身の回りのことに介助が必要な高齢者にとって、食事は楽しみの時間でもあります。
高齢者の食事の介助は、誤嚥などの事故が起こらないよう注意が必要です。
この記事では食事介助を安全に行う方法について詳しく解説します。
まずはおさえよう!高齢者の食事の特徴
高齢者は物を噛んだり飲み込んだりする力が弱く、適切に食事介助を行うためには、まず高齢者の食事の特徴を知っておく必要があります。
その① やわらかいものを好み、硬いものは苦手
高齢者は、歯や顎の力が落ちているため、しっかり噛まなくても食べられるやわらかい食材や料理を好むようになります。
また、のどの筋力が衰え、嚥下の力も低下するので、硬い食べ物はのどを通りにくくなります。
また、高齢者は加齢とともに唾液の分泌量が減少し、のど周辺の筋力も衰えるため、パンやビスケット、サツマイモなど、パサパサした食材を飲み込みづらくなります。
水気を多く含んだ食材やとろみのついた料理のほうがスムーズに食べられます。
その② 喉の渇きを感じにくい
高齢者になると、自分でのどの渇きを感じにくくなります。
そのため、高齢者が自ら水分を欲しがるタイミングを待っているだけでは、1日に必要な水分を摂取してもらうことができません。
小まめに水分補給を促しながら、飲んだ量を確認し、十分な水分を摂ってもらうよう心がける必要があります。
その③ 味付けの濃いものを好む
加齢とともに味覚や嗅覚は衰えていきます。
若い頃と比べて料理の甘さや辛さを感じにくくなるため、「味が薄い」と言って調味料を多量に使用したがったり、以前よりも濃い味付けを好んだりするようになります。
また、嗅覚が鈍くなることで、料理のおいしそうな匂いから食欲をそそられなくなり、食欲そのものが減退します。
その④ 胃もたれを起こしやすい
胃粘液の分泌量の減少や、腸の運動能力の低下により、消化機能が衰え、胃もたれや便秘が起こりやすくなります。これらも食欲不振を招く原因です。
食事の前の準備
食事前にはリラックスして食事に集中できる状態が理想です。
食事を始める前にしておきたい準備について説明します。
・排泄を済ませる
食事に集中してもらうために何よりも大切なのが、食事前に排泄を済ませてもらうことです。
途中でトイレに行くとなると、一旦食事を中断しなければなりません。
また、同室に設置されているポータブルトイレを使用する場合は、部屋の中に排泄物のニオイが残り、それ以上食事が進まなくなる可能性もあります。
あらかじめ便意や尿意がないかを必ず確認し、ポータブルトイレに排泄した場合はニオイの対策まで済ませてから、すっきりした状態で気持ち良く食事を始められるようにしましょう。
・食事しやすい環境を整える
テレビなどがついていると、ついそちらが気になり、食事に集中できない可能性が高まります。
食事を始める前にテレビは消しておきましょう。
あまりにも部屋が静かな状態では、緊張してしまう可能性がありますので、ゆったりとした音楽をかけ、リラックスできる環境をつくるのも効果的です。
・口の中を清潔にする
食事の直前に、うがいや歯磨きなどをして口の中を清潔にしておきましょう。
特に嚥下障害のある高齢者の場合、口の中に汚れが残っている状態で誤嚥してしまうと、細菌が気管に入り込み、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
また、食事前に口の中をきれいにし、舌苔なども取り除いておくことで、味を感じやすくなるだけでなく、唾液の分泌が活性化し、食べ物を飲み込みやすくなります。
・唾液の分泌を促すトレーニングをする
食べ物をのどに詰まらせたり、むせたりする回数が多くなると、食事に対して苦手意識を持つ可能性があります。
ものを食べる前に嚥下体操や口腔体操などを行い、スムーズに食べられるようにしてあげましょう。
・手を清潔にする
これは一般の人の食事でも当てはまることですが、風邪を予防するためにも食事前には手を洗いましょう。
認知症がある人などは、手で食べ物をつかんでしまうこともあります。
そのときの身体状況によっては、濡れタオルやウェットティッシュなどで手を拭いてあげましょう。
・安全な姿勢を確保する
肺炎の要因となる誤嚥を避けるためには、飲み込んだ食べ物が気管に入らないように注意する必要があります。
高齢者の状態に応じて、お腹や腰に力の入りやすい姿勢を確保してあげましょう。
・献立を説明する
自発的に「食べたい」と思ってもらうため、献立を説明し、食欲を刺激しましょう。
あらかじめ食べ物の好き嫌いを把握しておけば、苦手なものが入っていてもおいしく食べてもらえるように工夫したり、食べてもらう順番やタイミングを考えたりできます。
