特別養護老人ホームの基準において、『3:1』という表現の言葉を聞いたことはないでしょか?
実は、特養で働いている職員の中でもこの意味を知らない人は少なくないと感じています。
私自身、特養に転職して3年になりますが、その間自身の施設の設備や運営・人員基準に係る詳細な説明は聞いたことがありません。
現場で働く職員にとっては、あまり基準に関する規定を知る機会はありませんし、知らなくても日々の業務はできてしまうものです。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか?
私は適切な介護のためには、そういった基準についてもしっかりと頭に入れておく必要があると考えています。
必要な決まり事だから法律で基準が決まっており、経営陣はそれを基礎として運営しているからです。
つまり、法定基準を元に日々の業務が定められ、実施されているのです。
それ以前に、自分が働いている施設の基本的な決まり事を知らずに働いているなんて、プロの介護員として恥ずかしい気持ちになりませんか?
そこで今回は、特別養護老人ホームの基本の“き”である各種基準について確認しておきましょう。
特別養護老人ホームの人員配置
介護保険法では、施設運営上の規制を「人員配置基準」「設備基準」「運営基準」の3つに分けて整理しています。
まずはどのような職種の職員を何人配置しなければならないのか、それを示した人員配置基準について解説します。
医師
「入所者の健康管理及び療養上の指導を行なう為に必要な人数の医師(非常勤でも可)を配置すること」とされています。
つまり最低1人は必要ですが、あとは規模や実情に応じて人数を増やしてね、という形です。
直接正社員として雇用する必要はなく、直接雇用であれば非常勤でも可。
もしくは外部委託することも可能です。
後者の嘱託医という仕組みを取っている特養が多い傾向があります。
管理者
常勤者を配置します。
必要な資格や実務経験としては、
- 社会福祉主事の要件を満たす者
- 社会福祉事業に2年以上従事した者
- 社会福祉施設長資格認定講習会を受講した者
となっています。
看護職員
看護職員の配置人数は次に掲げる通りです。
- 入所者が30人以下の場合は、常勤換算で1人以上配置。
- 入所者が31~50人の場合は、常勤換算で2人以上配置。
- 入所者が51~130人の場合は、常勤換算で3人以上配置。
- 入所者が131人以上の場合は、常勤換算で4人以上配置(入所者130人を超過する人数が50人を超える毎に更に1人以上加算)。
※常勤換算とは、勤務延べ時間数(=サービス提供に従事する合計時間数)をその事業所の一般常勤職員の所定労働時間(週32時間を下回る場合は32時間)で除して、非常勤職員又はパート職員の人数を一般常勤職員の人数に換算した数値です。
介護職員
看護職員又は介護職員を常勤換算で、入所者:職員=3:1以上の比率で配置することとされています。
つまり、入所者が90人いれば介護職員と看護職員の合計を常勤換算で30人以上になるように配置しなければならないということです。
ちなみに介護職員に必要な資格はありません。
無資格でも働くことができます。
しかし、当然ながら介護福祉士や実務経験修了者は即戦力ともなるため優遇されます。
栄養士
栄養士を1人以上配置すること。
通常の栄養士や管理栄養士どちらでもOKですが、管理栄養士がいることで算定できる加算もあるため、特に管理栄養士が求められています。
管理栄養士のもとに複数人の栄養士を配置する形が多いようです。
機能訓練指導員
機能訓練指導員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、准看護師、柔道整復師、按摩マッサージ指圧師)を1人以上配置することとされています。
私が勤める施設には機能訓練指導員として作業療法士が1人いますが、彼に聞いてみたところ特別養護老人ホームにリハビリ専門職である理学療法士や作業療法士を直接雇用で採用するのは稀で、看護師もしくは准看護師を機能訓練指導員として配置しているケースが多いとのことでした。
介護支援専門員
常勤の介護支援専門員(ケアマネジャー)を、入所者:介護支援専門員=100:1以上の比率で配置することを標準に、1人以上配置する必要があります。
ただし、入所者の処遇に支障がない場合は、当該施設の他の職務に従事することができます。
私の所属する施設では、専従で介護支援専門員業務を行うスタッフを1人配置し、あとはフロアごとに「介護支援専門員兼介護員」を配置し、介護員をやりながら担当フロアの利用者について補助的にケアマネ業務を行っています。
さすがに法律上100人まで1人の配置でいいと言われても、実際はかなり厳しいものがありますよね。
生活相談員
専従の生活相談員を、入所者100人あたり1人配置する必要があります。
特別養護老人ホームの中では、介護支援専門員と一緒に施設長に次ぐ立場となるケースが多いです。
生活相談員になるためには、
- 社会福祉士
- 精神保健福祉士
- 社会福祉主事
このいずれかが必要です。
もしくは自治体によっては、
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 介護福祉士(経験年数に指定がある場合あり)
- 特養等で、ケアプラン作成に関わる実務経験が1年以上ある方
- 老人福祉施設の施設長を経験した方
- その他(一定期間の介護職経験を有する等)
等を追加で勤務可能としている場合があります。
詳しく知りたい場合はお住いの自治体に確認してみましょう。
その他の職員
具体的に法律で規定されている職種ではありませんが、事務員や、夜間巡視をする宿直員、施設の設備を管理する営繕職、調理員、調理補助、掃除員、リネン担当職員等が配置されるケースが多いです。
人員基準の3:1の意味について
