特別養護老人ホームで働いていると、入所者に対して面会や差し入れをしたいという要望は日常的にあります。
入所者の家族や親戚・友人にとっては普段なかなか会えない入所者に対して差し入れをしたり、その際にその方が普段一緒に生活している人たちにお礼をしたいと考える方もいるでしょう。
その際に疑問に思ったことをスタッフに聞いて下さる方はよいのですが、実は意外とトラブルの原因になってしまうことがあります。
中には思わぬ事故となり、健康や命そのものに関わる事態になってしまうこともあるのです。
そこで今回は、特別養護老人ホームの入居者に対するお見舞いについて注意事項や留意点について、施設職員だからこそ分かるポイントについてご紹介していきます。
特別養護老人ホームへのお見舞い等は自由にできるのか?
特別養護老人ホーム入居者に対するお見舞いや面会は、基本的には自由です。
但し、入居者の体調や家族の希望、特別な事情などにより面会を制限する場合もあります。
お見舞い等に行く時間帯
面会可能時間については、病院と同じように施設によって違いがあります。
その施設で時間帯を指定し、入り口付近に明示している所が殆どです。
私が働いている施設では、10:00~17:00が面会可能時間です。
初めて施設に面会に行く際は、事前に電話して対応可能な時間を確認するのが無難です。
なお、入所者毎に決まった曜日と時間で入浴介助を行っている施設が多いですので、こちらも事前に確認しておけば待ちぼうけをすることがなくなるのでおススメです。
あまりに長時間面会を続けると入所者も疲れてしまうため、長くても30分程度にとどめておいた方がよいでしょう。
お見舞い等に行く曜日
曜日については、特段規制がない事業所が殆どです。
むしろ土日や祝日、連休などの際は面会に来る方が多いので、施設職員もそのつもりで行動しています。
ただし管理者や生活相談員、介護支援専門員など施設中枢の職員については土日は休みになっているケースが多いので、このような方たちに要件があって施設に赴く際は平日にした方がよいでしょう。
お見舞い等に行く頻度(回数)
頻度についても特に規制を設けていない施設が多いです。
特に近親者であれば、本人のみならず介護員の立場からも「しょっちゅう面会に来て下さる」ということで喜ばしいことと認識されています。
ただ、あまりに頻回だと入所者も疲れてしまうことが考えられるため、月に2~3回程度が無難です。
お見舞い等について制限を設ける場合
私は現在特別養護老人ホームで働いていますが、面会を制限していた例が数例あります。
可能な範囲でご紹介しましょう。
本人が面会を拒否している場合
特別養護老人ホームに入居できる要件として、要介護3以上であるというものがあります。
そのように要介護状態になってしまった自分を知人に見られたくないと考える方もいます。
その場合は本人の意向に沿って面会をお断りします。
シェルター目的で入居している場合
虐待の被害や金銭目的による犯罪行為の被害に遭い、居所自体を知られたくない利用者が入所してくることがあり、施設として当該入所者を守る必要があります。
詐欺の被害に遭っている場合や認知症状によっては、自身が被害者であると認識できていないことがあります。
その時は、スタッフ側にかん口令をしいて守る必要があります。
本人への面会ではなくても、たまたま近所の方が他の入居者に会いに来た際に鉢合わせてしまうこともあるので警戒する必要があるのです。
感染症拡大予防による場合
インフルエンザや感染性胃腸炎、疥癬などを発症し感染症拡大の恐れがある場合には、面会を制限する場合があります。
入所者本人は体調に問題ないとしても潜伏期間内である可能性もありますし、外部からの面会により感染してしまったり、ウイルスを媒介してしまったりする危険性があるからです。
体調が悪化している場合
何らかの体調不良によって面会に耐えられないと判断される場合や、看取り期に入っている場合は近親者や限られた友人しか面会させないでほしいと要望される場合があります。
認知症状による不穏状態を防ぐ目的の場合
認知症状により、特定の方と面と向かった際に興奮してしまったり、泣き出したりして感情を乱してしまう方もいます。
元気だった際に何らかのよくない思い出があり、それを思い出してしまうのでしょう。
そういった方がいる場合は、事前にご家族からの情報を元にその方の面会を断る対応を取ることがあります。
トラブルの原因となる場合
例えば入所者に面会しお金をせびりに来るドラ息子や、会うと必ず喧嘩になってしまう兄弟がいるから会わせないで欲しい…等と家族から要望がある場合があります。
本人ともよく相談の上、面会を断るようにします。
特別養護老人ホームにお見舞い等での差し入れは可能か?