安全な食事介助の方法
その① 相手のペースに合わせる
嚥下機能が低下してくると、一度に飲み込める量が少なくなるため、ティースプーン1杯程度の量が望ましいです。
人によっては一口量や食べるペースなどに違いがあります。
その方一人ひとりのペースに合わせて介助を行いましょう。
その② 嚥下状態を確認しなら行なう
必ず飲み込んだことを確認してから次の一口を介助します。
嚥下反射は基本、喉の上下運動で確認しましょう。
嚥下反射がわかりにくかったり口の中に残っていることがあるので、時々、口の中も確認してください。
その③ 食事に適した姿勢を確保する
安全に食事をするためには食事の際の姿勢はとても重要です。
以下にテーブルと椅子(車椅子)で食事をする場合、リクライニング車椅子の場合、ベッドで食事をする場合の基本姿勢についてまとめます。
【テーブルと椅子(車椅子)で食事をする場合】
自力で座位を保てる人なら、なるべく椅子や車椅子に座って食事をしてもらうようにします。
椅子の高さは、深く腰掛けた状態で足が床にしっかりとついて、かつ膝が90度に曲がるくらいの位置がベストです。
テーブルの高さは、軽い前傾姿勢の状態で腕を乗せた際に、肘が90度に曲がるくらいが適切です。
車椅子を使用している人の場合、フットレストから足を下ろし、足は床に置くようにします。
足が浮いているか床についているかで、食べられる量が変わります。
【リクライニング車椅子の場合】
リクライニング車椅子を使用している人の場合、リクライニングの角度は椅子のときと同じように90度近くにすることが理想ですが、被介護者の状態や希望に合わせて45~80度くらいに保ちます。
膝は90度に曲げ、足はステップにしっかりと乗せます。
体が安定しないようであれば、背中や頭の後ろにクッションなどを入れます。
【ベッドで食事をする場合】
ベッドで食事をする場合も、リクライニング車椅子と同様、被介護者の身体状況や希望に合わせて、ギャッチアップの角度を45~80度くらいに保ちます。
この時、ベッドの位置と本人の体の位置が合っているか、ずり落ちていないか注意します。
膝は軽く曲げられるようにして、その下にクッションなどを挟む姿勢が楽になります。
首を安定させるために、首下から後頭部の辺りにクッションや枕を挟んでも良いです。
その④ トロミの加減に注意する
トロミの濃さは、被介護者の状態の変化に合わせて変えていかなければなりません。トロミは強ければ良いというわけではありません。
トロミが強過ぎると、飲んだものが胃に届くまでに時間がかかり、長い時間食道にとどまったままの飲み物は、誤嚥のリスクを高めます。
万が一、誤嚥性肺炎を起こしてしまった場合は大変です。
また飲み物やトロミ剤の種類によっては、時間が経ってから適当な硬さになるものもあります。
そのため混ぜた直後にトロミが弱すぎると思ってトロミ剤を追加してしまうと、後で硬くなりすぎてしまう可能性があります。
その⑤ 食事後の残渣物に注意する
食事後に口の中や消化器内にある消化しきる前の食事の食べかすのことを残渣物と言います。
高齢者の場合、噛む力や飲みこむ力が弱くなった、歯の磨き残し、入れ歯の隙間に残る、認知症で上手く飲み込めないなどが主な原因です。
この食後の残渣物があると、細菌が繁殖しやすく、誤嚥の際に食物残さだけではなく口腔内で繁殖した細菌も誤嚥してしまうので、誤嚥性肺炎のリスクも高くなります。
食後の残渣物をなくすため、食後の口腔ケアをしっかりと行う必要があります。
まとめ
この記事では食事介助について詳しく解説しました。以下にこの記事の内容についてまとめます。
高齢者の食事の特徴には以下のような特徴があります。
- やわらかいものを好み、硬いものは苦手
- 喉の渇きを感じにくい
- 味付けの濃いものを好む
- 胃もたれを起こしやすい
- 食事の前には、排泄を済ませる、食事しやすい環境を整える、口の中を清潔にする、唾液の分泌を促す、手を清潔にする、安全な姿勢を確保する、献立を説明するといった準備が重要です。
- 安全に食事介助を行うには、相手のペースに合わせる、嚥下状態を確認しなら行なう、食事に適した姿勢を確保する、トロミの加減に注意する、食事後の残渣物に注意するということが重要です。
食事の時間は、高齢者にとって「楽しみな時間」にもなれば「苦痛な時間」にもなり得ます。
特に障害などによって自由に出歩いたりできない高齢者にとって、食事の時間は生活の質を左右する大きなポイントです。
安全に美味しく食事ができ、それが生きる活力や前向きな気持ちに繋がるような食事介助ができると良いです。