先ほどから説明している「介護職員と看護職員の合計を常勤換算で3:1の割合で配置する」ということの意味について説明しましょう。
常勤換算とは、「常勤職員の人数」+「(非常勤職員の勤務時間)÷(常勤職員が勤務すべき時間)」で求められる計算方法のことを言います。
常勤職員が勤務すべき時間は事業所により規定が違いますが、標準である週40時間だとすると、その計算例は以下のようになります。
Aさん週40時間(介護職員 常勤職員)
Bさん週40時間(看護職員 常勤職員)
Cさん週20時間(介護職員 非常勤職員)
Dさん週20時間(介護職員 非常勤職員)
Eさん週20時間(看護職員 非常勤職員)
2+{(20+20+20)÷40}=3.5 →つまり、この人員配置での常勤換算数は3.5となります。
人数的には5人いますが、この計算方法にすると配置人数は3.5人という考え方です。
これを当てはめると、入所者90人いれば介護職員と看護職員の常勤換算数の合計が30以上になるように配置するということです。
ですので、3:1の割合で配置すると言っても、入所者90人の事業所に24時間365日30人以上の職員がいるわけではありません。
この数字は目安になりますが、この数字だけではどの時間帯にどれだけ職員がいるのかを具体的に把握することはできません。
この点は労務管理上の専門的な考え方ですが誤解を招かないように覚えておきましょう。
設備基準について
特別養護老人ホームには、ユニット型個室・ユニット型個室的多床室(ユニット型準個室)・従来型個室・従来型多床室の4タイプがあります。
それぞれこの居室タイプごとに介護報酬が設定されています。
- ユニット型個室
- ユニット型個室的多床室(ユニット型準個室)
- 従来型個室
- 従来型多床室
基本は1室1ベッドの個室。
「ユニット」は、10人以下でロビー・ダイニング・簡易キッチン・浴室・トイレを共有して共同生活を送る小さなグループを指します。
1ユニットごとに専任の施設スタッフが担当することになっています。
ユニット型個室と異なる点は、多床室を改装・分割して作られた個室という点。
施設によっては完全な個室になっていない場合もあるため、入居前にしっかりと確認しておく必要があります。
1室を1人で利用するタイプの居室。
以前は単に「個室」と称していましたが、ユニット型個室が登場したことによって「従来型個室」と称することに。
1室に対して複数のベッドが配置されているタイプで、現在の多床室は4人部屋となっているケースが多いようです。
プライバシーなどの観点から、ユニット型個室に切り替える施設が増えてきています。
従来型
主な設備基準の概要は下記の通りです。
居室、食堂、機能訓練室、浴室、便所、洗面室、医務室、静養室、面談室、看護職員室及び介護職員室、調理室、洗濯室、汚物処理室、介護材料室、事務室などを有すること。
居室は、定員が4人以下で、1人当たりの床面積が10.65㎡以上あること。ベッド又はこれに代わる設備を備えること。
便所と洗面室は、居室の有る階毎に設置されていること。
廊下は、1.8m以上(中廊下は2.7m以上)の幅があること。
ユニット型
入居定員10人以下のユニット、共同生活室、浴室、医務室、調理室、洗濯室、汚物処理室、介護材料室、事務室などを有すること。
居室は、ユニット型個室の場合は床面積が13.2㎡以上あること。
また、従来居室を改修したユニット型準個室の場合は床面積が10.65㎡以上(2人部屋の場合は21.3㎡以上)あること。
ユニット毎に共同生活室(床面積は「2㎡×ユニットの入居定員」以上)が有ること。
便所と洗面室は、居室毎又は共同生活室毎に設置されていること。
廊下は、一部拡張により円滑な往来に支障が無い場合は1.5m以上(中廊下は1.8m以上)の幅があること。
運営基準について
特別養護老人ホームを運営する上で、“これだけは必ず守ってください”と指導されるルールが運営基準です。
他の基準と同様、これを満たさないと運営ができないばかりか、不備や不正が発覚した際は介護報酬の返金だけではなく社会的制裁も与えられる非常に重要な決まり事です。
利用者の安全・安心な生活を担保するために必要な最低限度の決まりごとです。
この運営基準を元に、さらに細かいルールが決められています。
適切な入浴、食事、日常生活支援などの提供が行なわれていること。
予め入所申込者に対してサービス選択に関する重要事項を説明し、同意を得た上でサービス提供を行なっていること。
入退所等のサービス提供の記録を入所者の被保険者証に記載すること。
現物給付以外のサービスに対して、内容・費用等を記載したサービス提供証明書を交付すること。
緊急やむを得ない場合に入所者の身体を拘束する場合は、その態様・時間・心身の状況・拘束の理由を記録すること。
入所者に応じた施設サービス計画が作成されていること。
まとめ
このように、特別養護老人ホームにおいての「3:1」とは、主に利用者に関わる介護職員や看護職員の配置人数を指定している数字であることが分かりました。
ただし“3人に対して1人の職員を配置する”という意味を持っていますが、これは実人数ではなく、常勤換算法という勤務時間数をベースにした計算方法で算出される数字を基準にしています。
また、人員配置以外にも設備やその運営方法に非常に厳格な基準が定められているのです。
今回ご紹介したのは、あくまで基本的な部分の決まりごとのみです。
実際にはそれぞれの職種による業務内容や整備すべき記録、介護保険法の法解釈を変更することによる実質的なルール変更の通達など様々な公文書があり、経営者はそれを熟読しかみ砕いて一般の介護職員等の業務に落とし込んでいるのです。
「なんでこんなことをしなきゃならないの?」と日々の業務で思ったら、ぜひ詳しく調べてみてください。
きっとそういう疑問を抱くこと自体が大切なのであり、ひいてはその疑問解決の積み重ねがキャリアップや利用者への還元につながっていくはずです。