差し入れについては、条件付きと言うことになります。
入所者の中には、通常の食形態では誤嚥するリスクがあったり、持病や飲んでいる薬の関係で摂取を禁じられている食材があったりします。
また、特定の飲食物に依存症がある場合もあるので注意です。
私が経験したところでは、5人ほどで苺をたくさん持って面会に来られた方が、その本人だけでなく周囲の人にまで配ってしまい、普段はミキサー食でないと摂取出来ない方がそれを食べてむせてしまうという事故がありました。
差し入れにふさわしいもの
その入所者が好きな食べ物・飲み物を知っていれば、それを差し入れるのが一番です。
アルコール類については、施設全体で禁止している場合もあるので事前に確認しましょう。
例えば普段遠方にいる近親者であれば、地場産のお菓子等も話に花が咲いて喜ばれます。
差し入れにふさわしくないもの
まず、一番ふさわしくない差し入れは現金です。
施設によっては介護員側で金銭を預かり管理しているところもありますが、職員のあずかり知らない所でお金の受け渡しがあった場合は、何かトラブルが起きた時に対応することができなくなってしまいます。
入所者同士の貸し借りによって更なるトラブルにもなりかねません。
また、同様の理由で高額の物品や飲食物についても避けて下さい。
食べ物の中では、生ものは止めましょう。
すぐ悪くなってしまいますし、介護員がそういった差し入れ品の品質管理まで行うことはできません。
差し入れをする際の留意点
差し入れをする際に注意するポイントですが、まずは必ず差し入れは施設の介護員を通じて行って下さい。
介護員があずかり知らないところで物品や飲食物の受け渡しがあり、それを原因としたトラブルや事故が起きたとしましょう。
仮に面会者の不注意によって起きた事故であっても、責任を問われるのは、施設側です。
迷惑をかけることになるので、差し入れを持ってきた際は必ず近くの介護員に確認して下さい。
健康状態や持病、飲んでいる薬によって、避けなければならない食材もあります(納豆、グレープフルーツジュースなどが有名)。
また、食物アレルギーの問題もあります。
嚥下や咀嚼の能力に応じて食形態を調整していることがありますので、その点にも注意が必要です。何気なしに渡したお菓子で誤嚥し命に関わる場合もあります。
更には、差し入れをするのは自身が面会する入所者のみとし、その分量も1人分だけにしましょう。
大量に渡された差し入れを入所者自身が周囲に配って上記の様な誤嚥事故に発展することがあります。
また、本人以外の入所者にも配ってしまうと「私はもらってない」「あの人だけずるい」などと優越感や劣等感を抱いてしまい、人間関係を崩してしまう原因ともなります。
まとめ
このように、特別養護老人ホームでは面会時間に一部制限はあるものの、日常の状態であれば基本的にいつでも面会は可能です。
ただし感染症の時期には面会そのものに制限がかかる場合があるので注意しましょう。
また面会のために施設に入る際は必ず手洗いうがいをし、外からウイルスを持ち込まないように配慮する心配りが必要です。
咳エチケットにも配慮し、体調が悪い時は面会は止めましょう。
差し入れを実施するさいは、事前に介護員に確認して本人が安全に摂取可能な飲食物が望ましいでしょう。
生ものや現金、多量のお菓子等の差し入れも止めましょう。
本人だけでなく周囲に配ったりするような行為はトラブル・事故の原因となり、最悪入所者の生命にも関わってしまいますので、控えて下さい。
せっかくの面会の時間です。
施設のルールや周囲の入所者との関係性にも気を配って、楽しい時間を過ごせるようにしましょうね。