護保険負担部分以外に必要になります。
この居住費や食費は施設の建設コストや食材調達ルート、調理員の数などによって施設ごとに違いがあります。
入所を検討している施設に対し具体的に問い合わせした方がよいでしょう。
なお、先に少し触れましたが、所得に応じて居住費や食費を減免する「負担限度額認定制度」というものがあります。
段階に応じて、下記のように減免を受けることができるので合わせて確認しておいてください。
不明な点は、入所を検討している施設の生活相談員に確認しましょう。
介護保険負担額部分(1~3割)
介護保険負担部分は、居室タイプと利用者の要介護度によって違いがあります。
また、自己負担割合は被保険者の所得に応じて1~3割と幅があります。
ここでは、1ヵ月(30日)・自己負担割合1割の場合で計算していますので参考にしてください。
また特例として要介護1~2の方も入居できる可能性がありますので、要介護1の場合から計算しています。
各種加算
介護保険には、加算と呼ばれるオプションサービスのようなものがあります。
機能訓練など、特定のサービスを実施した場合に加算されるものと、人員配置や設備基準・介護員の処遇改善などの基準を満たした場合に自動的に算定される加算があります。
自己負担1割の場合で計算していますが、施設によって対応している加算が違います。
実際に入所を検討する際は、問い合わせて確認しましょう。
- 日常生活継続支援加算 36~46円/日
- 看護体制加算 4~13円/日
- 夜勤職員配置加算 13~33円/日
- 準ユニットケア加算 5円/日
- 生活機能向上連携加算 200円/月
- 個別機能訓練加算 12円/回
- 若年性認知症入所者受入加算 120円/月
- 常勤医師配置加算 25円/日
- 精神科医療養指導加算 5円/日
- 障害者生活支援体制加算 26~41円/日
- 初期加算 30円/日
- 再入所時栄養連携加算 400円
- 退所時等相談援助加算 400~500円
- 栄養マネジメント加算 14円/日
- 低栄養リスク改善加算 300円/月
- 経口移行加算 28円/日
- 経口維持加算 100~400円/月
- 口腔衛生管理体制加算 30円/月
- 口腔衛生管理加算 90円/月
- 療養食加算 6円/回
- 配置医師緊急時対応加算 650~1,300円/回
- 看取り介護加算 144~1,580円/日(死亡日から逆算して30日まで算定
- 在宅復帰支援機能加算 10円/日
- 在宅・入所相互利用加算 40円/日
- 認知症専門ケア加算 3~4円/日
- 認知症行動・心理症状緊急対応加算 200円/日
- 褥瘡マネジメント加算 10円/月
- 排泄支援加算 100円/月
- サービス提供体制強化加算 6~18円/日
- 介護職員処遇改善加算
)
その他費用
上記以外に、レクリエーションやクラブ活動、外出時にかかる費用、理美容代、身の回りの生活用品などにかかる費用は実費を自己負担となります。
まとめ
このように、特別養護老人ホームは入居難易度は高い一方、費用の安さや手厚い介護によって非常に人気の施設となっています。
従来型の施設の場合は2~4人が一部屋の多床室であり、プライバシー保護に関する課題や個別ケアが難しい状況もありますが、ユニットケアの推進によって個室対応や集団ケアからの脱却が進んできています。
入居の順番を待っている間は併設されているショートステイや居宅介護支援、デイサービス等の系列サービスを利用していると印象もよいため、早めに入居できる可能性もあります。
とにかく実際に入居するまでは数年かかる場合も少なくありませんので、入居を待っている間はどうしのぐか、切羽詰まる前から資金計画等立てておくと良さそうですね。